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(43)庶民の俺とマロン・モージュの会/今治くん視点

俺・今治(いまばり)星夜(せいや)は今、桃園(とうえん)学園高等部の正門をくぐる。

今日から晴れて、セレブ学園の生徒の仲間入りだ。


が、俺はセレブなんかじゃない。

学業推薦の併願志望で合格して編入した、いわゆる「庶民組」というヤツだ。

桃園は庶民への偏見が凄いという。庶民というだけでセレブのボス達の風当たりが強くなるらしい。


俺達の学年には要注意人物達が居る。

そいつらが学年のセレブ達を仕切っているという。

通称『マロン・モージュの会』。

幼いころ、桃の木の下で盃を交わし、仁義を貫く事を誓ったというまことしやかな噂がある。

なにそれ怖い。ヤ◯ザじゃん。


ちなみにこれは、塾の友達の竹原くんが教えてくれた。

「俺達ずっとともだちだよ!」って一緒に誓った竹原くん。

「受験に女なんていらないよな!」って言った俺の言葉をウンウン頷いていた竹原くん。

そもそもエスカレーター式の桃園の生徒なので、受験をしなかった竹原くん。

3年生の秋、遅くまで一緒に勉強して、バイバイした後にふと振り返ったら、色白ツインテの大層美人な女の子とイチャイチャしてた竹原くん。


ちなみに俺は学園で竹原と一緒のクラスになっても絶対に友達になるつもりはない。



『マロン・モージュ』は俺達庶民の間でも有名らしくて、ちょっとミーハーが女子が教えてくれた。

クラスでも桃園に行くのは俺だけだったので、らんらんとした目で鼻息荒く『マロン・モージュ』を語ってくれた女子達。

その姿はあまりにも真剣だったので、ちょっと怖かった。


『マロン・モージュ』を構成するのは4人。


一人目は桃園中等部で生徒会長を務めていた広陵院江介。

成績は常に上位で、中等部時代のテストの大半がトップだったらしい。

『マロン・モージュ』の頭脳とも言える。


スラっとした長身で、メガネをかけているらしい。当然イケメン。

容姿端麗で育ちも良く、頭も良い。

そんなのは神だ。

こんなヤツがクラスメイトなら俺は嫉妬を通り越して絶望する。


もちろん桃園学園の女子人気ぶっちぎりナンバーワン。

その甘いマスクと知性ある言葉、おまけに美声に上級生・下級生はもちろん、女の先生までも骨抜きにしているという。



ニ人目は江介の双子の姉の広陵院江梨子。


『マロンモージュ』の『美』。

容姿端麗なのはもちろん、スポーツ万能で女子のファンも多い。

江介には及ばないものの、頭も良く、テストの成績も常に上位をキープしている。


黒髪ロングのザ・お嬢様という感じの清楚な容姿で、背筋を伸ばして歩くその凛々しい姿は見ている者にため息を吐かせる位美しい……らしい。


彼女は『マロン・モージュ』だけではなく、桃園の『美』を司ると言われている。

よく意味がわからなかったが、江梨子のデザインした服は桃園内で高値で取引され、それが何度か転売され、とんでもない値段に跳ね上がるらしい。

金に汚いのかな。なんかやだなー。


庶民どころか、竹原くんも足元にも及ばないらしい。

リア充の竹原くんが足元にも及ばないとか、とっても凄い人なんだと思う。


怖いな……やだな……いきなりキッとか睨まれたりするのかな。

すげえキツそうだもんな、聞いてると。


黒髪ロングの美人が俺を睨んできてフンってするのかー。

やだなー。いや、アリだなー。

もしかしたら俺は、桃園で目覚めてしまうかもしれない。



三人目は花巻つぐみ。


『マロン・モージュ』の『良心』とされている。

天使のようなほほ笑みの女の子だという。


4人の中では唯一の庶民の出。

女子は心ない事を言っていたけど、人の心がわかる優しい女の子なんだと思う。

