それぞれの学び
宿屋の一室。粗末なテーブルの上に、カゴに入れられたリンゴが一つある。
『これが1。ここにもう一つリンゴを入れると2となる。式で表すと「1+1=2」もしくは「1×2=2」ということだな。分かったか?』
魔術師が、もう一つのリンゴを入れつつ言う。
『1個しかないぞ?(モシャモシャ)』
……あれ?
『教材食ってんじゃねーよ! 1+1と1×2が1になっちまったじゃねーか! 算数やってんだよ! 哲学じゃねーんだぞ!!』
魔術師が激昂して叫ぶ。それを受けた戦士は、もう一つのリンゴを持ち、ゆらりと立ち上がる。
『あんまり俺を馬鹿にすんなよ、カイ』
『…なに?』
リンゴを前に差し出し、言い放つ。
『これは「教材」じゃあない、「果物」って言うんだ!』
『切り返しが小賢しいんだよ! お前やっぱり分かって言ってるだろう!!』
そして始まる取っ組み合いの喧嘩。脇で見ていた盗賊が『私』に声をかける。
『お嬢、俺こういうの知ってるぜ。「ヌカに釘」って言うんだろ?』
『…博識ですね、ディーン』
喧嘩はどうなったかって? 魔術師が戦士に勝てるわけないでしょ。勝って雄叫びを上げていたローデリックが、宿屋を追い出されそうになったのはまた別の話ね。
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「じゃあ、他の3人のも考えようか。どれから行く?」
「ん~~…、取りあえず住んでる場所と、普段何をしているか位でいいかしら。あまり細かく決めても融通きかなさそうだし」
子供は居ないと言って死んだのに、続編で子供出しちゃったりとかね。何の漫画だったかしら?
「了解。じゃあ住所から……中世って戸籍とかあるのかな?」
「さぁ? でも無いと税金とか集めるの大変そうよね」
どっちにしても払うけど(シクシク)
「ローデリックは…イーストエンドの近くにある小さな村出身の青年で、立身出世を夢見て街に来たってところかしら。だから住んでるのは宿屋で、普段は訓練所で訓練とか?」
適当に並べてみる。我ながら、なんの捻りもない。
「所持金が絶賛マイナス中なんだけど…」
「あ、そういえばそうだった。まあ貸したのはカイヴァンだから待ってもらうとして(無情)…でも【知力】5のローデリックが一人で宿屋暮らしなんて、大丈夫かしら? 不安しかないわ」
「宿代は馬小屋に泊まればタダだけど、食事代は別だから、結局お金の管理は必要だね。どうする?」
う~ん、こういう時は…あ、そうだ!
「ディーンも宿屋住まいにして、二人部屋ってことで! ついでに金勘定に疎いローデリックの管理もしてもらえば完璧じゃない?」
「盗賊にお金の管理を任せちゃっていいのかなぁ……まあ大丈夫か、ルールブックにも「仲間からは滅多に盗らない」って書いてあるし」
「滅多にって…たまに盗るの!? 仲間内でそんなことしてたらゲームにならなくない!?」
ゲームを楽しむどころか、友人関係が終わりそうな案件ではないだろうか。
「昔はよくあったらしいよ? 隙あらば仲間の財布を狙ったり、シナリオで重要なNPCにいきなり攻撃して殺しちゃったり、何億円もする宝石を探すクエストで、宝石を持ち逃げしたり…」
TRPG業界って大丈夫なの? あ…ダメだったから一度廃れたって、お父さん言ってたわね…
「心配ならディーンじゃなくてカイヴァンに管理させる? その場合、喧嘩の頻度が増えそうだけど」
「う~~ん、カイヴァンはもうイメージが出来ちゃってるのよね。「全てを知る者」大魔導士ルシアの一番弟子で、ルシアの住む魔術師の塔の一室を賜って、師匠を手伝いながら魔術の研鑽に励んでる、っていう感じ? だから宿屋住まいってのはちょっとねぇ」
ちょっと考えただけで情景が目に浮かぶ。憧れの先生と共に勉学に励む気高い青年。うんうん、良い感じ! …喧嘩は弱いけど。
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『ではディーン、頼みますね?』
『へいへい。あいつは腕っ節はあるけど、他はさっぱりですからね。きっちり預かっときやすよ。お代は毎晩の酒を一杯追加って辺りで』
ローデリックの分の報酬が入った布袋を持ち、ディーンが笑みを浮かべる。金勘定の出来ない人に、大金を持たせておく訳にはいかないだろう。
結局、ディーンがローデリックの財布を預かることになった。神殿住まいの『私』や、魔術師の塔に住んでるカイヴァンでは、咄嗟の対応が出来ないという判断からだ。カイヴァンからは心配する声も出ているが、『私』はそうは思わない。
『ロー、飯食いにいこうぜ』
『おお、そういえば腹が減ったな』
『あんまり食いすぎんなよ? 腸詰め「4本」は多いから「3本」にしとけ』
『ん? そうなのか。まあ、お前の言うことに間違いはないからな。任せる』
分かりやすく指を使って数を表している。共に冒険を乗り越えた「仲間」達だ、上手くやっていけるだろう。
『さて、と』
階下に向かう二人を見送って、部屋に戻り『私』は床に目を向ける。視線の先にはのびた魔術師がピクピク震えている。
『…頭は良いのに、なんでこの結果が読めないのかしらね』
『私』は半ば呆れつつ、魔術師の介抱をするのであった。




