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(72)彼女と選んだスタンド・バイ・ミー 5

真っ白な空間。


黒いワンピースを着た広陵院江梨子が、私の隣でふわふわと浮かんでいる。

気づかなかったけど、私も宙を浮いていた。


「ねえ――貴女、中西さんでしょ? どうして中西さんは夢の中では江梨子になるの?」

「ここは特殊な夢。魂の姿でしか入れない」


江梨子は短く答えた。シンプル。なんか、バッサリ斬られたみたいな感じ。

さっきの中西さんはもっと感情表現が豊かだったと思うんだけど――。


「で、ここはどこ?」

「人は死んだらここに来るの。私も、火事で死んだ時にここに連れてこられたわ。ここで輪廻転生をするの」


何も無いと思っていた空間には、大きな銀色の扉があり、そこに2人の女が崩れるようにして座っている。

黒髪の女の子をショートカットのスーツ姿の女の人が慰めていた。


長い黒髪の女の子は見たことがある――広陵院江梨子だった。

スーツ姿の女の人は、ちょうど、中西さんを大人にしたみたいな容姿をしている。きっと前世の私なんだと思う。


「これって――」

「貴女の忘れてしまった記憶」


確かに、こんな場所は記憶には全く無い。

もしかして、「輪廻転生する所」って――天国か地獄か決める所みたいな感じの場所?


『どうして』


女の人の落ち着いた声が聞こえる。中西さんの声にもよく似ていた。

これは多分前世の私のものだ。


『どうして泣いてるの?』

『私――生まれ変わって、もう一度やり直さなければ――いけないって――死んじゃうのに――また、死んじゃうって決まってる未来を――そんなの――やだあ!!!』


えぐえぐとしゃくりあげ、点と点を線で結ぶようにたどたどしく、泣いている江梨子は言う。

ふわふわとした光がその周りを飛んでいる。


『広陵院江梨子さんは、運命を打ち破って焼死を免れるまでは何度でも人生をやり直すと決まっているので――』


「うわ、あの光、喋った! ねえ、あれ喋るの?!」

「うるさい」



『なんで! 何でわたしなのよぉ!』


泣きじゃくる江梨子の髪を優しく撫でながら、前世の私は優しく言った。


『泣かないで。そんなの、怖いわよね』


彼女はイヤイヤと首を振るばかりで、まともに質問に答えられない。


『――じゃあこうするのはどうかしら? 体を交換して生まれ変わりましょう。あなたは私の人生を生きればいいわ。とっても楽しくって、幸せだったからきっと貴女も楽しく過ごせるわ』


ふわふわと小さな光が前世の私に近寄ってきて、困った声を出す。


『困ります、中西玉枝さんは事故でこちらの世界に魂が来てしまったのです。既に数々の”チート”能力を持つ肉体は用意しているんです。あなたが記憶を引き継いで快適に一生を終えないと、私達の責任が――』


光に向かって、前世の私がはっきりと告げる。


『責任を取りたいんなら私のわがままを聞いて。私、この子の生活がしたいの。チートとか要らないわ。チートの体はこの子にあげていいから』




白い空間が、影が覆いかぶさるようにして、暗転していく。



「そうして、タマエは私に今の体をくれた――」

「……」


私は何も答える事ができなかった。


前世の私って、今の私よりきっとずっと人間ができていて、凄く優しい人だったんだと思う。

闇に溶けてしまいそうな黒いワンピースの裾を翻し、江梨子がこちらを振り向き、力無く微笑んだ。


「そんな顔しないで。貴女が転生しても記憶を完璧に引き継げなかったのは、魂が肉体に合ってなかったから、しょうがない事なのよ」


江梨子が言うには、本来、人にはそれ相応の魂が宿るらしい。

体と魂が食い違っていると、通常ならば、記憶は体に引っ張られるのが当たり前。

”チート”と呼ばれる破格の体を用意された江梨子はともかく、私は一般人の体。

今こうして、私が前世の記憶を引き継いでいる事自体、奇跡に近いらしい。


「私は、新しい人生で『夢で未来を見る力』と『他人を夢に引きずり込む力』を得たの」


江梨子は表情を変えないまま言う。

その2つの力が彼女の”チート”の全貌らしい。

確かに、私は彼女の『夢で未来を見る力』と『他人を夢に引きずり込む力』。その両方の力を見せられた。

すさまじい力だけど、反面、足を運んだ中学校で教えてもらった凄まじい功績が”チート”じゃなくて中西さんの努力だった事に驚いた。


「夢で何度も見たわ。貴女が火事で死んでしまう所。直接接触すれば、未来を変えられると思ったけど――貴女がそんな忠告なんて聞かないて、最初から分かってた」


江梨子が私から目を伏せる。


「そんな――」

「今、この時だって――夢の中では、貴女は炎に包まれてる。その運命を打ち破るには――入れ替わるしかないのよ」

「で、でも! あなたの持ってる力じゃ体の交換なんてできないじゃない」

「……貴女とならば別。魂をもともとの入れ物に移すだけだもの。それなりに応用が効くわ」


江梨子は私の手を握り、目に力を込める。


「っ!!」

「最後は無理やりになってしまうけど――ごめんなさい。こうするしか、やっぱり――無い」


私の体は固まり、動きの自由を失う。

これも江梨子の力?

さっきの口ぶりだと、力は色々応用できるみたいだし、あり得る話よね――。

それに、ここは彼女が得意とする”夢”の世界だもの。

彼女のホームみたいな物よね。

いえ、実際に彼女のホームに来てるんだけど。


そんな事を考えているうちに、江梨子が私の背中を押して、ゆっくりとどこかに連れて行こうとしている。

彼女は、遠くで銀色に輝く扉を指さし、感情の無い顔で言った。


「……貴女をあの扉をくぐれば、夢から醒めた時に体が入れ替わる」


つまり、起きたら中西さんになってるって事?!

どうしよう~~~それって大ピンチじゃない!

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