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(46)庶民の俺と未来産アンドロイド/今治くん視点

やたら豪華な校庭の掲示版に張り出されたクラス分け表を見上げ、俺は戦慄した。


・今治 星夜


何度確認しても俺の名前は一年B組。


とりあえず、ゴキゲンなクラスメイトを紹介しよう。



・竹原 誠一



まずコイツ。俺と同じ塾に通っていた、あの憎きリア充。

受験生の俺に見せつけたあの光景。

憎い。

親の敵か、それ以上に憎い。

かわいいツインテの彼女持ちの竹原が憎い。


が、今はそんな憎しみなんてどうでもいい。

それ以上に別の感情が湧き出して、留まる事を知らない。


その感情は何だって――?

恐怖だよ。



・広陵院 江梨子

・桐蔭 聖

・花巻 つぐみ



マロン・モージュが3人。

もうお腹いっぱいを通り越して吐き気と胸焼けがひどいんですけど……ボク。


花巻つぐみとは、いまだ会っていないが、多分、広陵院(姉)と桐蔭聖を見てる限り、彼女も「ソッチ系」なんだろうなぁ。



そして最後はコレだ。

俺の全身に鳥肌を立たせる、この名前。



・菊池原 戦



この禍々しい字面。


「戦」ってなんだよ、「戦」って。

これ絶対アイツだろ!!


うさぎさん被った未来産アンドロイドだろ!!


つーか生徒なのかよ!

どう見たって、学生には見えねーよ!


いや、待て。

もしかしたら違うかもしれない。

俺の勘違いかもしれない。



実はあのうさぎ+マッチョのアンドロイドは生徒ではなく、部外者。

「菊池原 戦」は別に存在して、俺好みの美少女なのかもしれない。


低身長で、腰まで伸びたツヤツヤの髪。色白で目はぱっちり。

ちょっとシャイな、かわいい女の子かもれない。


あー、そうだといいなー。

いや、そうであってくれ、頼むから。

神様、マジ頼むから。



いや、そこまでは言わない。

例えば今、隣でクラス分け表を眺めてる、この女の子。

160cmくらいで、スラっとしてて、黒髪のショートヘア。

「いかにもスポーツできます」系なこの子。


少しキツ目だけど、大きな目で唇はぷっくりと赤くて少しセクシー。(そのギャップがいい!)

この学園では珍しい、スニーカー派。

首にはカラフルなイヤフォンを引っかけている。


この子が「菊池原 戦」なら俺はとにかく嬉しい。

高校三年間彼女ができなくても、竹原とツインテのイチャイチャを見せつけられても俺は受け入れる。


そうであれ!

頼む!!!

っていうか男子で全然いいから!


アイツ以外ならどんな化物でも受け入れるから、俺!!!



「あら、キクチ。同じクラスよ。良かったわね」

「アア、任セロ、お嬢」


隣に立つニ人組。というか、一人と一機。

広陵院エリコと、うさぎさん頭のアンドロイドだ。

ハイ、「菊池原 戦」。コイツで確定。



何度聞いても、あの合成音声は俺に恐怖を与える。

逃げよう、と思ったが、足がすくんで動かない。


「あら、今治くん。同じクラスね。一年間、よろしくね」

「ひっ」


ソッコーで見つかってしまった。 

俺は引きつった笑顔のまま固まってしまった。


笑顔を浮かべるエリコさんは、やっぱり美人だ。

外見だけじゃ、とてもじゃないけどソックタッチを剥がしながら猛ダッシュして、盗撮イケメンを謎の技で木から落とすようなトンデモ異次元女には見えない。


「よ、よろしくおねがいします……」


俺はなるべくエリコさんの方を見ないようにして言う。

その隣に控えるキクチさんが怖いからだ。

っていうかさっきから機械系の駆動音がするんですけど……。

やっぱりコイツ人間じゃないんだな。


「あら、あなたの制服、裾が少し長いみたいね」


ふと、エリコさんの目線が俺の足元に向く。


「あ、はい」

「制服の裾詰めとかなら任せて。男の子だから、まだ背は伸びるだろうし、裾出しもするわよ。はいこれ、予約書類」


エリコさんはそう言ってピッと取り出した一枚の紙を俺に渡す。

名前と連絡先を書く記入用紙だった。

受付番号を書く欄もある。

まるで業者みたいだった。


「今治くん、マロン・マージュの『美』って知ってる?」 

「まあ、一応」


あれだよな、『桃園学園の美を司る、広陵院エリコ』。


「ただのお直し屋さんだから。私。お小遣い稼ぎしてるの。校則をすり抜けるスカート丈詰めでお馴染みなの。よろしくね」


なるほど、制服のお直しか。

それなら『学園の美』を司るっていう意味もなんとなく分かる。

だけど、「デザインした服が高値で取引されている」って噂は一体何が元になってるんだろう。


後で聞いて……みなくていいや。

俺は広陵院エリコとはかかわらない。

もちろん、このキクチさんとも!


「お嬢、コノ一般人、ナゼコチラヲ見ナイ」


――っていうか、さっきから視線が怖いんですけど?!

それに、一般人って俺のこと?

俺、一般人?!

確かに庶民だけど、AIには「一般男子高校生」みたいに映ってるのかな……なんかショックだ。


「そ……ゴホン、キクチさん。この人はシャイなのよ、貴方と一緒よ」

「……ソウカ」


キクチさん、シャイなんですか?!

これ、きっとAIとかで動いてるんだよね? 

そうだよね? 設定がシャイってどういうこと?


っていうか、もしかして、エリコさん。俺の事をキクチさんから庇ってくれた?

やっぱりこの人、いい人なのかな?


「あと、今治くん」

「なんですか?」

「花巻つぐみはね――世界一かわいいの。異論は認めないから」


意味がわからない。

だけど、俺はとりあえず頷いた。

目がマジで、強制力があった。


キクチさんも、プラスチック製の目でこちらをじっと見ていた。

なんなん、やっぱコイツ、なんなん。


「ちょっと、友達作るチャンスよ」

「……ワカッテイル……」


彼(?)を、エリコさんがちょいちょいと小突いていた。



俺は戦慄を覚えつつも、見ない振りをして、昇降口へと足を向けた。


「オイ、一般人」


合成音声。俺は恐る恐る振り返る。

やっぱり一般人って言った!


キクチさんは拳銃を取り出し、俺に向けていた。


「ひ、ひいい!」


俺は両手を挙げて、腰を引きながら、首を全速力で振る。


「違うのよ、今治くん。キクチはシャイなの。幼い頃のトラウマで、拳銃を向けないと人とまともに会話できないの!!!」


エリコさんが焦った様子でまくし立てる。

拳銃を向けないとコミュニケーションできないってどんなシャイだよ!

プログラマーは設定見なおせよ!

なんなんだよ、この不良品!!!!


「オイ、一般人。落チ着ケ」


落ち着けるか!

キクチさんはじりじりと俺に近づいていき、ついに、銃口はピタリと俺の額にくっついてしまった。


「ひええええ! ごめんなさい!! ……いいいいい、命だけは!!!」

「いいから質問ニ答エロ。貴様、量産機は好キか!」

「ハイ! 好きです!!! だから許してください!!」


俺は考える間もなくイエスと首を縦に振る。

首を縦に振りすぎてモゲてしまんばかりに言う。


ズギャン!


俺の足元にボコリと穴が開く。

え、コンクリートじゃん――

サアっと体から血の気が引いていく。


「スマン、間違エタ」


俺は地を這いながら、闇雲に逃げ出していた。


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