「力」の理由
前言撤回。
「ね、ねぇ龍治?」
「ん、決まった?」
ぐ…
「ちょ、ちょーっとアドバイスが欲しいかな、なんて…」
こっちを見る龍治の視線が痛い。しょうがないじゃない! 神官の1レベル呪文は6種類だけど、魔術師は9種類もあるんだから!
「はぁ…どっちの呪文? シャイン? カイヴァン?」
「…シャインは残り4種類だったから早かったんだけど、カイヴァンが…」
「了解。じゃあ見てみようか」
魔術師呪文1レベル
スリープ(習得済み):2d6レベルまでの生物を眠らせる。5×5マス。
5レベル以上のモンスターには無効
マジック・ミサイル :1d8のダメージを与える魔法の矢。
奇数レベルで1本追加
ライト :6時間の松明程度の明かり。
生物の頭部にかけた場合失明。
シールド :自身のAC+2。
敵からのマジック・ミサイルを無効化
ディテクト・マジック:視界内の魔力を感知する。
チャーム :人型の生物を魅了する。持続時間1週間。
1日毎に抵抗判定できる。
アーマー :自身のAC+2。6時間持続
アイデンティファイ :一つのアイテムを鑑定できる。
リード・ランゲージ :知らない言語を読める。1時間持続
読解はできるが会話はできない。
「絶対に命中する【マジック・ミサイル】はいざという時の切り札になるでしょ? でも防御力に不安のあるカイヴァンとしては【アーマー】も【シールド】も捨てがたいし、【ディテクト・マジック】は迷宮探索には必須よね? 敵から情報を得るには【チャーム】があったら便利だろうし、無駄かもしれないけど指輪とペンダントを【アイデンティファイ】で鑑定するべきかも? あ、でも勉強好きのカイヴァンだったら【ライト】も【リード・ランゲージ】もあり得るし…」
「…つまり全部欲しいと」
「う…。だ、だって魔術師はレベル上がるの遅いから、せっかくの機会を無駄にしちゃいけないかなって…」
そう言って両の人差し指を突き合わせる。カイヴァンの経験値は1175、レベルアップに必要な2500の半分にも満たない。次のシナリオをクリアしても微妙なところだ。
「うーん…とりあえず、今必要なのでいいんじゃないかな? 宝物で巻物が手に入るかもしれないし」
魔術師は、巻物から呪文を自分の魔術書に書き写すことにより、レパートリーを増やす事が出来る。…が、
「宝物って…あの表の確率を超えろってこと?」
何千分の一…いや、欲しい呪文に絞るなら何万分の一になるのやら…
「あ~…、じゃあシナリオの報酬で依頼主から貰うとか? 魔術師ならくれるんじゃない?」
むぅ…そこら辺は話の流れによるか。
「必要な呪文ね…戦闘は【スリープ】が有ればとりあえず良しとして、【ライト】はシャインが使えるし、【リード・ランゲージ】は今すぐ要るってものじゃない。とすると【ディテクト・マジック】か【アイデンティファイ】のどちらかか…」
冒険中に必要なのは【ディテクト・マジック】かな? 【アイデンティファイ】はNPCに頼んでも…って、あれ?
「ねぇ龍治、【アイデンティファイ】を誰かに頼むとして、幾ら掛かるの? タダじゃないわよね?」
世の中誰かに仕事を頼むにはお金がかかる。タダや不当な値切りはお互い不幸にするだけだ、ってお父さんが言ってた。
「うん、もちろん。確かこっちのサプリメントに…(ペラペラ)」
龍治のゲームの理解度が順調に深まっている。…時間を提供したのは私だけど。
「えーと「呪文レベルの2乗×100枚の銀貨」かかるって書いてあるから、1レベルの【アイデンティファイ】なら銀貨100枚だね」
「銀貨100枚…ってことは10万円!? 1レベル呪文1回で!? …ぼったくりじゃないの?」
と言うと、龍治はキョトンとした顔で
「そうかな? 現実で例えると神官は医者で、魔術師は博士号取得した学者みたいなものだから、そんな人達に仕事を頼むとしたらそれくらい掛かるんじゃない?」
む、確かにそう言われると…中世には国民皆保険なんて無いだろうし…あ、
「それってシャインにも該当するの? 道端で怪我してる人がいたら、治して銀貨100枚貰っちゃっていいの?」
想像するとちょっと何かな? 道行く人がお金に見えちゃいそうで嫌かも。
「ん~…真輝ちゃんが医者や看護師だったらどうする?」
「私?」
「RPGだからね。特にシャインは真輝ちゃんに似せてあるし」
私が看護師だったら、か。…ん~
「そうねぇ…まず出歩く時はちょっとした応急手当てが出来るような物を持ち歩くでしょうね。具合が悪い人を見かけたら手当てして、特にお金はいらないかな?」
問題は、それじゃ済まない時か。ん~~…
「症状が酷いなら救急車呼ぶし、経過を見なくちゃいけないなら何か連絡先…あ、名刺ってこういう時に使うのかしら? を渡して後で病院に来てもらうとか?」
あとは…その人にお金が有るかどうかか。
「お金が有るなら払ってもらうし、無いならしょうがない? …でもそれでお金が無い人ばかりが病院に来たらどうしよう…正直に患者に伝えて、最低限の処置だけして終わり? それで納得してくれるかな…でも病院が潰れちゃったら、それこそ大問題だし…」
なんか問題が逸れてきたような…でも考えが止まらない。
「最低限の処置だって、医者が診る以上タダとは言えないし…そもそも医者になるのに幾ら掛かるのよ…国立大ならともかく私立だと何千万?…それ言ったら看護師だって専門学校か大学出なくちゃ…あれ? 応急手当の道具だってタダじゃないし…?」
思考の袋小路に陥った私に、龍治が声をかける。
「それくらいで。要約すると「無理のない範囲で助ける」ってことだよね? それをそのままシャインに当て嵌めればいいんじゃないかな」
「なるほど。じゃあシャインが怪我した人を見かけたら…軽ければ【応急手当】、酷ければ【ヒーリングI】の呪文を使って、光の神の神殿を紹介しておく、と。料金…この場合はお布施? を貰うのはその時で、助けたその時には特に要求しないってことになるかしら」
「そんな感じ?…って遺跡でシャインが商人を助けた時そのままだね」
あ! 言われてみれば確かに。
「なんだ、自然にロールプレイ出来てたのね」
何か嬉しい。自分とシャインというキャラクターが重なったって感じ?
「え~と、話を戻すけど。カイヴァンの呪文をどうするか、だったよね? 同じ様にカイヴァンの気持ちで考えればいいんじゃないかな?」
カイヴァンの気持ち…勉強好き、気が利く、ちょい鈍い、エルフ好き(?) 貯金が趣味(使うのは他人)
「ん~…【ディテクト・マジック】の有効性は分かっていても、【アイデンティファイ】を取るんじゃないかしら? 冒険に出ないときの収入にもなるし…ていうか、見習い時代にこれで稼いでたんじゃない?」
「キャラ作成時の所持金の理由が付いたね」
人生(?)何が影響するかわからない。
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という訳で、カイヴァンに指輪を鑑定して貰ったのである。…結果は散々だったが。
『あ、マスター。鑑定代は銀貨100枚になります』
金取るんかい。
『ツケておいてください。…ローデリックに』
『御意』
『なにィ!?』
注:パーティ内で料金は発生しません。




