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(78)エリコ、秘密のX計画

「それと並行して貴女の事も調べてるんだけど……」


玉ちゃんは急にキリッとした顔になって空を見上げる。

私の事――つまり、例の火事。通称『護摩行エンド』の事ね。


例の予知夢で、「いつ頃」「どんな原因で」「どこで」火事が起きるかを調べてくれている。

多分、私がぽやぽやと生きているだけじゃ護摩行エンド一直線だっただろうし、玉ちゃんのこうした努力は本当に心強い。


「何かお礼をしたい」って言っても、「私の行動自体がお礼」って突っぱねられちゃうし――。

「この恩をどう返せばいいか分からない」って頭をかきむしっても、玉ちゃんは「エリコと一緒に居れるだけでも十分よ」となぜか照れられてしまった。


「時期的に、私が死んだ時は秋だったから、やっぱりその辺りが怪しいわ。夢もその辺りの時期に集中してる。正直、貴女の未来はすぐに変わるからアテにはならないんだけど」


玉ちゃんに再三言われてるのは、私の未来の予知は本当に難しいという事。

なにせ、玉ちゃんと夢の中で話し合ったあの土壇場で一度火事の予知が消えたくらいだもの。

なんだか自分の運命が移ろいやすいってあんまり印象が良くないんだけど。

とにかく、玉ちゃんの夢では「火事が起きること」は確定していても場所や時期がズレてしまうらしいの。


「運命に立ち向かうって難しい事なのね」

「まあいざとなれば……火事が起きる前にあなたを異世界に飛ばすわ」

「うう……それは嫌かなあ」


真剣な顔で言い切った玉ちゃんに、私は苦笑いでごまかす事しかできなかった。


「それにしても、例のアレは本当に上手くいってるの?」

「ふっふっふ……それを聞きますか」


今度は玉ちゃんが顔を引きつらせる番だった。

私の尋常じゃない様子に完全に押されている。


例のアレ。人呼んで「X計画」。

このXというのは未知を差すものではなく、「Xという文字がくびれに似ている」という意味。

くびれ。女子の追い求める理想のボディライン。

豊満な胸、きゅっとくびれたウェスト、そしてプリっとしたヒップライン。

理想の体形を得たら、たちまち人生はバラ色に変わると約束された勝利の一文字「X」。

そんな魔の「X」。

つまり、「X計画」壮大なダイエット計画だった。

誰のって――もちろん


「ごめーん、リコちゃん中西さん」


つぐみが屋上のドアを開けてはーはーと息を切らしてやってくる。


「少し走ってきたから遅くなっちゃった」


えへ、とつぐみは屈託の無い笑みを浮かべて私の隣に腰掛けた。

控えめに言って荒れ果てた地、愚民を赦してくれる純白の百合の天使様だった。


そんなつぐみは、今ではすっかり痩せてすれ違った誰もが振り返るような美少女へと変貌を遂げていた。


しかも、ゲームのつぐみより胸も大きい!

ゲームに登場する攻略キャラ・通称「ガッカリファイブ」どころか学園の男という男を骨抜きにしそうな勢いでかわいい!

やっぱりつぐみはこの世の正義であり真理ね。


「つぐみ~! よく頑張ったわね!」


私はつぐみの頭をワシャワシャと撫でてあげる。


「やめてよ~リコちゃん、くすぐったいよ~」


じゃれあう私達を見て玉ちゃんはだんだんと無表情になっていく。


「……花巻さん。ギブアップしたい時は早めに言いなさいね。今の生活、どう見ても軍隊だから」

「?」


私は玉ちゃんの言ってる事がよくわからなかった。


つぐみは美味しそうにササミの入ったサンドイッチを食べている。

もともと食べていた食事の半分程度。

最初は心配で「大丈夫?」って聞いても「前よりお腹空かなくなったんだ」ってニコニコしていた。

だけど、こんな生活もかれこれ2か月は続いてるし、つぐみが言うんならきっと大丈夫よね。


「私はそろそろ教室に戻るわ。テストも近いし勉強しないと」

「玉ちゃんは偉いねー」


玉ちゃんは眉間に皺を寄せて私を見る。


「このままじゃあなた、また赤点よ?」


また赤点 赤点 赤点――。

頭の中で玉ちゃんの言葉がエコーする。

その言葉はどこまでも重く重く頭にのしかかって沈んでいった。


そう、私は前回のテストで脅威の点数(悪い意味で)を叩きだしてしまったのです。




結局、晴れていた空は急激に曇って雨が降って来た。

外で走るのはどう考えても無理だったので、ジムでトレーニングをする事になった。

最近できたトレーニング仲間っていうのがつぐみだ。


一回の流れが、筋トレマシーンで鍛えて有酸素運動。

時折プロテインを摂取しながら、決められたコースをランニング。

雨の日はランニングマシンかバイクマシンが選べるの。

さすが大金持ちのお屋敷。

家の中なのにスポーツジムも併設されているのよね。


だけど私は外で走る方が景色も変わるし好きなのよ。

何より季節の風を感じられるのが大好き!


このジムはお屋敷で働いてる人にも開放されていて好きに利用できる。

もちろん、ウチの家族や友達も使えるんだけど「一緒に走ろうよ」って誘うと、すごく嫌そうな顔をされるか色々理由を付けられて断られてばっかりだったわ。

どうしてかしら……。


でも、今はつぐみと一緒にトレーニングしているから、さみしくないわ!

本来ならトレーニングって孤独な物だと思うんだけど、そこは年頃の女の子じゃない?

やっぱり友達とかとやりたいのよね~。



私のこなしているメニューの三割程度とはいえ、つぐみもよく頑張っている。

何より途中で音を上げたりしないのが凄いわ。

だって、つぐみって運動もあんまり得意じゃないし。


毎日終わる頃にはへとへとになっちゃうから帰りは車を出して家まで送っているの。


最初は全然ダメですぐに休憩してたけど、最近は長時間走っても平気みたいで、いつものメニューをこなした後でもケロッとしてる。

でも、甘えちゃだめ! そこは追加メニューよ。


太りにくい体を作るために更に追い込みをかけないとね!

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