鏡子もやるって
「ん~~っ!」
開放感から、両手を横に広げて伸びをする。金曜日のHR後って、他の曜日とは一味違うわよね。
周囲に目を向けると、部活のある子は、それぞれ思い思いの表情を浮かべつつ教室を出ていく。見学は一通りしたけど、特に入りたいクラブってなかったのよね。活発なところは土日も潰されちゃうし。
さて、帰りましょうか。今日は特に用事もない…
(ぐにっ)
「マキ~、カラオケ行こ?」
「…まず私の頭に乗せた「これ」をどかしなさい、話はそれからよ」
「え~、だって置くのに丁度いいんだもん。ここまで合うのってなかなか無いよ?」
しるか、とっととどかせ。
「ちぇ~」
と言いつつ、一歩下がって私の頭から重量物をどかしたこの娘は御手洗 鏡子。背がちょっと高めで、胸は更に大きい。FとかGとか…何て言うの、世界が違う?
やりとりを見ていた男共がつぶやく。
「いいよな、女同士は」
「載せるより挟んで欲しい…」
「誰も居ない部屋で、加々美が泣くところまで読めた」
うっさい、特に3人目。
「今月もうお小遣い無いからダーメ。…はぁ、いっそバイトしようかしら」
うちの学校は、親と学校の許可を得ればアルバイトは自由だ。
「あ、それいい! 国道沿いのネットカフェでやってよ、そしてクーポン頂戴♪」
「……で、鏡子は私に何をしてくれるの?」
ん~~と少し考えた鏡子の一言。
「ひやかし?」
「来んな!」
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「えーと…何がどうしてこうなったのか、理由を聞きたいんだけど」
明けて土曜日、私の部屋。テーブルの上にはサイコロやキャラクターシート、お菓子やジュースが置かれており、ドラゴン・ファンタジーをやる準備が整っている。
そして、マスタースクリーン越しに聞いてくる龍治の向かいには、私と鏡子が座っていた。
「えっとね? 昨日鏡子が「じゃあマキって休日何すんの?」って聞いてきたから、ドラゴン・ファンタジーの事を話したのよ。そしたら…」
「面白そうだから、あたしもやる♪」
「…なるほど」
話が早くて助かるわ…
「じゃあ改めて、御手洗さん? 峯崎 龍治です、よろしく」
「鏡子でいいよ~、峯崎 龍治…龍っちって呼んでいい?」
「あ、うん。まあ、別に…」
龍治の戸惑い具合が半端ない、理系って予想外のトラブルに脆いわよね…
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「何すればいいの? チュートスキップして、お試しガチャ? 外れたらリセマラ?」
「…ソシャゲじゃないから、ガチャもリセマラもないの。…そうねぇ、まずはキャラクター作成からね」
そう言ってキャラクターシートを1枚渡す。
「ここの6種類の【能力値】をそれぞれサイコロを3個振って決めるの。次に、それを元にしてクラス…【職業】を選んで、それが自分の分身になるってわけ」
「サイコロで? 振り直しってあんの?」
そういえば、どうだったかしら? 自分でやった覚えはないので、龍治に視線を向ける。
「えーと「長所が全くなかったり、あっても他が低すぎる時は振り直しを認めるべき」って書いてある。後は真輝ちゃんみたいに自分に似せるなら、サイコロ使わなくてもいいけど」
「ふーん、それでもいいんだ。【筋力】【知力】……ねぇ、マキのキャラの【魅力】っていくつ?」
…………
「…19」
「ぷっ!? あはははははははははは!!」
「うっさ―――――――――い!!」
お腹を抱えて笑う鏡子。おにょれ…
「何それ、だってサイコロ3個で19っておかしいじゃん。チートラノベ? 異世界転生でもしたの?」
ぐぬぬぬ…
「レベル2になって【能力値】を1個上げてもいいってなったから、【魅力】を18から19にしたの! チートでも転生でもないから!」
「それでも最初18って、どうせ龍っちに泣き落しでもしたんでしょ? その場が想像出来るわ~」
くっ…言い返せない。龍治を見ると乾いた苦笑いしてる。フォローしなさいよ!
