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(50)すき焼きの罠!

そんなこんな、いろいろあったワケだけど、結局CS−33【キクチさん】は、学園の生徒に普及されなかった。


理由は簡単、不気味、蒸れる、そして揺れるの三拍子。


特に、この「揺れる」は致命的で、試しにウチの庭で仲間内で搭乗してみたけど、本当に揺れがひどい。車酔いや船酔いするタイプなら完全アウトよ。

コースケは、真っ青な顔で降りた瞬間に口を抑えて駆け足でどこかに去ってしまった。


桐蔭くんは難なく乗りこなして「ふむ、ソヨギ、これを改造できないか?」なんて聞いてたけど、そよちゃんに「ワンオフは作らん!」と一蹴されて終了。

そよちゃんは、こと「量産」に関してはガンコとかいうレベルを超えている。


私も乗ってみたけど、普通の制服のほうが可愛いし、せっかくの人生一度の高校生の制服を捨ててまで、こんなのに乗るのはバカバカしいと思っちゃった。


つぐみも同じ意見みたいで、「男の子向けだよねー」と苦笑いしていた。要するに、可愛くない、と言いたかったんだと思う。


一応、万が一の事態(それはアレよ。つぐみが今以上にアレすることよ)に備えてロボット制服は中等部、高等部に採用されていて、生徒手帳にこっそりと「指定の制服、(制服、または第二制服)を着用し登校すること」と書いてあるけど、かなりマイナーな校則だったりする。


もちろんこれは、そよちゃんにとって全く面白くない。

「なぜ量産機の良さがわからん! 世界初の技術を幾つも使っているんだぞ!」と憤慨していた。(「技術」という単語に露骨に反応したのは桐蔭くんだった)


入学前日、「私がこの機体が優れていることを証明する!」と張り切って、「お嬢のボディガードをしていれば分かるだろう」と宣言し、機体のメンテナンス後、遅れて登校と約束した。



こうして、高校生編第一話(今治くん視点)のあのシーンに戻る。



まあ、正直、「またまた。そう言って学校サボるつもりでしょ、奥さん」とは思っていた。


だけど、そよちゃんは本当に学校に来た。

本当に学校に来て、同級生を銃(本人曰くモデルガン)で脅した。


私は唖然としたけど、今治くんはもっと唖然、いえ、狼狽していた。


そよちゃんがバズーカを撃って今治くんのおでこにキーホルダーをぶつけた時は、心臓が止まるかとおもったわよ。


嫌がるそよちゃんを、私と桐蔭くんで抑えつけて菊池さんから無理やり引きずり降ろして、不貞腐れたそよちゃんに


「ここで反省してなさい! それで、今治くんに会ったら謝りなさい! それと銃は今後一切禁止!」


って叱りつけた結果、あれよ。



今治くんが、まさかの、キクチさん(=そよちゃん)に恋しちゃったってワケ。


人生、何が起こるか分からないものね。

もちろん、今治くんはキクチさんの中身を知らないわけだし。

あれ、ひょっとしたらこれ、かなり面白い状況なんじゃ!


いえいえいえ、今治くんは怪我をしたのよ。

「俺を怪我させたのがあの可愛い子?! あはっはっなんだー。むしろご褒美じゃないか!」なんて、笑って済まして貰えるような話じゃない。

もしかして、そよちゃんの正体を明かしたら一瞬で千年の恋も冷めかねない。


とにもかくにも、そよちゃんが今治くんをどう思ってるから、これからどうするか聞かないと。

あと、人に銃口を向ける癖をどうにか辞めさせるべきね。

あんなの平気なの、私と桐蔭くん位よ。


だけど、やっぱり、私としては、今治くんとそよちゃんがくっついたら都合がい……いえ、面白いと思うのよね。


いけないいけない、どうも昔(前世)から目的のために魚雷のように一直線な性格みたいだけど、欲望の先にあるのは破滅だけよ。


特に今の私は広陵院江梨子で、破滅人生が約束されたキャラクターなんだから。


破滅……そういえば死亡ルートなんてものが有ったわね……だけど、今はどうでもいいわ。

だって、向こうから、お肉の香ばしい匂いがするんだもの! あまーい匂いとお醤油の混じったこの香りはきっとすき焼きね!


だけど、ここは広陵院本邸から別邸へと続く道。一体どうしてすき焼きの香りがするわけ?


