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(58)双子の弟の想い人?!

「おお、落ち着きなさい、コースケ。話はそれだけじゃないのよ!!」

「落ち着いてられるか! 聞いてると、今の僕とつーちゃんがくっつくっていう『江介くん?』とやらは全くの別個体だぞ!」


五体投地のまま、コースケは声を荒げる。


「さあ、姉さん。早く! 僕に熱いお茶をかけてくれ……!」


人が回避したフラグを今更掘り返すなんて、非道すぎるわ、コースケ!

っていうかセリフだけなら、まるっきり変態じゃない!!!


どうしよう――。このままヤカンに火をかけたりしたら、何かしらの事故が発生して護摩行ENDな気がしてならないわ。


いえ、かわいいかわいい双子の弟に沸騰したお湯なんてかけられないけど。

でも、今なら、虫よけスプレーぐらいはかけても許される気がするわ――。


「これ絶対よそで言っちゃダメだからね! な、なんなのコースケ。つぐみと江介くんがくっつくって知ってから変――あ」

「ギクッ」


コースケは体を一度大きく痙攣させ、ピンと背を伸ばして必死に両手をパタつかせている。――顔を扇いでて、その顔は真っ赤で――


「え、コースケ、つぐみの事……好き?」

「ちちちちち、ちが……!」


そう言いつつも、コースケの顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。

え、ちょっと。ちょっと待ってよ!

うう、嘘でしょ?


「い、いつから?」

「はじめて会った時から――あっ」


コースケは慌てて口を塞ぐ。だけど、時既に遅しって奴で――


「はぁーーーーー?! 知らなかったわよ、何で隠してたのよ! 磯臭いわねえ!」

「……それを言うなら水臭いだよ……」


コースケは、糸が切れたように力が抜けてしまったようで、だらりとテーブルにもたれ掛かっている。


「……姉さん、コレ、絶対誰にも言わないで。姉さんはうっかり口を滑らすと思うんだ」

「いいい、言わない。言わないけど、ああああ、あなた、ちゃんとつぐみには言ったの?」


コースケは眼光を鋭くしてこっちを睨んでいる。

尋常じゃない負のオーラがこの根暗な少年を包んでいる。

こ、怖い……! 夜中青白い顔で枕元に立たれたら呪い殺されるんじゃないかしら……。

護摩行エンドで怨念と一緒に焼き払われる前に、呪いで死んじゃうわよ!


今日のコースケは執念とか怨念とかそういう言葉がよく似合うわね。


「言えたら……そんなに苦労しないよ」


だけど、コースケは一気に力を抜き、灰と化してしまった。

なんというか、不憫の一言で終わらせるにしては、色々と言いたい事がありすぎる光景だった。


とにかく、私は本題だけでも言っておく事にしようかしら。


「それでね、コースケに相談したかったのは、ゲームの事、知ってるっぽい子がね、私に忠告? みたいなのして……苦労、してたんだけどね。えっと、コースケとつぐみから離れろって言ってきたりして――」


コースケは再び目の色を変えて、姿勢を正す。

そこには、キリリとした、賢そうな男の子が居た。

いつもの、学校での王子様のコースケだ。


さっきまでうじ虫なんて自嘲していた根暗男子はどこにもない。


「どういうこと、姉さん」

「中西さんって子がね、コースケとつぐみとは関わるなって。離れろって――あの子と一緒にいたら、頭の中に火事の映像が流れて――その、その――一緒なの。ゲームの中の、広陵院江梨子も、火事で死んじゃう……。江梨子の居る屋敷が燃えちゃうのを、ゲームの中では、つぐみと江介くんは見てて……」

「聖は? 聖なら姉さんを助けてくれるでしょ?」


私は黙って首を横に振る。

いつも眉間に力を入れて息を潜めている桐蔭くんとは全然違う、ゲームの中の桐蔭聖の眠たげな姿を思い出す。

桐蔭聖は、江梨子と仲なんて全然良くなくって、江梨子の片思いで――


「ゲームの中では、桐蔭聖は今みたいに忍者じゃなくって、普通の子で……。生徒会に居るのだって、江介くんじゃなくって、桐蔭聖なの。その、桐蔭聖は、江梨子がつぐみをいじめてる事を告発して、断罪して、婚約破棄して――」

「聖も?! 現実と全然違うじゃないか。っていうか……まともな恋愛してる時点でどう考えても別個体でしょ。って、姉さん? どうして泣いてるの」


あれ、私は慌てて目を拭う。

泣いてるつもりなんてなかったんだけど――あれ、何で泣いてるのかしら。


「あ、あれ? べ、別に平気なんだけど――全然不安なんかじゃないし。不幸な未来を避けるためにずっと頑張ってきてるし、強くなったから、もし桐蔭くんに裏切られてもへっちゃら――いえ、裏切るなんて。私のやった事を告発されるだけだし、身から出たさびだし……」

「落ち着いてよ、姉さん――! 姉さんは何も悪い事してないじゃないか」


ギクリ、とした。

恐る恐る顔を上げる。


「私――何も悪いこと、してないと思う?」


コースケは一瞬固まったが、ぎこちない動きで一度頷く。


「つぐみは……私のせいで太ったのよ」

「そ、それは……!」


私は、抑えているものが何も無くなって、ぶわっと涙が溢れだし、ドクドクと流れ始める。


「うわーん、だめよー! 私、つぐみを太らせちゃったのよーーー! つぐみが幸せにならないなら、このまま中西さんの言うとおり、護摩行ENDかもしれないのよーーーー!」


そう、私は悪行をやらかしている。

つぐみを――太らせている!!!


あれ、でもそれって――つぐみが不幸になったら、私のせいって事じゃ……。

太ったままでも幸せになれば、私が悪い事したって事にはならないし――

泣いてなんていられないわ!


「ねえ、コースケ!」


私はパッと立ち上がり、コースケの両手を取る。


「お願い。あんたがつぐみを幸せにしてあげて!」

「えっ?!」


目をキラッキラに輝かせ、私はコースケの顔をじーーーっと見つめる。

そうよ、コースケとつぐみがくっつけば、大団円じゃない!

もちろん、コースケにはつぐみに恋してもらえるよう頑張らなきゃいけないけど、私も幸せだし。


「姉さん――ひとつ聞きたいんだけど」

「ん?」

「中西さんって人は――僕とつーちゃんから離れろって言ったんだよね」


私は頷く。


「それが何?」

「ゲームでは、僕と姉さんは仲が良くないんだよね。僕とつーちゃん、姉さん――いや、江梨子が深く関わるのはどういう時?」

「それなら! 朗報よ、コースケ。つぐみと江介くんがくっつく時は、江梨子がここぞとばかりに登場するわ! 江梨子が、コースケを利用してつぐみをいじめようとしている間に、2人は強くひかれ合うの!」


コースケは、何か真剣な顔をして考えこむ素振りを見せた。

だが、すぐにぎこちない笑顔を作る。


「そっか、って事は、僕たちは良い感じって事だね。ありがとう。姉さん、ちょっと一人で考えたいから、今日はもう解散にしよう」

「え? な、何よコースケ、いきなりじゃない」

「僕も2日寝てないから、いい加減寝ないと」


コースケはグイグイと私の背中を押し、無理やり廊下へと押し込んだ。

背中で扉を無理やり締める音が聞こえ、私は呆然とする。


「な、何? 変なコースケ」


「どうしよう……それって、僕とつーちゃんが結ばれたら――いや、判断が早い。どうすればいいのか……」

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