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「【筋力】…普通よりはあると思うけど、マキほどじゃないから…11でいいかな?」
「それくらいじゃない? でも鏡子って何か運動してたっけ? 部活には入ってないし」
結局、鏡子も自分に合わせる事にした。やっぱりこっちの方が愛着わくわよね。
「ふふ~ん、歌は体力勝負な所が有るからね。しっかり食べてしっかり動く、じゃないと声が伸びないよ?」
「…なら軽音部にでも…って、うちには無かったか。何か音楽系の部活に入った方が良いんじゃない?」
「ん~…軽音が有れば入ってたかもね~。あ~でも気の合う子じゃないと嫌だしな~…そうだ! マキ、バンド組も!? 龍っちも一緒に!」
「うえぇ!? 僕も!?」
むむむ、話が盛大にずれていく。ま、まあこういうのも会話型ゲームの良い所よね(ポジティブな逃避)
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「【知力】か~、これもマキのが上だよね。あ、でも国語なら勝てるかも?」
「あと音楽もね。でも大した差は無いし、こっちは同じ12にしておく?」
3人を比較すると、龍治が理数系、鏡子は文系に少し偏ってて、私は平均的と言う感じだ。
「そーする。偶数だと+がつくんでしょ? 何か得した気分」
「そこら辺感覚一緒ね。次は【信仰心】だけど、これは分かりやすく言うと意志の強さよ」
説明すると、鏡子が首をかしげる。
「ん~? 逆じゃない? なんでもかんでも神様に頼るのって、意志が弱い気がするけど」
むむ? そ、そう言われるとそんな気も…
「あ~…神様に頼るんじゃなくて、誓いを立てるって考えじゃないかな。それを守るために頑張るって感じで」
龍治のフォローが入る。うんうん。そっちよ、そっち(ブレ気味)
「そっちか~。で、マキは16? あ~確かに、マキってそんな感じだよね」
「え? これ決めたの龍治だけど、鏡子もそんなふうに思うの?」
自分では気づかないけど、他人からはそう見えるらしい。
「うん。他人には寛容だけど、自分の事は一度決めたらまっしぐらって感じ」
向かいで龍治がウンウン頷く。そ、そうかしら…
「だから力が入りすぎって事が多いよね。家庭科実習なんてもっと気楽にやればいいのに、納得できないとドンドン色々付け足すから、原型なくなっちゃったり」
向かいで龍治が力強くウンウン頷く。うっさ―――い!
「私のことはいいから! 結局鏡子はいくつにするの!?」
「ん~意志が弱いって気はないけど、マキほど物事こだわるって気もないから、これも12でいっかな」
とりあえず決まり。…なんかこっちに飛び火したけど。
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「【敏捷性】か~…こっちは自信無いな~」
そういえば、鏡子の体力測定の結果は芳しくなかった気がする。
「数字は良くなかったわよね。やればもっと出来ると思うけど、何か理由あるの?」
すると、鏡子は龍治にチラと視線を向けた後、少し言いづらそうに話す。
「ん~~…全力でやると、胸が揺れて痛いのよ。反復横跳びとか、もう最悪?」
…そういう理由か。こら龍治、赤くなってんじゃないわよ。
「…ごめん、分かんない。あ、でもこのゲームは手先の器用さも兼ねてるのよ。それなら問題なくない?」
答えて鏡子にフォローを流す。…別に話を早く切り上げたかった訳ではない。…本当よ?
「え? あ~、だからマキのキャラ9なんだ。足速いのに不思議だった」
納得された。…深くは考えまい。
「そっか~、ならオッケーだよ。足の方は8くらいかもだけど、手の方は15くらい自信あるし。こういう場合ってどうすんの?」
「私は間を取って9にしたわ。だから、鏡子だと…11か12?」
「じゃあ、やっぱり12かな。…ん? でもマキ、マキの足と平均とって9ってやばくない? どんだけ手先ダメなのよ」
「うっさ―――い!」
だから何で一々こっちに飛び火すんのよ!
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「【耐久力】って、どれだけ健康かってことだよね。それならバッチリよ、あたし学校休んだことないし」
「風邪一つひかない、っていいわよね。どんな生活してんのよ」
私も別に学校嫌いじゃないけど、鏡子は本当学校楽しそうに来てる。悩みがなさそうと言われるのが悩み、みたいな?
「別に~? ちゃんと食べてちゃんと動いて、お風呂入ってしっかり寝る。これだけだよ?」
それで病気にならないなら、国中もっと健康な人で溢れてそうな…あ、社会人には不規則な生活の人も多いって聞くわね、そうもいかないか。
「何かあるとしたらカラオケかな? 月一でもお腹の底から声出して歌うとすっごくスッキリするよ、ホントお勧め?」
「ふーむ。一理ありそうだけど、お小遣い的にちょくちょくカラオケ行くのは大変なのよ。やっぱりバイトかなぁ」
「え、真輝ちゃんアルバイトするの?」
聞いてた龍治が食いついてきた。
「それもありかなって話。やっぱり自由になるお金って魅力よねぇ」
お父さんとか見てると、働くって大変なんだろうけど、得られるものもきっと多いと思う。
「するなら国道沿いのネットカフェでクーポンを…」
「鏡子と同じこと言ってんじゃないわよ! 欲しけりゃ自分でやんなさい!」
どいつもこいつも…ちなみに【耐久力】は最高の18に決まった。あれだけ自信あるならいいでしょ。
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「【魅力】…19…ぷぷっ♪」
「はいそこ、うっさい。…で、いくつにする?」
投げやり気味に聞くと、鏡子は龍治に視線を送り、腕を組む。…というか腕に胸を載せる? おいまて…
「じゃあ龍っち、あたしの【魅力】っていくつかな?♪」
「じゅ、16?」
「こら―――――っ!」
なんで私の時より全然高いのよ!?
「はっ!? 口が勝手に…?」
「ぷっ、あははははははは♪」
呆然とした龍治と笑いまくる鏡子。おにょれ…(本日2回目)
「じゃあ、それでいいや。人の評価は素直に受けないとね~♪」
ぐぬぬぬ…(こっちも2回目)
結局、能力値はこんな感じ。…龍治は後で折檻ね!
筋力 :11(±0)
知力 :12(+1)
信仰心:12(+1)
敏捷性:12(+1)
耐久力:18(+4)
魅力 :16(+3)