まあいいわ、私は呼ばれてるのよ、すき焼きに。きっと。絶対。


「あった!」


そこにあったのは、切り株の上に乗ったガスコンロと、すき焼き鍋。

鉄の鍋の中でぐつぐつと音を立てて煮立っているのはどう見てもすき焼き。やっぱりすき焼き!

割り下でほどよく黄金色に染まった、白ネギ、白菜、しいたけ、お豆腐、白滝、お肉、エトセトラ。

お肉も頃合いで、ふわりと鼻をくすぐる香りに思わず涎が垂れる。


美味しそう。すごく。

でも、どうしてこんな場所に?

ひょっとして、何か裏があるんじゃ――



――ばっきやろう!


その時、頭の中で声がした。

え、誰?

どなたです?!


――ばっきゃろう、広陵院エリコ! すき焼きを見て怪しむなんて、貴様、それでも広陵院エリコか!!!


ハッ、あなたは!

あなたは!

広陵院エリコ監督じゃないですか!!!!


(広陵院エリコ監督)貴様、すき焼きだぞ! すき焼きをなぜ疑う! 貴様はな、すき焼きに比べたら何だ。ゴミだ。クズだ。このバータレが!


(実況)おーっと! 闘将広陵院エリコ監督! 帽子を地面に投げつけて球審の広陵院エリコに噛みつかんばかりの猛抗議をかけている! これはどう思いますか、解説の広陵院エリコさん。


(解説)そうですねー。これには観客席の広陵院エリコさん達も唖然ですね。


え、何?!

一体なにが始まったの?!


(実況)まさに晴天の霹靂! 広陵院エリコ監督の猛抗議は続く! さて、始まりました。今夜の放送は私、実況の広陵院エリコと解説の広陵院エリコさんでお送り致します。


ああ、あ、あ、あああっ!!!!!

なんていうか、あなた達、ほんっとうに久しぶりね。

小学生ぶり? 


(監督)うるせぇ、んな事言ってる場合じゃねぇだろこのバータレ! 目の前にすき焼きが有るっちゅー事はよ。すき焼きが食えるっちゅー事なんだよボケガァ!


監督は新キャラみたいだけど、めちゃくちゃ口が悪いわね。


でも、あなたの言うとおりだわ。

すき焼きもある、お箸もある。

ロケ地が雑木林の切り株じゃなければ普通にいただきますしてるわ。


(監督)今だ! 今がチャンスだ広陵院エリコ! 早く召し上がれコラァ!


わかりました監督、広陵院エリコ、すき焼き、食べます!!!


(実況)おっと、広陵院エリコ選手、華麗にダイブ! 箸を持ってすき焼きを小皿によそう!!


「わーい!! すき焼きだー! いっただっきまーす。むぐむぐ、おいし~~」


私が最初のジャブ代わりに、たっぷりとお肉をお箸ですくう。

わあ、柔らかい!

それに味が染みている。甘めに味付けされた割り下も、程よく甘さと塩気が整っていた。素晴らしい。



(解説)それにしてもこのすき焼き、一体、誰が何のために用意したのでしょう。


(実況)・(監督)……。


「あっ……確かに」


(解説)え、考えてたの私だけですか?! 私だけだったのですか?!


「ま、いっか~。おいしいし! このすき焼き」



しらたきに手をつけ始めたその時、頭上から何かが落ちてきた。

――ケージだ。


ガッシャンと音がして、私はケージの中に閉じ込められていた。

流石に一瞬だけ、箸が止まる。


「よっしゃ、捕獲成功!」


茂みがガサゴソと動き出し、2人の人影が飛び出してきた。

え、なにこれ? 罠?

もしかして誘拐犯?


私の背筋に冷や汗が伝う。


「って、エリコかーい」

「ほら、言ったでしょ、お母様。これは絶対姉さんが引っかかるって」


茂みから出てきたのはお母様とコースケだった。


「なんだ~」


これで、誘拐犯の線は消えたわね。

私はすっかり安心して、すき焼きを食べ続けた。

うーん、おいし~。

でも、白いご飯が欲しいわね。

生卵も欲しい。

それに、シメのうどんも強烈にほしいわ!


「お母様、ごはんはどこ?」

「……無いよ」


ややガッカリした声のコースケが答える。


ガーン! 


美味しいすき焼きを食べてるのに、ごはんも生卵もうどんもないの?!

もしかして、これって新手の拷問?!


「ひ、ひどいわお母様、私、何か悪いことした?!」

「うーん悪い……強いて言うなら姉さんの頭が悪すぎることだね」


お母様とコースケは悩ましげに腕を組み、ウンウンと唸り合っていた。

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