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(87)お泊り会を開きましょう!

倉敷くんはフラフラと玉ちゃんの机の前にかがみこんで顔を見上げる。


「ごめんね? 玉ちゃん。君を怒らせるつもりじゃなかったんだ」

「くーーーーーーらーーーーしーーーーきーーーー」


玉ちゃんはシュウウウと煙のようなオーラを漂わせて参考書を滑らせて倉敷君の鼻柱に直撃させる。


「玉ちゃんはやめろって言ったったでしょーーーー!」

「いだだだだああっ!!」

「失せなさい! 私の前から失せなさい!」

「失せられないよ~だって同じクラスじゃん!!」

「じゃあ消えなさい!!!」

「意味変わってないじゃん! ……いやあ、怒った玉ちゃんもカワイイいでええええ!」


玉ちゃんは机を下から蹴りあげて倉敷くんの顎に直撃させる。


「なんてえげつない……」

「さすが中西、ヤツはプロだ」

「倉敷くん……メゲないなあ」


コースケ、桐蔭くん、今治くんはそれぞれの感想を漏らす。


「あはは、ケンカする程仲がいい、だよね」


つぐみは苦笑いしつつも穏便な事を言う。実際に起きてる事は決して穏便なんかじゃないけど。


「姐サン……カッコイイ」


一方、キクチさんは――キグルミの頭越しでも分かる程に目を輝かせて玉ちゃんを見ている。

そ、尊敬してるの?!

子供の頃から人をバカにしてばっかりだったそよちゃんが?!


「肝試しなんてバカな事する暇があるなら勉強でもしなさいよ」


玉ちゃんは伸びている倉敷くんを踏みつけて涼やかに言う。


「それならいい考えがある」

「あ゛?」


すぐに復活した倉敷くんに玉ちゃんが魔王のような恐ろしいオーラを放ち始めたけど、そこに慌てて今治くんが割って入る。


「だめだから! それ以上やったら病院送りだから」

「そ、そうだよ。ぼ、暴力沙汰になったらお父さんが悲しむぞ」

「……そうね。トドメはやめておくわ」


慌てながらも、コースケは玉ちゃんの家庭の事情を知っているので、痛いところを的確について止めに入った。

男性陣の結託が凄い。

え、桐蔭くん? 彼は男性というより超人カテゴリーに属すると思うの。


「で、倉敷くんは何を言おうとしたの?」

「は、花巻さん……!」


つぐみは天使のような笑顔を浮かべて小首をかしげる。


「花巻さん、コイツに笑いかけちゃだめよ。性病がうつるから」

「玉ちゃん~~~そりゃないよーーー」


倉敷くんはそう言ってへにゃんと床に頬をつけた。


「でね……パイン飴連合軍の結成を記念して肝試しをしたい……所だけど、中西顧問が厳しくって」

「誰が顧問よ」

「顧問のお望み通り、テストで良い点を取れば肝試しを免れるて事でひとつ手を打ちませんかね……?」


そう言って、倉敷くんはちょっとドヤ顔をした。


「良い点? どれ位を取ればいいかなあ……」

「なに、何てことない、赤点さえ取らなきゃいいよ」


つぐみの質問に、倉敷くんはニヤニヤしたまま言う。

なんか、童話とかに出てくる悪い商人みたいな笑顔ね。


「それなら大丈夫ね。バカな事言うから余計な心配をしちゃったわ」


ふう、と玉ちゃんはため息をつき、席に戻ろうとする。


「って! ちょっとエリコ!」


が、私の様子がおかしい事に気づいて早歩きでこちらへ後退した。

どうしよう、赤点って言葉を聞いてから吹き出した汗が止まらない……。


「リコちゃん大丈夫?! 顔色が凄い事になってるけど……」

「ちょっと! エリコ! あなたニ連続で赤点なんて取らないわよね? 大丈夫よね!」

「ごめん……無理かも……」


私はやっとの思いで声を絞り出す。

赤点。

そう、赤点。

数学の授業は殆ど寝ている私に不覚なんて無い。

数学に関しては予習復習なんて一切しない。

そんな時間があったら筋トレかランニングをしてる。


次のテストで✕印の並んだ数学の解答用紙が出てくるのは容易に想像がつく。

気を失いそうだった。


そんな愚かな私に救いの手が差し伸べられる。


「だ、大丈夫だよ。一緒に勉強会しよ」


つぐみ様だ。

つぐみ様は天使のような笑顔を浮かべて私の手を取った。

――尊い。

さすがは聖・つぐみ様だった。

つぐみ様は傍目に見ている玉ちゃんとキクチさんの服を掴んで引き寄せる。

あれ、キクチさんって相当重量があったような……。


「キクチさんも手伝ってくれるよね?」

「ナゼダ! ナゼ私ガ!」


キクチさんは「ハーナーセーヨー」と合成音でダダをこねている。


「もちろん、中西さんも来てくれるよね」


聖つぐみ様はキラキラとした笑顔で玉ちゃんに「お願い」をする。

いくらチート魔眼高校生・なかに神でもつぐみ様の要望は断れないわね。


「え?! 私も?」


と言いつつもなんとなく嫌そうな素振りは見せてない。


「姐サンガ来ルナラ私モ行ク!!!」


と、キクチさんは咄嗟に意見を急カーブさせた。


「じゃあ善は急げね! 今日はまだ新じゃがもあるし、放課後はウチに集合!」

「姐サン、泊マッテクレナイカ? ナア、ナア!」


キクチさんの猛アタックが凄い。どうしたのよ一体!


「ちょ、落ち着つきなさいよ。まあ今日はパパも飲み会だから大丈夫だけど……」

「わあ、じゃあお泊り会にしましょう! つぐみは大丈夫?」

「うん、平気だよ! なんだか楽しみだね~」

「コイバナとかしちゃいましょうよ!」

「何言ってるのよ。エリコは花より団子のクセして」

「もーっ玉ちゃんは手厳しいな~」

「お嬢ノ家ノ風呂ハ広イゾ!」

「一緒に入っちゃいましょうよ!」

「うわ~。楽しそうだけど緊張しちゃうな~」


こうして、急遽、広陵院家で女子会兼お泊り会が開かれる事になったのです。



「つーちゃんが来る……我が家に泊まる……つーちゃんのパジャマ……うっぷ、緊張して胃が……」

「ど、どうしちゃったのさ、カイチョー」

「いや、平気だチャラ敷。僕にとって試練がやってきただけだ。だけど落ち着け。広陵院エリコ監督も言っていた。満塁はチャンスであると同時にピンチでもある……」

「何ブツブツ言ってるんだ……。ねえ、絶対やばいよこれ! 倉敷くん、この人保健室連れて行こうよ!」

「コースケ、これはパリ甲賀流の里特製の気付け薬だ。よく効くぞ」


 「コイバナとかしちゃいましょうよ!」


「コイバナ!!!!」

「カイチョー?! 背骨がありえない方向に曲がってるよ!」


 「お嬢ノ家ノ風呂ハ広イゾ!」


「お風呂おおおおおおお」

「うわあああ、カイチョーが鼻と口から血を吹き出したぞ!」

「どうしよう、110番しなきゃ!」

「バカ、119番だよ!」

「コースケ……また持病のアレの発作か……」


こうしてコースケは入院をする事になり、つぐみも参加するお泊り会を逃す事となったのでした。

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