いざ、決戦!
ついにこの時が来た。
左右の部屋は確認した。囚われていた商人は開放し、遺跡の外に送りだした。戦闘に支障が出ない程度の宝も手に入れ、もはや後顧の憂いは無い。
今、私達の目の前には、遺跡の奥に続く通路を塞ぐ、大きな両開きの鉄製のドアがあった。
『お嬢、罠は無いですぜ』
扉を調べていたディーンの言葉に頷き、ローデリックに促す。
『では頼みます。出来るだけ静かにお願いしますね?』
『承知。ふんっ…』
ローデリックが慎重に扉を押し開く。指示通りにゆっくりと、とても気を使っているのが分かる。が…
「少しずつ開いていく扉の奥、通路の先からガシャーンという金属音が聞こえる。見ると扉の裏側に細工がしてあり、開くと離れた場所に吊ってある何かが落ちる仕掛けだったようだ。音の直後、奥からゴブリン達の騒ぐ声がし始める。君達は察した「もう奇襲は無理だろう」と」
「…おい」
「え?」
「え? じゃないわよ! ディーンが調べて罠は無かったって言ったじゃない!」
「無い様だ」でも「無さそうだ」でもなく「無い」って言ったわよね!
「うん、扉の手前側にはね。普通、扉の向こう側なんて調べられないと思うけど?」
…にゃろう。
警備が薄い理由がようやく分かった。どんなに腕の立つ侵入者が来たとしても、不意を打たれる事は絶対に無い。と言う自信から来るものだったようだ。
『くっ…そういう事ですか。全員全速で突入! 敵に時間を与えてはなりません!』
『応!』『承知』『へいへい、っと』
隊列を整え、全員で走る。15m程だろうか、通路を走り切るとそこには…
「あ、通路にも罠が有ったら面白かったかな?」
「ちょっと、やめてよ! そもそも、こんな一本道に罠が有ったらゴブリンも生活できないでしょ!?」
「それもそうだね…あ、でも自然洞窟で他に出口が有るとかなら…」
そういうアイディアは、別の機会に試して貰いたい。
そこはやはり礼拝堂だった。広い円形のドーム状の空間。いつの時代の物か分からないが、敷き詰められた立派な絨毯。中央に、数段の階段を上った先にある祭壇。そして、その場に居座る者達は…!
「祭壇の前に、体中に色々な模様を入れ墨した奇妙なゴブリンが居る。そいつが持ってる杖をシャイン達に向けて金切り声でなにやら叫ぶと、周囲の暗闇からゴブリン達が滲み出るように出てきた。その中の一匹は別格で、立派なバトルアックスを担いでいる」
状況を想像し、龍治に確認する。
「えっと、司祭様から聞いた話だと、最初のは分からないけど普通のゴブリンが何匹かと、最後のがホブゴブリンよね? ゴブリンの正確な数はわかる?」
「普通のは3匹だね。粗末な服を着て、錆びたショートソードを持ってる。…ちょっと多かったかな?」
龍治はそう言って片手で後頭部をポンポン叩く。1,2…5匹か。こっちには【スリープ】の魔法もあるし。うん、いけそうね!
「フッ、この程度なら楽勝ね! 見てなさい龍治、スパっと片付けてシャイン達の初陣を飾ってあげるわ!」
ちょっと強がって言ってみる。現実は厳しそうだけど、景気付けってものね。
「え!? ご、ごめん真輝ちゃん、気付かなくて。じゃあ即興だけど、もう少し出すね?」
…今、なんて言った?
祭壇前の奇妙なゴブリンがニィと笑う。すると、右手奥の闇の中からゴブリンを乗せた大柄の狼があらわれた。なるほど、他のゴブリンより遅れて出てきたのは騎乗に時間が掛かったからか。全部で7匹…くっ、光の神よ、ご加護を…!
「ふぅ、予定外のモンスターを出すのって結構大変だね」
龍治が額を拭いながら言う…
「…おぅい」
「え?」
「え? じゃない! なに増援出してんのよ! タダでさえ勝てるか分からなかったってのに!」
こっちは1レベル。敵も1レベルだとしても、ほぼ倍の数。普通に考えたら、まず勝てないと思う。
「で、でももう出しちゃったし、真輝ちゃん楽勝だって…」
「あーーもう! 女の子の言うこと全部真に受けてんじゃないわよ! そんなんじゃ、社会にでて悪い女に騙されてバックのヤクザに捕まってマグロ漁船に放り込まれて立派な漁師にされちゃうんだからね!?」
「最後微妙に安泰だね…」
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とにかく戦闘開始である。ちなみにTRPGでは「一度確定した事実は、基本的に巻き戻してはいけない」という鉄則があるらしい。まあ、細かいルールミスで一々やり直してたら、ゲームにならないわよね。…今回の件は違う気もするが。
「じゃあ、お互いに不意打ちは無しということで、イニシアチブだね」
「1d10に【敏捷性】の修正を加えるのよね?」
「うん。あとカイヴァンが【戦闘指揮】の特技を持ってるから、+1されるね」
そういえばそうだった。でもカイヴァン自身は【敏捷性】が7で-1されるから、相殺されちゃうのよね。
「雑魚のゴブリンは面倒だから、一纏めにして振るね」
…面倒に思う程の数を出さなきゃ良いと思うんだけど。ええぃ、とりあえず戦ってみよう!(コロコロコロコロ)
イニシアチブ結果
ゴブリン×3 :9
シャイン :8
奇妙なゴブリン:8
カイヴァン :6
ホブゴブリン :6
ローデリック :5
ディーン :5
ウルフライダー:1
という順序になった。基本的には、この順番で毎ラウンド行動することになるのだが…
「ゴブリン3匹はリーダーの奇妙なゴブリンを見ている。どうやら指示を待つつもりの様だ」
という風に、遅らせることは出来る。次は8のシャインと奇妙なゴブリンだ。この場合は同時行動の扱いで、もしシャインが先に攻撃して倒したとしても、敵も攻撃できる。それでシャインが倒れたら相打ちという訳だ。
「次はシャインよね。と言っても突っ込む訳にはいかないだろうし…あ? ランタン持ってたの忘れてた! えっと、ランタンを床に置いてジャベリンとシールドを構える、でいい? 囲まれるのは嫌だから、まだ部屋の中には入らないで」
「OK。シャインは部屋の入口で戦闘態勢を整えた。同時に奇妙なゴブリンの番で、杖を突き出してゴブリン語で指示を出す。それを聞いてゴブリン達は舌舐めずりをした」
くっ、ゴブリン語が分からないのがもどかしい。どうせろくなこと言ってないんだろうけど…あ!?
