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広陵院コースケは彼女ができない(前編)

「広陵院コースケ様ぁ~!」「キャー」


犬も歩けば棒に当たる


そんな言葉がある。

広陵院コースケが歩けば女子に当たる。

一度コースケが学園を歩けば、女子が勝手に着いてくる。

協力な磁石が砂鉄を引き連れるみたいに、女子だけが彼の後ろに着いてくる。


だけど、彼女達はコースケに間違った自信を植え付けて、未だに彼女ができない。

取り巻きは居るけど、肝心な中心部が抜けている。彼女ができない。


これを私は「広陵院コースケドーナツ化現象」と名づけて我が家の問題にしている。


私の弟は高校生に上がっても――彼女ができない。


とにかく広陵院コースケには彼女ができなかった。




閑話「広陵院コースケは彼女ができない」




「姉さん! さっきから、僕の事”彼女ができない”って何回書いた?! 何回繰り返した?!」

「うるさいわね! いま一生懸命考えてるんだから集中させてよ」

「まま、まさかコレ、学校に提出する気?!」

「そうだけど」


短く返事して私は作文用紙に向かう。

土日の宿題で、「家族について」という作文だ。

作文の宿題は昔から苦手だった。

学生のうちに一回くらい賞を取りたいし、ちょっと本気出しちゃうんだから!

現国の先生はコースケを贔屓してるから、コースケについて書いたらきっとウケるわよね――


「ダメダメダメ!! 絶対ダメ~~~~!」


コースケは私の手から原稿用紙を奪い取り、ぐしゃぐしゃにした後にビリビリと破ってしまった。


「うわあ、なにすんのよ!!!」


私はコースケに手を伸ばす。けど、アイツはひょいと避けて、私の苦労の詰まった作文はあっという間にゴミクズに変わってしまった。


「何するんだはこっちの台詞だよ! 人の個人情報で賞を取ろうだなんて最低だよ! 鬼畜の所業だよ!」

「いいじゃない! 情報の周知ってヤツよ。アンタ、男の友達も少ないでしょ。コースケは意外と親しみやすいって所アピールシないと!」

「周知?! 冗談じゃない!! 僕の生活実態がバレたら絶対にSNSで拡散炎上間違いなしだし!」 


え、SNS?!

そうか、セレブ学園のプリンス枠となるとほぼ扱いが芸能人なのね……。


「え、な、なんかゴメン……」

「え、姉さん?! 何で謝るの?!」

「……ゴメン」

「………」


沈黙。気まずいと思ったのか、コースケは露骨に話題を変えてきた。


「っていうかさぁー。姉さん、この文章力で賞とか絶対無理だよ!」

「え~、テレビのドキュメンタリー番組風に書いたんだけど……あーーーん、作文が小論文に替わったら勝ち目がないのにーーーー! ラストチャンスなのに~~~!」


私は頭をかきむしった後に机に突っ伏した。


「とりあえず家族についてなんだから無難にお母様の事でも書けば?」

「……無難……ですって? ねえコースケ。お母様の事……無難に書けると思う?」

「ごめん、僕は無理だわ」


お母様が銃を持って高笑いしている姿が目に浮かぶ。

最近はよく「ライフルを持てるようになったと」自慢している。当然、ゲンさんが持っている山の管理もお母様の仕事だ。


私は散弾銃とライフルとマシンガンの違いも分かってないけど、そういうのに詳しいそよちゃん曰く「免許を取ってから何年も経たないと取れない凄い銃」らしい。


こうして、今もお母様はより自由で豪快になり、より一層「お金持ちの奥様然とした人物」とはかけ離れていった。

最近、お屋敷の敷地の一部を畑に変えて、農作業にせっせと勤しんでいる。


東京の一等地に大規模農地とかさすがの私でも色々と心配になるレベルだけど、ごはんが更においしくなったので、基本的にはお母様の味方だ。


将来的には農地の敷地も増やしたいらしくって、「ヘリで肥料撒いたりして大量生産してボロ儲けする!」とか言ってはお屋敷の庭師さんに止められている。


私は、そんなお母様の作文を提出したら生徒指導室に連行されると思っているし、多分その予想は間違ってない。



あの生活指導室と高崎先生の乱れっぷりを想像したら、思わずため息が漏れた。

もういい、休憩にしよう。気分転換も必要よ。


私はコースケが破った作文用紙をまとめてゴミ箱にポイをした。



久しぶりに外に紅茶を持ち寄り、焼きたてのお菓子を詰めたバスケットを持ってガーデンチェアに腰掛ける。


「なんか、2人でこういう事するのて、すっごく久しぶりよね」


私達は使ってなくても、お母様たちはよく利用していたみたいで、清潔に保たれている。


「そういえばそうだったね」


私達双子はここ数年の間、二人きりでお茶をしたりする機会が極端に減っていた。

この間コースケに呼ばれて腹を割って話したのだって、かなり久しぶりだ。


私は「没落ルート貯金」に備えて丈つめやコスプレ衣装を売ることでお小遣いを稼いでるし、毎日欠かさずトレーニングもしてる。

コースケは習い事や生徒会があって、勉強を遅くまでやったり大量の本も読んでいる。

二人揃ってそこそこに忙しい。


貧乏ヒマなしなんて良く言ったものだけど、お金持ちになっても私は結局忙しかった。

むしろゴロゴロしてる事も多かったし、前世の方が暇だったような……。


「とりあえず聞かせてよ。この間の水族館」


春の陽気の下で紅茶を飲むのが気持ちいい。

おひさまの香りと、若葉の揺れる心地よい風が鼻をくすぐり、鼻歌でも歌いたくなるような気分だった。


それに対して、コースケは少し顔を青くして、「ああ……」とか「そんな事もあったね」とつぶやいたりしている。


「何、フられたの?」

「ち、違うよ……! ただ――」


そうして、コースケは語り始めた。

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