装備を整えよう
それは正に、一つの芸術品と言って良かった。
施された精緻な彫刻。磨き上げられ、鏡のように輝く表面。各部品は巧みに繋ぎ合わされ、まるで隙間なんて無いかのよう。それでいて、あらゆる衝撃を弾き返す為に配置が工夫されている。
戦場と言う、死と悲しみが支配する場において、異質に、いやだからこそ輝く戦の神と鍛冶の神のコラボレーションに『私』は見惚れてしまっていた。
『気に入ったかい、お嬢ちゃん?』
『ええ、非の打ち所がありません。これこそ私の戦士を、いえ私達全てを守り抜く物でしょう』
『私』の称賛に、店主は照れつつも笑う。
『そうかい、嬉しいねぇ。…じゃあ代金の方だが』
『カイヴァン、お願いできますか?』
『買えるわけ無いでしょう!? スーツアーマー(甲冑)なんて幾らすると思ってるんです!?』
魔術師の悲鳴がまたもや響き渡る。
ですよねー。
「龍治、これ値段おかしくない? 銀貨40000枚なんて誤植としか思えないんだけど」
「そうでもないらしいよ? 中世では武器防具一式で立派な家が建つくらいの値段がしたって言うし、これだって安い方で『高いのは10万枚する』って書いてあるね」
「その枚数をどうやって数えて運ぶのよ…」
違う意味で心配してしまう。
『私』達が今居るのは、領内に唯一ある武器防具屋の中。魔術師カイヴァンの進言に従い、戦士ローデリックの装備を整えに来たのである。ざっと見回していたら、カウンターの奥に展示されていた甲冑に目が留まり、店主と団欒していたところだ。
『冗談ですよ、カイヴァン。…何か良い物はありましたか、ローデリック?』
『はっ。今の甲冑が最高ですが、無理と言うなら仕方ありますまい。こちらのプレートメイル(板金鎧)で…』
『そっちは銀貨6000枚だ! お前分かって言ってるだろう!?』
『はっはっはっ、【知力】5の俺がそんなこと分かるわけ無いだろう?』
『っ! このバカ野郎!』
不毛な争いを尻目に、店主に話しかける。
『とても良い物を見せていただきました。買えないのは残念ですが…ところで、そこの戦士に見合った防具を探しているのです。予算は銀貨1000枚程度で、何かお勧めの物は有りませんか?』
店主はローデリックを見やり、少し考え込む。
『あの兄ちゃんか、戦士としても良い体格してるな。何でも着られるだろうが銀貨1000枚となると…』
同じく並んでいたラメラーアーマー(薄金鎧)とチェインメイル(鎖帷子)を続けて指差す。
『こいつかこいつだな。時間かかっても構わないんなら薄金鎧、すぐに欲しいってんなら鎖帷子だ」
ふと疑問に思って龍治に聞く。
「あれ? 金属鎧なんてどれも時間かかるって聞いたけど、チェインメイルはいいの?」
「うん。アイテムの値段表から考えると、一番コスパが良いのはチェインメイルの様だからね。在庫も余裕あるってことにしたんだ。…普通に作ると数ヶ月かかるけど、そうする?」
慎んで遠慮しておく、ゲームにはスピードも大切だ。
『では鎖帷子でお願いします。実は、出来るだけ早くゴブリンを退治しに行きたいのです』
『ほう? ゴブリンを退治してくれる勇者様御一行ってことか。よっしゃ、任せときな。…兄ちゃん、こっち入りな!』
そういってカウンターの中にローデリックを招き入れ、奥に居る職人にも声を掛ける。
『おーい、ちょっと手を止めて大き目の鎖帷子をいくつか持って来てくれ。確か合うのが有ったはずだ』
そして、何かに気付いたかこっちにも話を振る。
『兄ちゃんの革鎧はどうする? こっちで引き取ろうか?』
ふむ。長旅なら夜番用に良いかもしれないが、今回は必要ないだろう。…お金も余裕ないし。
