光の神の加護
輝きが静まった後は、まるで違う世界の様だった。
今までは松明とランタンという頼りない光源だったため、ろくに見えなかった礼拝堂の細部がよく見える。絨毯の模様や痛み具合、壁に描かれた竜の壁画。そして、戦っていたゴブリン達が目を抑えて床で転げまわっている姿!
それら全てを照らし出しているのは、中空に浮かび、まるで太陽のように白く輝く光の玉だった。
「シャインには分かる。その光の玉は、高位の神官しか使えない呪文【トゥルー・ライト】だ。…まあ、厳密に言うと魔術師も使えるんだけどね」
龍治が状況を説明する。…そこらへんの小さな差異は置いといて、
「え~と、これは指輪の隠された能力ってことでいいのかしら…?」
ちょっとご都合主義な気もするけど、絶体絶命のピンチだったのだから、あまり文句は言うまい。
「うん。本当はきちんと鑑定してからにするべきなんだけど、いつになるか分からないってのもあるし…」
う、確かに。こんな曰くつきの指輪の鑑定なんて、いつになることやら…
『ここだ!【スリープ】!』
カイヴァンの声が響く。確かに、左右のゴブリンが近寄っていて、更に目をくらましているこの状況は絶好のタイミングだろう。転げまわっていたゴブリン、そして狼までもが動きを止めて寝息を立て始める。
倒れていく手下達を見て、奇妙なゴブリンが慌てふためく。そこを見逃すほど私達は甘くない!
『でやぁっ!』
『喰らえっ!』
ローデリックが改めて準備した手斧を投げ、ディーンがつがえ直した矢を放つ!
「(コロコロ、コロコロ)あら、5と7? えーと…ハンドアックスはジャベリンに比べて射程が短いから…AC7と10までなんだけど、当たる…?」
恐る恐る聞くと、龍治は実に微妙な表情で…
「……勝負を焦り、力んだのか。二人の放った攻撃は奇妙なゴブリンをかすめて奥の壁に突き立つ。それを見て完全に心が折れたのか、奇妙なゴブリンはなにやら叫びながら奥に消えていく。シャイン達の位置からは見えなかったが、どうやら祭壇の奥の壁に地下へと続く階段があったようだ。今までの通路とは違い、半分くらいの幅しかない。武器を振ることを考えると、せいぜい一人が限界だろう」
「…要は二人とも外して逃げられた、ってことよね。何を叫んでたかカイヴァンに分かる?」
『…「助けてください、ご主人様?」 マスター、まだ何か奥にいるようです。どうしますか?』
魔術師に問われたが、放置するわけにはいくまい。せめてその「何か」を確認しなくては。
『追います。皆、準備を整えてください。…それと』
寝ているゴブリン達を見やる。すると、
『俺とローでやりやすよ。お嬢とカイは警戒と、散らばった装備の回収をお願いしやす』
『…ありがとう』
すっかり気を遣わせてしまってる。『私』は彼らの満足する主でいられるだろうか。
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ゴブリンの処理を終え、ランタンに油を補充し、松明を新たに点け直す。それらを手際よく行えたのは、今なお煌々と光る【トゥルー・ライト】の光のおかげだ。光の神に感謝の祈りを捧げ、気持ちを新たにする。
「そういえば、これって消せるの?」
「え~と(ペラペラ)持続時間:永遠ってあるだけで、消し方は書いてないね。【ディスペル・マジック】で消すしかないのかな? 使い手が自由に消せるって事にすると他の呪文との兼ね合いがあるし…」
【ライト】も消せなかったしね…
『しっかし、こいつは明るくていいな』
『盗賊としては明るすぎってくらいだけどな』
『私もマスターもまだこの呪文は使えないから詳しくは分からんが、永遠に輝くらしいぞ? フッ、まあこの世に『永遠』とやらが存在するのか分からんが…』
魔術師が自嘲気味に呟く。
『それは分かりません。ただ、今を生きる我々は、あるものを最大限に使って生き抜くだけです。その積み重ねが後の世に『歴史』となるのでしょう』
そして改めて皆を見渡し、声をかける。
『では追撃を開始します。逃げ道に罠があるとは考えにくいですが、慎重に進みましょう』
こくりと頷く従者達。そしてディーンを先頭に祭壇裏の階段を下りていく…
「てっきりボス戦だと思ったけど、違うのね。いっそ一度引き返した方がいいのかしら?」
「ん~…詳しくは言えないけど、大丈夫だと思うよ?」
ふーん、何か居ても戦闘にはならないってことかな? 次のシナリオに繋がるイベントかしら。
階段になっていたのは十段ほどで、そこから先は緩やかに下る自然洞窟だった。…それにしても長い、体感で30分くらいだろうか? 緩やかとはいえ、これだけ下っているということは、『私』達は今、かなり地下深くまで潜っていることに…言いようのない不安が募る。
「ずいぶん時間かかるのね。現実で30分も歩いたら2~3km歩けちゃわない?」
ウォーキングでそのくらいだし、ジョギングだと更に倍はいける。全力なら…8kmくらいかな?
「そりゃ知ってる道を荷物も無しにただ歩くならね。「冒険者の探索は、色々調べたり警戒したり、地図書いたり途中で休んだりして進むから、かなり時間かかる」って書いてあるよ?」
「そっか…しかも鎧着て武器と盾を持って荷物を背負ってるんだから、軽いウォーキングどころか軍隊の行軍演習並みよね…」
考えただけで、何か疲れた気がする。
「いやいや、実際にモンスターが襲ってくるんだから、「演習」じゃなくて普通の「行軍」だね」
「なお悪いわよ!」
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先頭を歩くディーンが、すっと右手を横に上げ、歩を止める。
『どうやら終点のようですぜ』
見ると、ランタンに照らし出された床が、傾斜ではなく平坦になっている。通路の幅も広くなっているようだ。
『ディーン、下がってください。皆、隊列を整えて、然る後突入します』
頷き、列を整える。パーティを組んで間もないが、様になってきた気がする。
『行きます!』
号令し、突入した遺跡の最深部は、違う世界だった。




