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お姉様の様子がヘン/コースケ視点

お姉さまがヘンだ。

ヘンになったお姉さまは、宿題のドリルを抱えて「ありがとー、コースケ。またお願いねっ!」ってぶんぶん手を振って部屋を出ていった。

僕はうれしくって、ついつい笑顔になってしまった。



ずっとお姉さまが怖かった。

僕を見つけると睨むし、きげんが悪い時は、いたい事もされた。

最初はぬいぐるみを投げられるだけだったけど、だんだんエスカレートして、ぶったりけったりもされるようになって、僕はどうしていいか分からなくって、下ばかり向くようになってしまった。

だけど、お姉さまはそれが気に入らなかったみたいで、今度は僕に聞こえるように悪口を言うようになった。

どうすればいいんだろう。

どうすれば、お姉さまは僕にひどい事をしなくなるんだろう。

いっしょうけんめい考えたけど、お姉さまはやさしくしてくれない。

消えちゃいたいって毎日ふとんの中でお星様おねがいする、悲しい毎日だった。


でも、僕はお姉さまが本当はやさしい人だって知っていた。


僕たちがもっと小さかったころ。夏休みに南の島に行った。

その時、お姉さまはココナッツのジュースを飲んでいた。僕がうらやましそうにそれを見ていると、お姉さまが僕にそれを全部くれた。ほとんど口をつけていないジュースなのに。


「とくべつにあげるわ」


そう言って、お姉さまはどこかに行ってしまった。

だけど、あのジュースが甘くてまろやかで、どくとくの風味が鼻から抜けて、とびきりおいしかった事を僕は忘れない。


お姉さまは本当はすごく優しい人なんだ。僕をこわい顔で見るのは悪い悪魔に取りつかれてしまったせいだからだ。

あれから、僕はそう思うことにして、ひたすら毎日をたえた。

だけど、相談しても、学校の友達は「そんなわけない」「コースケは勉強はできるのにコドモだな」とか僕の言う事をぜんぜん信じてくれない。

お母様も同じだった。「バカな事を言ってないでお勉強しなさい」って怖い顔で怒られてしまった。

僕の話をまじめに聞いてくれたのは、たった1人のメイドさんだけだった。


お姉さまのお付きのメイドさんは、僕がいっしょうけんめい説明したら、ちゃんと信じてくれた。


「そうですね、コースケさま。ですが、コースケさまがお勉強をがんばれば、エリコさまもきっと目を覚ましてくれるでしょう」


メイドさんは、「この話はおくさまには内緒ですよ」と言って、にっこりと笑って僕の頭をなでてくれた。



だから、今朝、ポタージュを飲んで「ありがとう」って言ったお姉様をおかしい、なんて僕は思わなかった。

お父様やお母様は「あの子は何を企んでるんだろう」とか、ひどいことを言っていたけど、僕の胸にはひっそりと希望がわいてきた。


もしかしたら、悪い悪魔が僕たちをだまそうとしてるのかもしれない。そう思ったけど、僕は信じてお姉様と会うことにした。



けれど、僕の心配は「きゆう」だったみたいだ。

お姉さまがおっきい方の焼き芋を僕にあげようとした時、僕はハッキリとかくしんしたんだ。

あの、南の島でジュースを分けてくれた優しいお姉さまが帰ってきてくれたんだって。

きっと、今のお姉さまは「ヘン」なんじゃない。今までが「ヘン」だったんだって。


焼き芋を一生懸命振っているお姉さまは、とってもおかしくて。でも僕をにらまずに見てくれたのが凄くうれしくって笑い出すのをおさえるのがとっても大変だった。


お姉さまといっしょに食べた焼き芋は、ホクホクしててとっても甘くて。

南の島の太陽の下で、小さくなっていくお姉さまの背中を見送りながら飲むジュースよりずっとずっとおいしかった。



夕ごはんを食べた後、本当にお姉さまが帰ってきたかどうか不安になった。また悪い悪魔がお姉さまの体を乗っ取ってたらどうしようって。


だから、僕はお姉さまに少しいじわるな事を言った。「宿題をちゃんとやってね」って。

でも、お姉さまは優しいお姉さまのままだってすぐに分かった。

悪い悪魔なら、宿題って聞いて急に顔を青くして「どうしよう」って呟くわけがないし。

だから、お姉様が帰ってきてくれたってわかって、僕はもっと嬉しくなった。それに、お姉様はとってもおもしろいから、ついついずっと見ていたくなっちゃう。


 

お姉様が宿題を教えてって僕に言ってくれた時、やっぱりすごく嬉しかった。

お勉強はクラスの誰よりもいっしょうけんめいがんばってたから、大得意だ。


『コースケさまが一生けん命お勉強をがんばれば、エリコさまもきっと目を覚ましてくれるでしょう』


きっと、あのメイドさんの言っている事は本当だったんだ、って僕はとってもかんしゃした。


でも、僕を「こーちゃん」って呼びたがったりするし、お姉さまはやっぱりヘンだ。


そんな、面白くてやさしいお姉さまを、僕が守ってあげたい。

また悪い悪魔がお姉様に取りつこうとしたら、今度は僕がやっつけるってきめてるんだ。


「お姉ちゃん」って呼ぶのは少し照れちゃうし、あんまりにも面白くて、ついついからかってみたくなっちゃうけど、僕はこの、「本当のお姉さま」がとっても大好きだ。


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