『ええ、それでお願いします。代金は幾らになりますか?』
『主よ。一応俺の意志を確認してほしいんだが…』
サラッと流して続ける。文無しに買い物中の発言権は無い。
『えーと、200の3掛けで700から引くと…640だが、よし、お嬢ちゃんに免じて600にしておこう。ゴブリン退治頑張ってな』
何も言わずに値引いてくれた。なんか嬉しくなってしまう。
「やっぱり美人って得よね♪」
「あ、うん。…次は武器だね」
続いて『私』は武器屋を覗く。この二つの店は同じ建物で、真ん中を壁で仕切られていてるが、扉で互いに行き来できるようになっているのだ。外側と奥側にL字型にカウンターが置かれ、その奥の壁に商品が飾られている。商品をよく見たい場合は、店員に言って一つずつ出して貰う形だ。
中を見ると、先に入っていたディーンが短弓をいじっている。結構似合ってる気がする。
『気に入りましたか、ディーン?』
『あ、お嬢。…そっすね、俺はこれにしておこうと思います。一人で動くんならいらねーけど、今の俺には入り用でしょう』
このパーティでの立ち位置と言うのが分かってるようだ。出会った時との差に、自然と顔が綻んでしまう。
『よく似合っていますよ、お金の方は大丈夫ですか?』
ディーンは苦笑して答える。
『別に俺は無一文じゃないっすから。ちゃんと宿代も払っておきましたよ』
当たり前の事が、何故だかとても新鮮に聞こえてしまう。
「そうよね…これが普通よね。『宵越しの銭は持たない』なんて家も職も安定して初めて言える言葉よね」
「真輝ちゃん…ほら、ローデリックは最初のキャラクターだったし。うん、仕方ないよ」
所持金の少なかったローデリックに、大剣と革鎧だけでゴブリンに突っ込ませた過去の自分を、小一時間問い詰めたくなる。
『短弓と矢筒と矢が2セットですね。250と8と3が2つで…銀貨264枚になりまーす♪』
売り子の娘の声が軽やかに響く。『私』も何か見繕おうかと思っていると、鎖帷子を着込んだ上機嫌なローデリックと、暗い顔をしたカイヴァンが後ろから入ってきた。
『早かったですね。気分はどうですか?』
『最高です、我が主よ。まるで自分が一つの砦になった気分です』
『最悪です、マスター。まるで家が強盗に襲われた気分です』
十人十色である。
『大丈夫ですよ、カイヴァン。お金はきっちりと返します、…ローデリックが』
『そうそう、倍にして返してやるよ。大船に乗ったつもりでいな!』
『…600×2は?』
『かけるって何だ?』
大きく溜め息をつく魔術師、良い精神修行になりそうだ。
『まあまあ。…ところでカイヴァン、昨日武器の事でも話しましたよね? 改めて聞きたいのですが』
『…はい。昨日も申しあげましたが、お勧めは手投げ武器ですね。投げやすい手槍か取り回しの良い手斧が良いかと』
ふむ、どっちにも利点があるようだ。いっそ両方と言うのも良いだろうか?
『甲乙つけがたいですね…では両方にしておきましょう。…すみません、手槍と手斧を2本ずつください、あとこちらの戦士に中型の盾も』
便利そうだから手槍は『私』も1本持っておこう。後はローデリックに、これで万全だろうか。
『はーい、5が2つの10が2つで盾が100枚だから…130枚ですね。…う~ん、手槍はサービスしちゃいましょう! 120枚で結構です、これからも御贔屓に~♪』
「なんか随分サービスいいけど、どうなってるの?」
「シャインは【魅力】18でしょ? 特に理由が無ければ、無理のない値引きは自動的にされるように設定したんだ…一々値段交渉するのも大変だし」
ふ~ん。なかなか気がきくではないか、龍治のくせに♪




