指輪と魔法はどのくらい?
その輝きは一瞬とも永劫ともつかない間続き、そしてそれが収まったときには『私』の手の中(正確には鎖帷子の小手の中)から指輪は消えていた。
『くっ! 今の光は一体… はっ? 大丈夫ですか、マスター!?』
『私』は慌てる魔術師を静かに諭す。
『静かに、カイヴァン。ここは敵地ですよ?』
現状を思い出したのか、魔術師は声を潜める。
『…失礼しました。ですが今の光は…そして指輪はどこに…はっ!? まさか、マスターに害を!』
『ですから静かに。…害ということはありません。そして、私には何となく分かりました。なぜ私に神託がくだされたのか…』
そう言って『私』は鎖帷子の右手の小手を外す。
『マスター? 何を…』
訝しむ魔術師に見せた『私』の右手中指には、燦然と金色に輝く指輪がはまっていた。
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「ふぅ、演出としてはこんなところかな?」
龍治がやりきった感で一息つく。だが…
「…なにこれ」
私にはさっぱり理解不能だ。なに? なんなの? 安物じゃないの? なんでいきなり指にはまってるの? お風呂に入るとき外せるんでしょうね!?
「えーと、その指輪が何なのかはゲームの中で調べて欲しいかなって…」
ぐっ、確かにその通りだ。GMに問い質すのはルール違反だろう。
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『…それは先程の指輪ですか? 少々、いえかなり趣が違うようですが…』
確かに全然違う。うっすらとしか見えなかった紋章は、今やくっきりと光の神のそれと分かり、何の変哲もなく見えた指輪自身も、まるでそれ自体が光を放つ金属で出来ているようだ。恐らくこれは…
『ちょ、ちょっと見せてください!』
そう言って商人のノイマンが、『私』の手を取りまじまじと指輪を見る。
『ノイマンさん、分かるのですか?』
商人は興奮した様子で答える。
『はい…いえ、恐らくですが…あ、私も実物を見たことはないので、あくまで推測なんですが…』
『まどろっこしいなぁ、結局何なんだ?』
焦れたディーンがせっつく。
『す、すいません。ですが金よりも金色に、そしてそれ自らが輝く金属というと、この指輪は伝説のオリハルコンで出来てるのではないかと…』
オリハルコン。それは物質界には存在しないとされる伝説の鉱物である。神々が直接身に纏う武具や、自身の力を封じ込め、英雄に授ける物の素材とされるが、現存はしていない。…少なくとも一般には知られていない。
『…やはり。私も薄々思いました、いつの間にか指にはまってる事といい、まず間違いないでしょう。光の神は私にこれを授けたかったようです。理由は分かりませんが…』
小手をはめ直しつつ『私』は心の中で神に問う。神よ、なぜこれを『私』に? この遺跡に一体何があるというのですか?
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「ぐぬぬぬ…」
憮然としてる私に、龍治が棒読み口調で声をかける。
「かんかんかんかーん。おめでとう真輝ちゃん。1等の『もの凄い指輪』です」
「やっぱりそうなの!? 私、2万分の1を1回目で引いたわけ!?」
喜びよりも驚きのほうが大きい。
「うん。まあ指輪分の確率は入ってないし、真輝ちゃんの欲しい物かどうか分からないけど、とりあえず凄い指輪です」
なぜだろう、淡々と語る龍治にちょっとムカつく。
「…まあいいわ。商人やカイヴァン、あとシャインにもこれ以上は分かんないのよね? ゲームの中で調べるって、具体的にはどうすればいいの?」
まさかググれとは言うまい。
「ん~と、魔術師の呪文にアイテム鑑定があるね。1レベルの【アイデンティファイ】と5レベルの【ロア】」
ふむ。1レベルは当てにならないけど(【ライト】は除く)、5レベルの方は頼れそうね。…あれ? そういえば…
「ねぇ龍治、この世界の魔法ってどのくらいなの?」
「どのくらい、って…?」
む、聞き方がアバウト過ぎたか。
「えっと、魔法がどのくらい身近なのかってこと。例えば、街を歩いてて空を見上げると、魔術師が飛んでいるところがよく見えるとか。自動車…じゃなくて馬車か、馬車に轢かれて死んじゃったら、神殿に行けば『またですか、ついてないですねぇ』って軽く生き返らせてくれるとか?」
「ん、ちょっと待って」
と言って龍治はGM用ルールブックを捲り始める。
「う~ん、ここじゃないなぁ…」
と呟きつつサプリメントを捲り出す。…長くなりそうなら、お茶入れようかな? と思っていたら、龍治が諦めた様に声を出す。
「…ダメだ、載ってない。…多分好きに決めちゃっていいんじゃないかな。真輝ちゃんはどうしたい?」
こっちに振られるとは思ってなかった。魔法かぁ…
「ん~、やっぱり普通じゃ扱えない特別な力ってことにしたいわね。選ばれた人が極限の努力をして、初めて得られるって感じに♪」
「真輝ちゃん、僕達もう高校1年生なんだけど…」
うっさい。誰が厨二よ。
「その方が気分出るでしょ? でね? そもそもレベルが上がるのはプレイヤーのキャラクターと一部の特別なNPCだけなのよ! 哀れな一般人は、迫り来る様々な驚異に対して、プレイヤーという『勇者』が現れるのを願うしかないってこと」
「酷い世の中だなぁ…」
何か聞こえたが、私の勢いは止まらない。
「もちろん魔法のアイテムなんて全然出回ってなくて、回復のポーションなんかもすっごい高額で、大抵の人は怪我をしたらゆっくり寝るしかないっていう。どう? ここまですればシャインがすっごく貴重なキャラになるんじゃない?」
なぜだか龍治が、可哀想なものを見る眼でこっちを見てる。…何よ、私変なこと言った?
「あ、うん。そんな世界じゃ誰も5レベル呪文の【ロア】なんて使えそうにないね。最低でも9レベル必要だし…」
あ。
「しまったぁぁぁぁぁぁぁ!?」
またもや私はテーブルに突っ伏した。