「そうだ! カイヴァンの追加の言語決めてなかった! シャインが【知力】12でドラゴン語を喋れるんだから【知力】15のカイヴァンも追加で2つの言葉喋れるわよね!?」
「あ~~そういえばそうか。なんで決めてなかったんだっけ…って、最初の3人は突貫で作ったからか」
う、3人とも細かい所は全部すっ飛ばしたような…後でちゃんと考えてあげよう。
「じゃあ、今決めちゃって? 本来はキャラ作成時に決めることだから、1個だけじゃなくて2個ともね」
確かに、カイヴァンが魔術師として今まで学んできた成果なのだから、ちゃんと決めるべきだろう。
「そうねぇ…身近な敵を知るということでゴブリン語は確定として、勉強の好きそうなカイヴァンが他に学ぶとしたら…あ、エルフ語かな?」
魔術に長けたエルフに憧れ、同じ道を目指した。まだ、あどけない少年…おお、なんか可愛らしい!
「龍治! エルフ語でいい!? 師匠がエルフで2つとも師匠から学んだってことで! 師匠が綺麗なお姉さんっぽいエルフだったらなお良し!」
「何で真輝ちゃんのテンションが高くなったのか、理由が分からないんだけど…え~と、カイヴァンの師匠は女性のエルフでゴブリン語も話せる、と」
ブツブツ言いながらもちゃんとメモっている。さすが龍治(意味不明)
『マスター、ローデリック、部屋に入らず敵を迎え撃ちましょう! あとマスター、唐突ですが私、ゴブリン語を話せることを思い出しました! 今のゴブリンの指示は「男は殺せ、女は生かして捕らえろ」です。気を付けて!』
左手のゴブリン3匹が近づいてくる中、そう言って手に持った松明を絨毯のない通路に置くカイヴァン。何をどう気をつけろというのか。
問いただそうかと思った瞬間、右手のホブゴブリンが一歩前に出て大きく息を吸う。一体何を…
『グオオオオオオオオオォ!!』
遺跡を揺るがすような大声をあげ、戦斧を構えてニヤリと笑うホブゴブリン。くっ、足が震える…こんなことで情けない!
「あ、ゲーム的な意味はないから」
…ふっ、盛り上げてくれるじゃない、龍治。ならこっちも!
怯む冒険者達。このまま一気に飲み込まれてしまうのかと思ったそのときに…
『ウオオオオオオオオオオオオオォ!!!』
遺跡の外まで届けと言わんばかりの大声をあげ、怯んだ敵に向かって渾身の力を込めて手槍を放つ戦士!
「えぇ、もちろんゲーム的な意味はなくってよ?」
口に手を当てて、ちょっとお嬢様っぽく言ってみる。
「…さすが真輝ちゃん。ノリがいいね。それはともかく攻撃ロールどうぞ」
あ、そういえばジャベリン投げたんだっけ。張り合うのに夢中で忘れてた、てへ♪
「(コロコロ)11ね。え~と、ジャベリンの近距離で【筋力】が+3だから…AC15まで当たり! どう!?」
「当たり、ダメージもどうぞ。…自分で勧めておいて何だけど【筋力】の高いローデリックの手投げ武器は怖いなぁ」
ふふん、存分に後悔するといいわ♪(コロコロ)
「5! +3して8! どうよ!」
ガクッと頭を垂れる龍治。
「ああああぁ、何も出来ないうちに主力が…ゴホン、ローデリックの渾身のジャベリンがホブゴブリンのレザーアーマーを、なおかつ肉体までも貫いて背中から突き出る。その間に生物として重要な臓器があったのだろう。バトルアックスを手に持ったまま後ろ向きに倒れこんだホブゴブリンは、大の字になってピクリとも動かない。おめでとう冒険者諸君、君達はこの戦闘の山場を一つ越えたのだ」
よっし、このまま押し切るわよ!




