理想と現実(交友関係含む)
修正後の能力値をシャインと見比べてみると、鏡子のキャラの方が有能に見える気がする。…ま、まあシャインは2レベルだし? このくらいはハンデ(?)に丁度いい…
「あ、忘れてた。鏡子…ちゃんは2レベルスタートだね」
「……はいィ!?」
なんか変な声が私の口から出た。
「へ~、そうなんだ。マキのキャラと合わせる為?」
「いや、そう言う訳じゃなくて、エルフ…というか人間以外の種族には【種族レベル】というのがあるんだ」
「「なにそれ?」」
鏡子と私の声がハモる。…今日は多い気がするわね。
「えーと…二人とも、エルフって聞いて何を思い浮かべる?」
二人でしばし顔を見合わせ、思ったことを口に出していく。
「耳が長くて美人?」
「さっきの絵みたいに、歌が好き?」
すると、龍治は少し困った顔で、
「あ~…もっとゲーム的な意味で?」
ゲーム的…戦闘に関する事かしら?
「魔法が使えること?」
「あ、映画で見たエルフって弓が凄かったよ! 百発百中って感じ?」
「そうそう。逆に言うと、そうじゃないと「エルフらしくない」よね?」
確かに。全身金属鎧で、巨大な斧を振り回して「俺がエルフだ!」と言われても困る。
「だから特別な理由がない限り、エルフは最初から【魔術師】1レベルをもってて、どんな職業でも弓が使えるんだ。人間より寿命が長くて成人するのも遅いから、それまでの訓練に含まれてるという事かな?」
…理屈は分かる。けど、何ていうか、ちょっとずるい気がする。
そんな私の感情を察したのか、龍治がフォローを入れる。
「その代わり、2レベルになった時の能力値上昇が無くて、特技も2個のうちの1つが【魔術師呪文動作省略】に決まっちゃうんだ。エルフらしくなるけど、人間のような個性は出しにくいね」
う~ん、と考えてると、隣で鏡子がなにやら計算してる。
「1引いて2足して2足して、2引いて1足して……で、2レベルになった時の分が無いんだから…トータルだと人間と+1しか変わらないんだね。バランス取れてるんじゃない?」
あ、本当。それにエルフは【耐久力】も引かれてるから、HPもそんなに差は出なさそうね。…鏡子のキャラは別格だけれども。
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「………」
「………」
「………」
私たち三人は絶句していた。
特に、HPを決め、特技を決め、「次は買い物だね♪」と言いつつ3つのサイコロを振った鏡子は、振った姿勢のまま完全に硬直している。
「3d6で3って出るんだね…」
龍治の乾いた声が、私の部屋に寒々しく流れた。
「うん、まあ、うん。世の中お金だけじゃないらしいわよ?」
私のフォロー(?)が聞こえたのか、鏡子はぎこちなく顔をこちらに向け、
「マキ~…お金貸して?」
「…友達から一番聞きたくない言葉ね」
と答えると、
「ん~…じゃあ、頂戴?」
「もっと聞きたくないわよ!」
上には上があった。
「どうしようかな…「プレイヤー間の貸し借りは自由」って書いてあるけど、まだ二人は知り合ってないし…初対面でお金を貸すのも不自然だし…」
龍治が困っている。どうしたものやら…とりあえず、現状を確認するべきか。
「ねえ、鏡子。あんたはどんな物を買いたいの? 貸すにしたって限度があるし、絶対必要って物じゃなければ、後回しにするしかないでしょ?」
まずは、理想とどれくらい差があるのか調べてみよう。
すると鏡子は視線を上に上げ、顎に右の人差し指を当てて楽しそうに「語った」
「えっとね、しっかり胸を支えられる特注の皮鎧でしょ、色は薄緑がいいな♪ 武器はこのレイピアってやつ? フェンシングみたいで格好いいよね♪ でね、左手にちっちゃな盾もってて…あ、腕に付けるタイプの方が良いかな? 軽くて邪魔にならなくて硬いのがいいから、よく聞くミスリルってので♪ エルフらしく弓も持ちたいけど、大きいのは悪目立ちしそうだから、こっちの小さい方…ん? 隣のがしっかりした造りしてるね、じゃあこっちのコンポジット?で。あ、そうそう、あたし知ってるよ? モンスターによっては銀の武器じゃないとダメなんでしょ? だからこの銀の矢も要るよね、20本くらいでいい? あ、レイピアも銀の方が良いのかな? あとダガーとかもあると便利だよね。とっさの時にダーツを投げつけるのも格好いい……ってマキ聞いてる?」
途中からテーブルに突っ伏した私を責める権利は、誰にもないと思う。
それでも頑張ってガバッと顔を上げ、龍治に問う。
「…龍治、今ので幾ら位になる?」
「え、そこで僕に振るの?」
遠い目をしてこっちを見てた龍治が、色々観念した様子で鏡子に聞く。
「あ~~…鏡子ちゃん? とりあえず今ので全部ってことでいいかな?」
鏡子はキョトンとした顔で首を振り、
「ううん、全然? 【吟遊詩人】なんだから楽器も要るでしょ? 竪琴もいいけど、こっちのリュート?ってのも使ってみたいよね。あと旅するんなら靴はしっかりしたのが欲しいし、あたしってほら、背が高いから靴も大きくなっちゃって、中々良いの売ってないんよね。服も何着か欲しいし、下着も妥協したくないから、良い生地のをとりあえず一ヶ月分? ファンタジーなんだからマントも欲しいかな? ラノベでよくドラゴンの皮とか出るじゃない、あれで……って龍っち聞いてる?」
龍治が突っ伏したのは下着云々辺りだが、深くは問い詰めまい。男には分からない悩みだろうから。
それでも計算はしてたのか、しばらくすると龍治は顔を上げて答える。
「えーと、全部でざっと3000枚になります。…金貨で」
金貨ときたか。
「マキ、頂戴♪」
「私が欲しいわよ!!」
友達に「3000万円くれ」と言われて冷静でいられる人は少ないと思う。




