一桁違ったみたい
「龍治ー? ちょっとお祖母ちゃんに電話するから、適当に時間潰しててー?」
階段下から二階にいる龍治に声をかける。
「らじゃー」
ちょっと気になったので、一言付け加える。
「…タンスとか勝手に開けるんじゃないわよ?」
「………らじゃー」
返事に間があったのが気になるが、一応信用しよう。…もし何か弄くってたら、今度はスリーパーホールドじゃ済まさん。
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トゥルルルル…トゥルルルル…トゥルルルル……
居間の電話で電話中、ただいまコール12回目。ちなみにおばあちゃんは販売や勧誘を断るのが面倒だから電話嫌いだ。大体10回くらいでようやく腰を上げる。だから我が家では、おばあちゃんに電話するときはコール20回を目安にしているのだが…
「…もしもし、加々美ですけど…」
うむ、警戒しまくりだ。安心と言えば安心だが。
「あ、もしもしおばあちゃん? あたし、幸宮の真輝」
「え? あらあらあら、まあまあまあ、どうしたの? 真輝ちゃん。珍しいわねぇ」
声のトーンが跳ね上がった。歓迎してくれてるのが良く分かる。…もう少し頻繁に遊びに行こうかしら。
「えっとね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「あらあら、お勉強のこと? おばあちゃんに答えられるといいけど…」
う、ちょっと心が痛い。
「ん~…勉強とは違うんだけど。あ、でも歴史と言えばそうかも…」
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「龍治! 大変なことが分かったわ!」
階段を駆け上がってザッとふすまを開けて叫ぶと、龍治が読んでたサプリメントから目をこちらに向けてキョトンとしている。…よし、何も弄ってはいなさそうね。って、そうじゃない!
「おばあちゃんに聞いたら、ドラゴン・ファンタジーができた時代って、10円でパンとか鉛筆とか色々買えたって!」
と聞くと、龍治はウンウンと納得しつつ口を開く。
「やっぱりね。戦後の高度経済成長期って物価も為替レートも今とは全然違ったって聞くし、なんでも一時期は1ドル=360円の固定相場制だったらしいよ?」
「え?ってことは今の相場の3倍強!? なにそれ凄い! 輸出企業大勝利じゃない! あ、でもそれだとアメリカと仲が悪くならない? ただでさえ貿易赤字が凄いってニュースでやってた気がするけど」
「歴史でも聞いたね。日米貿易摩擦…だっけ? 当時は色々問題だったらしいよ?」
まさかゲームで歴史を学ぶとは…あ、まだあったんだ。
「物価もそうだけど、給料も今とは全然違ったって。高卒初任給が1万円くらい? 今じゃ生きることも出来ないわよね、ブラックってレベルじゃないわ」
「う~ん、物価と給料は連動するって言うから、当時はそれで問題なかったんじゃないかな」
そっか、どっちかだけじゃないんだ。物価が安ければ売上も低い、当然給料も安い、と。…ん?
「でもお父さんは「景気は良いはずなのに給料上がらんなぁ…」ってボヤいてたけど、どういうこと? 会社が儲けたお金はどこに行ってるのかしら?」
と言うと、何故か龍治は遠い目になり、
「……さぁ、僕には分からないな。それより今のをドラゴン・ファンタジーに当てはめてみようか」
…何か誤魔化された気がする。
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銅貨は10円。だがしかし、当時の10円は今の100円だった。ということは全て10倍になるわけで…
銅貨=100円
銀貨=1000円
金貨=10000円
白金貨=100000円
となる。簡単よね? だからこの持ちきれない銅貨1800枚は…
「18まんえんんんん!?」
「真輝ちゃん、騒ぐとゴブリンが…」
「ここは現実だから来るならお母さんよ! しかも今買い物行ってるし!」
「だからって騒いでいい訳じゃないと思うんだけど…」
なにを落ち着き払っているのか、これだからGMは。…は? そういえばゲームよね、これ。落ち着け私。
「失礼、つい取り乱してしまったわ。こんなにも私の心を乱すトラップを仕掛けるなんて、やるわねゴブリン達」
「意図してやったわけじゃないと思うけどなぁ…」
『どうしやす? お嬢。箱に罠でも仕掛けやすかい?』
ディーンが盗賊の七つ道具を取り出しつつ言う。それに対して『私』は…
『それには及びません。仮に、私達以外の者がこれを手にするとしたら、それは誰でしょう?』
言いたい事を察したのか、魔術師が答える。
『私達以外の冒険者、…もしくは私達の後をつけてきた盗賊、という所でしょうか。いずれにしても「人間」でしょうな』
一つ頷き、会話を受け継ぐ。
『えぇ。民衆を脅かすゴブリンを退治しにきた私達が、人を傷つける事など有ってはなりません。それに、私達は既に十分な宝を得ています。他の誰かが残りを手に入れるなら、それは神の思し召しでしょう』
感銘を受けたのか、商人が『私』に眩しいものを見るような視線を向ける。
『治療の腕もさるものながら、なんという高潔な御方なのでしょう。これは、無事に街に戻れた暁には、光の神の神殿に参らせて頂かないといけませんね』
神官として、とても嬉しい言葉だ。
『まあでも、勿体ないっちゃー勿体ないわな』
『…そうだな、特に誰かさんは借金があるしな』
その言葉で思いついたのか、戦士はポンと手を叩き(鎖帷子だから「ガチャ」だが)
『じゃあ、これをその分に…』
『その場合は全員で分けるだろうが! 第一これじゃ足らねえよ!』
『なにィ!?』
魔術師の苦悩が晴れる日は遠そうだ。
「う~…18まんえん…」
「シャインと真輝ちゃんの差が酷くない?」




