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(86)結成! パイナップルキャンディー連合軍

「昨日も出たんだ」

「出たって何が?」

「お化けだよ、お・化・け。例の七不思議のさー」


翌日、倉敷くんはやけに張り切っていた。

彼は息を荒くして私に鼻先を近づけんばかりに迫ってくる。


最近、席替えがあったばっかりで、私の前に倉敷くんが座わっている。

彼は椅子を動かさないまま、跨ぐようにして座って背もたれに肘をついて後ろを向いている。

前世でもそういう風にして友達とおしゃべりしてたわね~。


だけど……顔がちょっと近いような……。


そう思った瞬間、天井からユーロ紙幣が飛んできて私達の顔の間を通り抜けて机に突き刺さる。


「うおお!」


倉敷くんは飛びのいて机に乗っかった。

凄い運動神経だった。

前々から思ってたけど、倉敷くんの仕草や行動は少し猫っぽい。


それはともかく、何の変哲もないユーロ紙幣を机に突き刺す技術を保有しているヤツなんて、この学園中を探してもアイツ位しか居ないわ。

残念ながら「日本中」「世界中」となると正直自信がないわ。コイツレベルのビックリ人間なら他にも居る気がするし……。


「ちょっと!」


私は即座に立ち上がって入学祝いに買って貰った大理石制の筆箱を天井に思いっきり投げつける。

離れた窓際の席に座って参考書を読んでいる玉ちゃんが思いっきり顔をしかめてこっちを見た。


すると、天井がガンと大きく一揺れして、板が抜けて犯人が降ってきた。

彼は慌てる事なく、むしろ慣れた様子で着地すると俊敏な動きを見せて私の隣に立って後ろ手を組んで背を伸ばす。

スタントマンのような見事な動きだった。


映画部の男子なんか「次作の映画に使う!」なんてビデオカメラを構えていた。

写真部は女子の着替えを狙うスケベ集団だけど、映画部はハリウッドのアクションスターに心酔した、これまた迷惑な集団だったりする。

何の映画かしらないけど部のバカが丸太を持って登校してきて高崎先生に叱られたりもしていた。「先生、第三次大戦だ!」とか言って皆に呆れられてもいる。


「すまん」

「……もう、ホントに反省してる?」


桐蔭くんはコクン、と一つ頷いて倉敷くんを見る。


「だがエリコ、コイツは怪しいから気をつけろ」

「うーん、心外だなあ」


倉敷くんはポリポリと頬を掻いてにへらと笑った。


「まーとにかくさー、また幽霊が出たんだよ」

「えー、またそういう噂してるの? 学校の評判も落ちるし辞めた方がいいんじゃない?」


なんて登場したのはコースケだ。

昨晩は壁ドン部屋の稽古……じゃなくって練習をして大ハッスルしたせいで目にクマを浮かべている。


「お、カイチョー、おっはよー」

「ああ、おはよ」


ノリノリの倉敷くんを軽く流してコースケは桐蔭くんの隣に立つ。


「あんた、クラスに友達居ないの?」

「……ほっといてくれよ」


そう言って悪態をついた。かわいくない。


「みんな、おはよー。あ、コースケ君もおはよう」


続いてやってきたのはつぐみ。

今日は家のお弁当をたくさん作るからとかで遅くなるって聞いていた。


「おはようつーちゃん! 今日もいい天気だね!」


なんてコースケは声をかけている。何なのよ、何なのよ、この態度の差!

なに女の子によって態度に差をつけてんのよ!

だからアンタはモテないのよ、この愚弟! 一族の恥!


「……おいエリコ、何怒ってるんだ」


察しがいいのか、いち早く気づいた桐蔭くんが抑揚の無い声で聞く。


「別に。弟が情けなくて泣きそうなだけよ」

「ああ」


桐蔭くんは納得してしまった。

ちょっと、納得されちゃってるんじゃないわよ、コースケ!


「おはよー」


続いてやってきたのが今治くんこと一般人。あ、逆だったわね。


「オハヨウ」


そしてキクチさんに搭乗したそよちゃん。キクチさんは倉敷くんの姿を認めた瞬間「ウゲ!」と変な声をあげていた。


「これでいつものメンバーは揃ったみたいだね」


倉敷くんは腕を組んでウンウンと頷いている。


「へ、いつものメンバー?」


コースケは納得のいかない顔をしてメガネをクイクイと上げる。


「俺ら、パイナップルキャンディー連合軍の親睦を深めるために、肝試しをしようと思うんだ!」

「パイナップルキャンディー連合軍?!」 


一同に衝撃が走る。

誰もが口を噤んで生唾を呑む中、私が先陣を切って倉敷くんに迫る。

そうよね。大事な事だもの。ちゃんと確認しておかないと。


「え、倉敷くん、入会したらもっとパイナップルキャンディーくれる?」

「違うだろ姉さん!」

「バーカバーカ!」


コースケとそよちゃんの身内二名からなる非難を轟々と浴びせられながら、倉敷くんはニヘラっと笑って私にパイナップルキャンディーを握らせた。


「うわあ! やったー、パイナップルキャンディーだあああ」

「いやあ、広陵院さんはカワイイなあ」


パイン飴を掲げて喜ぶ私に、倉敷くんはのほほんとした調子で言った。

瞬間、影が飛び移り


「殺す」


鋭利なクナイ――いえ、よく見るとパリ・エッフェル塔の模型だった――を倉敷くんの首筋に当てて洒落にならないような目つきで彼を睨みつけていた。


「待ってーーー! 桐蔭くんダメダメ! エッフェル塔の模型を首に当てないで!! 先端尖ってるでしょ! 待ってマジ!」


倉敷くんはさすがに命の危険を感じたのか、じたばたともがきながら助けを求める視線を送る。


「ちょっと桐蔭くん! 殺すはやめなさいって殺すは!」

「消す」

「消すもだめだってば~~~!」


その時、玉ちゃんがドン、と教科書の背を机に叩きつけた。


「うるさい」

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