アリシアと言う名の【鳥】
アリシアの歌声が柔らかく響く。ハーピー達には物珍しいのだろう、聴き惚れている者が多い。目に涙を浮かべている者もいる。
だが足りない。ハーピーの長、クィーンは腕を組み「この程度か」と言わんばかりの表情で聞いている。
『私』がこの後の展開を考えて頭を痛めていると、聞こえていた歌声が「変わった」。歌声や抑揚に変化があったわけではない、だが何かが「変わった」のだ。
『これは…、まさか?』
カイヴァンの、何かに気づいたような呟きが『私』の耳に届いた。
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「ねぇ~~龍っち? こういうことで良いでしょ? お願い~~!」
鏡子が、頑張って考え抜いたアイディアを、龍治にお願いしている。…はい、それ以上くっつかない!
「あ~~……う~~~ん、じゃあ今回はそういうことで。普通の戦闘ではこんなふうに使えないからね?」
龍治が仕方なくといった体で許可を出す。相変わらず甘いのか厳しいのか分かんないわね。
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唐突だが【吟遊詩人】という職業について説明しよう。
【吟遊詩人】とは、世界を巡り、知識を得、それを未だ見ぬ土地に届ける者。それ故「鳥」と呼ばれている。
だが、その為には「全て」が出来なくてはいけない。
戦い、走り、知恵をしぼる。何か一つ足りなくても、その鳥は遠くへ飛べまい。
そうやって旅を続け、ある程度の経験を積んだ鳥は悟る。自分には「魔術」を使う下地が出来ていたのだと。
もちろん専門的に学んだ【魔術師】とは比べ物にならない。いいとこ半人前だ。
それでも、それは鳥の翼を飛躍的に強化する。最早その鳥の行く先を遮ることは、誰にも出来ないだろう。
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さて、ここでアリシアという人物に意識を向けてみよう。
彼女は旅に出たての【吟遊詩人】で、訓練は終えているが実践経験はない。鳥としてはまだまだこれからのエルフだ。
そう「エルフ」なのだ。
人間から見たら、一国の興亡に相当する100年間という成人する迄の期間に、様々な知識を得、複数の言語を自在に操り、誰もが一人前の【魔術師】となるエルフ。
更に、種族的に魔術との親和性も高く、本来魔術を使う為に必要な身体的動作も不要という。
その容姿も相まって、エルフを羨む人間も多い。…その体のひ弱さに目をつむれば、だが。
話がそれたわね。要するにアリシアは只の【吟遊詩人】じゃないの。【エルフ】で【魔術師】な【吟遊詩人】なのよ。
それがどういうことかって言うと…
「歌に織り込まれた【チャーム】の呪文が、1階ホールに響きわたる。戦闘時であれば聞こうともしないだろうが、この歌勝負という場では覿面だったようだ。歌をじっくりと聞いてしまったハーピー達は、クィーンも含めて全員が感動で打ち震えている。だが君たち冒険者には影響がない。歌の途中で魔術に気づいたカイヴァンが、意識をしっかり保つように注意を促したからだろう」
龍治が「仕方ないか」って表情で描写する。って、本当にしょうがないじゃない! ハーピー30人も相手できないわよ!
「あ~~良かった~、カイ君と魔法が被らないようにしておいてホント良かったよ~」
鏡子が心底安堵する。あー、最初は【チャーム】じゃなくて【スリープ】にしようとしてたもんね。どうせなら違う方がいいかって言って、【吟遊詩人】だから【チャーム】にしようってなったんだっけ。こんな使い方するとは思わなかったけど。
ハーピークィーンが歩み寄って来て言う。
『感服した。相手の幸せを願う歌が、ここまで心に響くとはな。何か途中から脳に直接響いた気もするが…』
思わず視線を逸らす『私』とアリシア。大丈夫、バレてないバレてない。
『ともあれ、我が一族は其方の言うことを信じよう。人間の代表との交渉時には、是非仲介を頼みたい。ああ、もちろんこの男も返そう』
そう言って振り向くと、ハーピーの魅了が解けたのか、旦那さん(そういえば名前聞いてなかったわね)がこちらを向いて立ち上がる。
『冒険者の皆さん、助けてくれて有難うございます! いや、正直ずっと幸せな夢を見ていた気がして、ちょっと勿体ないなと思いますが(笑) 現実もこんな美しい女性達が迎えにきてくれるなら捨てたものではないでしょう。ははは!』
と言いながら、両手を広げてこちらに歩いてくる。全裸で。
………
『服を着ろ!』
ボコッという音の後、崩れ落ちる全裸男。
あああああ!? 思わず槌鉾で突っ込んでしまった! メディック! メディ―ーック!!(色々と錯乱中)




