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(79)新じゃが、できました!

一通りのプログラムをこなし、ストレッチをしてジムに併設されてたシャワーを浴びる。


運動したらストレッチ。

クールダウンとか、整理運動なんて言われてたりするわね。

これは意外と重要。運動で熱くなった体を徐々に休める、飛行機で例えるな着地みたいな作業よ。


それが終わったらシャワーを浴びて体をサッパリさせる。


「つぐみ、今日もよく頑張ったわね」

「うん。運動も慣れてくると楽しいね~」


つぐみはニコニコとしながらドリンクを飲む。


ずっと、ダイエットなんかしたらつぐみが辛いんじゃないかって心配だったけど――。


ある日、つぐみに恐る恐る「ちょっと運動しない?」って言ったら照れ笑いをして「太っちゃったもんね」ってケロっとしていた。

それからは早かった。

つぐみは倒れかける事はあっても決して音をあげずに私の作ったメニューをこなしていった。

「太ってるせいで、リコちゃんにもいっぱい迷惑かけたから」とも言っていた。

多分、つぐみはずっと気づいていたんだと思う。



そして、つぐみはすっかり痩せてキレイになってしまった。

私は隣に立つつぐみの余りの美しさに息を呑む。


乙女ゲーの主人公業界の「容姿は平凡」の基準が分からない!!


今のつぐみは10人居たら11人は振り向くレベルの美少女よ。

芸能事務所だって黙ってないはず。

っていうか私が勝手に芸能事務所に書類送っちゃいそう!

「友達が勝手にオーディションに応募して……」ってヤツをリアルにやってしまいそうだわ……。


そういえば『花カン』のつぐみは歌を歌うのが好きな儚げな女の子だったけど、私の親友のつぐみの趣味は料理なワケで。

玉ちゃんに聞いてみたら「誰かさんが運命をごっちゃごっちゃにねじ曲げた」って言ってたんだけど。

つぐみの人生にはそんな変な人が居たのね。それって一体誰なのかしら。


そんなつぐみ。

顎周りにあったお肉もすっかり取れて今はほっそりとしてるし、ウェストはキュッと絞られている。

前みたいな抱き心地抜群のつぐみも大好きだったけど、これはこれですごく……いい!


そして何より、この存在感のある巨乳。

コースケなんかはつぐみを見る時に胸から視線を逸らすのにいつも必死だった。


つぐみが急激に痩せたものだから新しいお洋服を作るのに数日不眠不休でミシンと向き合ったものだわ。

ちょうどテストの時期だったから大変な点数を取っちゃったけど、頭の中は勉強なんかよりもつぐみのお祝いをしたい気持ちでいっぱいだった。




「あ、つぐみちゃん。ちょうど良かった! ごはん食べてきなよ」

「えっ、申し訳ないですよ」


一度リビングに戻ると、ソファにもたれ掛かってテレビを見ていたお母様に声をかけられた。

今日はこれからテスト勉強をする予定だったので、つぐみももう少しウチに居る予定だった。


「いいっていいって。午前中にじゃがいもを掘ったんだよ。だから食べてって」

「は、はい……ありがとうございます」


お母様は白い歯を見せて自信たっぷりの笑顔を見せる。


最近、趣味の畑に相当気合を入れているみたいで専門家を呼んで温室を作ったり、高い肥料なんかもバンバン使っている。

それに、「庭だから」っていう理由で平然と農地にしてしまった一等地の土地代の事を考えるとクラクラしそうになる。

だけど、コストパフォーマンスの悪い野菜達はびっくりする程おいしい。

東京の一等地で太陽の光をたっぷり浴びて育った野菜は、売っている野菜とは比べ物にならないほど味が濃くて自然の味がする。


私も休みの日はお母様のお手伝いをしたりするんだけど、自分で育てた野菜って愛着がすごく沸くのよね~。



清潔な白のクロスの引かれたテーブルにつくと、茹でたてのじゃがいもが置かれる。

アツアツのじゃがいもは、ところどころ皮が破れて真っ白な身が顔を覗かせていた。


「採れたてだからコレだよね」

「うっわあ! おいしそう」


私は手頃な大きさのコロコロっとしたじゃがいもにフォークを刺す。

皮を破って、すっと通る。新じゃがの皮は薄い。


「これ、皮ごと食べられるのよ」


私は誇らしげに言う。


小さめのじゃがいもを集めていて、皮ごと食べられるように丁寧に洗ってあった。

じゃがいもの芽には毒があるって有名だけど、新じゃがだから芽も出てない。

それに、日光を浴びて変色したじゃがいもも危ないんだけど、そういった物はちゃんと避けてあった。


調味料は何もつけない。

これは個人の好みの問題だけど、塩ゆでしてあるから何もつけなくたって十分おいしいのよ。

つぐみはフォークで刺したじゃがいもに、ちょんと別皿の岩塩をつけていた。


「それじゃ、いっただっきまーす」


じゃがいもを口に運ぶ。

口いっぱいに畑の香りが広がり、アツアツの身がホロホロと崩れていく。

ホクホクッと口を動かしながら、私は幸せで頭がおかしくなってしまいそうだった。


「んんーーー、おいしーー!」


とろけそうなほっぺを抑えて、私は「もう一個」とじゃがいもにフォークを伸ばす。


「うわあ、すっごく美味しいね!」


つぐみも手を合わせて目をキラキラとさせていた。

その様子を見て、お母様も満足そうにうんうんと頷いている。


「それじゃ、あたしは栗原さん達をお手伝いしてくるから。つぐみちゃんはゆっくりしてってね」

「はい。おばさま、ありがとうございます」


つぐみは満面の笑顔で答え、お母様はひらひらと手を振って厨房の方へ消えて行った。

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