『私』の就活
能力値が決まり、これで『私』の土台ができた。我ながら、なかなか優秀なのではないだろうか。
「職業はどれにする? 能力値的には何でもできるけど」
これはもう、悩む所なんてない。
「私自身がなるなら、もちろん神官よ! 清く優しく儚く美しく、皆に守られながら奇跡を振りまく神の使徒! さあ皆、私を崇めなさい!」
「…神様より偉そうだね。でも真輝ちゃん、このゲームの神官っていわゆる神官戦士なんだけど」
「え?…こういうのじゃないの?」
ゲーム雑誌をパラパラと捲り、ファンタジーRPGのイラストを探し出す。そこには薄めの神官衣を纏い、聖印を掲げた女神官が描かれている。
「えーと、回復とか防御の魔法が使えるのは一緒なんだけど、戦士と同じように全ての防具を装備出来て、戦闘の時にはパーティを守る壁役になるって…」
「…儚くないの?」
「…むしろ肉体派?」
………
「あ、あ、で、でも真輝ちゃん!? 普段は神官衣着れば大丈夫だよ! 日常では儚げで、いざとなったら頼れる子って素敵じゃないかな!?」
気落ちした私を見かねて、龍治が懸命のフォローをする。
「そ、そうね。ギャップ萌えっていうのもありよね」
…とりあえず『私』は神官戦士になったらしい。
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私は、8面体という珍しい形のサイコロを握りしめ、必死に念を送っている。
「真輝ちゃーん、そんなに気合い入れても結果は変わらないと思うんだけど」
うっさい。何せこれから振るサイコロは『私』のHP、文字通り生命力を決めるものなのだ。これが1に近いか8に近いかで『私』の生存率は格段に変わる。存分に気合いを入れてほしい。
「神様、今初めて真剣に祈ります! 出来たら8、少なくとも6以上、2とか1は勘弁してください、ていっ!(コロコロ)」
盛大に転がった後、サイコロは6の面を上にして止まった。
「6だね。耐久力の修正は無いから6のまま、と」
「ありがとう神様! 私、神様信じて良かったです!」
「あ、うん。サイコロ1個でここまで感謝されるなら、神様も本望かもね…」
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今度は普通のサイコロ3個を握り、さっきと同等、いやそれ以上の念を込める。
「神様さっきはありがとうございます。ついでと言っては何ですがこっちもお願いします、私はチェインメイルが欲しいんです! てやっ!(コロコロコロ)」
「神様忙しそうだなぁ…」
さっきよりは慎ましく転がり、3,4,6の数字を上にして制止する。
「合計13。出目の100倍の銀貨だから1300枚だね。かなり良いんじゃない?」
「チェインメイルは銀貨700枚…余裕で買える。いっそ、もう1ランク上のスプリントメイルでも…ふふっ。…はっ? ダメよ真輝、お金は大事にしないと…!」
「おーい、真輝ちゃーん、聞いてるー?」
神様ありがとうございます。『私』からも感謝します。
こうして『私』の職業、HP、装備が決まった。
職業:神官戦士 HP:6 AC:16 移動力:6
近接命中修正+1 飛び道具命中修正±0 手投げ武器命中修正+1
装備
右手:メイス…ダメージ1d6(+1)
左手:シールド…AC+1
防具:チェインメイル…AC+5
飛び道具:スリング…ダメージ1d4
その他の所持品
聖印
背負い袋
スリング用石×10
水筒×1
袋(大)×1
袋(小)×2
ほくち箱
松明×6
残金:銀貨68枚、銅貨5枚
補足:1d6というのは「6面体サイコロを1回振る」という意味です。