彼女の実力
訓練場の一角で、武具を打ち合う音が響く。かれこれ数分間続いているだろうか。
『私』は多少息が上がってるが、相手はまだまだ余裕のようだ。エルフという種族は、総じて【耐久力】に欠けると聞いていたが、彼女は違うらしい。
加えて、戦い方も厄介だ。動作をほとんど阻害しない皮鎧を纏い、右手に刺突剣、左手に小型盾という、どう見ても軽装なのに、まるで全身鎧を着た戦士を相手にしている気がしてくる。
普通、打撃というのは【筋力】がメインとなる。重い武器を強い力で振り回し、遠心力で相手の装甲を貫通するのだ。
だが彼女は違う。相手の攻撃を最小限の動きでいなし、こちらの体勢が崩れたところを、高い【敏捷性】を活かして急所を刺突剣で突いてくるのだ。まさに【妙技】と言えよう。
結論を言おう。彼女、アリシアは『私』よりも強い。
「わ~い、また当たり♪」
「ぐっ…この、チクチクと…!」
「真輝ちゃん、そろそろ止めといたら?」
着替えを買った後、鏡子の希望の装備を整え(流石にミスリルやドラゴンの皮は却下したが)、一度戦闘の練習をしておこうという話になり、シャインと模擬戦をしていたのだ。
ちなみに今の二人の能力を比べると、
シャイン:HP14、AC16、近接命中修正+2
アリシア:HP14、AC16、近接命中修正±0(特技により+2)
と、数値上では完全に互角なのだが、結果はご覧の通りである。
「なんで2d10で14が出ないのよ! 鏡子はちょくちょく出してるのにー!」
「出ない時は、なかなか出ないからね…」
龍治のフォローが空しく響く。
「くっ…きょ、今日はこのくらいにしておいてあげるわ。シャインには、まだ前回の冒険の疲れがあったのよ、きっと」
「マキ、それだと光の神の神官じゃなくて、悪の組織の女幹部になっちゃうよ?」
だまらっしゃい。
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攻撃の切れ目に合わせ、大きく後ろに下がり、槌鉾を下ろす。
『ふぅ、今日はこのくらいにしておきましょう。…正直、勝てる気がしません』
言うと、アリシアも下がって刺突剣を下ろす。
『そう? 言うほど差はなかったと思うけど、疲れてた?』
自覚は無いが、疲れはあったかもしれない。だがそれを言い訳にしたくはない。
『いえ、どのみち動きに翻弄されたでしょう。見事なものです』
素直に賞賛する。一朝一夕で出来るものではない、成人するまでしっかりと訓練に励んだ賜物だろう。
『へへ~、じゃあ合格?』
にっこり笑って聞いてくる。言うまでもないけれど、直接自分で答えるのは少し悔しい気がしたので、観戦していた魔術師に話を振る。
『カイヴァン、どう見ますか?』
『は、確かに見事なものです。マスターと同等レベルの戦闘能力に加え、魔術師としての力量も私と互角…いえ、細かい動作をせずに呪文を使えることを考慮すると、私より上でしょう。皆がエルフを羨むのも分かりますな』
そう聞くと、アリシアは両手を腰に当て、不満そうに言い返す。
『む~、エルフがって言われるのはやだな。あたし、いっぱい頑張ったんだよ?』
言われて気付いたのか、カイヴァンが謝罪する。
『これは失礼。確かに種族ではなく、アリシア殿の努力あってこそでしょう。私からは文句ありませんが…お前たちはどう思う?』
と言って、同じく観戦していた戦士と盗賊に声をかける。
『俺は文句無いな』
『同じく。冒険中はお嬢と一緒に殿やってもらうのがいいんじゃないですかね。そうすりゃカイがいきなり襲われることもないでしょう』
確かに、これでパーティーの弱点が一つ減って…
『まあ冒険中にその立派な物が見えないのは残念…』
ブチン
『ディーン、構えなさい。次は貴方の番です。疲れたので手加減出来ないかもしれませんが安心なさい、ケガは治してあげます。気が向いたら』
フフッ、ディーンも成長しているから、1~2発クリーンヒットしたところで死には…
『あ…お、俺ギルドに何か情報入ってないか聞いてきやす! じゃあまた!』
言いつつダッシュで逃げていく。流石【敏捷性】17(レベルアップで+1)、あっという間に見えなくなる。チッ…
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夕暮れ時、街の中央広場まで戻り、仲間達(ディーン以外)に声をかける。
『お疲れ様、パーティーとしての活動は明日からということにしましょう。昼の鐘が鳴ったら…』
ふと気付いた。
「龍治、宿屋の名前ってなんだっけ?」
「…まだ決めてなかったね。何かいいのある?」
う~ん、と二人で悩んでると、鏡子がパンと手を打つ。
「宿屋でしょ? なら丁度いいのがあるじゃん」
『「良き眠り亭」に集まってください。ではまた明日』
そう言って別れる。『私』は神殿、カイヴァンとアリシアは魔術師の塔へ。カイヴァンは弟子として部屋を賜ってるし、アリシアはルシアと一緒に寝るとはしゃいでる。
『では主、ディーンには私から言っておきます』
と言ってローデリックは「良き眠り亭」に向かって去って行った。さて、明日からどうなっていくのやら…
期待と不安を半々に抱きつつ、『私』は神殿に帰っていった。
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「まさかネットカフェから取るとはねぇ…」
感心と呆れを同時にしつつ呟く。「快眠クラブ」→「良き眠り亭」とは、よく考えたものだ。
「歌って遊べて食べて飲んで、泊ることも出来る。まさに現代の宿屋じゃない♪」
「長期宿泊は嫌がられそうだけどね…」