四葉のクローバーにお祈りしちゃうような健気で今にも折れてしまいそうな程儚いかんじの。


竹原くんに聞いたら「まあ……かわいかったよな」と言われた。

多分、竹原くんはカノジョができるまではつぐみちゃん狙いだったんだ。きっと。



そして四人目・桐蔭聖。


こいつがこれまた厄介だ。

『マロン・モージュ』の『番犬』と言われている。


フランス人のクオーターと聞いた時点でおなかいっぱいだった。

ワイルドかつミステリアスな美少年で、基本的に何を考えているか分からない。

が、闇討ちが得意らしい。


うん、意味がわからない。


何を考えているか分からない奴の特技が「闇討ち」って一体何なんだ。

まるで分からないけど、イケメンの金持ちなので、とりあえず避けるに限るな。

っていうか多分、俺なんて眼中にないと思うけど。


とりあえず、今わかっている事はその4人とはかかわらないのが一番という事だ。


校門で決意していると、


「待ちなさァーーーーーい!!」


という半分裏返った女子の悲鳴が聞こえた。


モップを片手に黒髪ロングの女の子がスカートを翻しながら全速力で校庭を駆け抜けている。

デタラメな速度だった。

全天候性のはずのグラウンドに砂埃を立て、ビューーーンと俺の前を通りすぎていく。

黒髪ロングで足が速い。つまり、運動神経バツグン。

広陵院江梨子と特徴が一致するけど、絶対別人だ。

だって、片足だけソックタッチ剥がれて靴下が下がってるし。

『美』を司る人はソックタッチを剥がさないし、こんな奇声上げないよ。


「うおおおりゃああああ」


すると、黒髪ロングはモップを地に付け、棒高跳びの要領で跳躍。


この時点で俺、唖然。

これ、良い子は絶対にマネしちゃダメだからね。


「ハァッ!」


彼女は、滞空中に、ボールを7つ揃えると龍が出てくるマンガとか、格ゲーとかで見る「破」の構えを取る。

すると、遠くの大木からボトリと何かが落ちた。


人だった。多分、金髪だったと思う。


黒髪ロングは華麗に着地し、モップを持って駆け出す。

やっぱり早い。



俺も気になって追いかけてみると、男子が木から落ちて伸びていた。

それを黒髪ロングがツンツンしたりしている。


やましいことは無いけど、とりあえず俺は生け垣に隠れて事の顛末を見守る。



黒髪ロングが金髪男子のポケットから何かを探り当てている。デジカメだった。


「クッ、また失敗か……」


凛々し顔の男子生徒が葉っぱのついた頭をくしゃくしゃとする。

やっぱり金髪だった。

そして明らかに西洋の血の混じった顔をしていた。

いや待て、桐蔭聖だって決めつけるのはまだ早い。


「もー。また更衣室の隠し撮りしたのー?」

「仕方ない。任務だ」

「写真部に助けて貰ったからって、あいつらの指示をバカ正直に受ける必要はないのよ? 全くバカね~」


なんて会話が続く。


「でも、捕まったのが私で良かったわね。裸にひん剥いて学園内を引きずりまわすだけで済むんだから」

「クッ……仕方ない。好きにするがいい」

「アンタじゃなくて写真部の連中をよ」


黒髪ロングの言葉に、金髪は額から一筋の汗を垂れ流していた。


物騒な女だな。

さて、これ以上のぞき見しても仕方ないし、そろそろおいとま――


「何奴」


背を向けた俺の脇を何かが通りぬけ、数本髪の毛を切ってザシュッと木に刺さった。

ユーロ紙幣だった。


時代劇的なシチュエーションだったけど、飛んできたのはクナイでも手裏剣でもなくなぜかユーロ紙幣だった。

色々ハチャメチャだったけど、紙が木に刺さるって――おかしくない?


「にゃーお」


とりあえず猫の振りをした。


「何だ、猫か」


金髪は言った。彼はバカだった。


「んなワケないでしょ」


黒髪ロングは、どこからか取り出した紙を丸めてスパンと叩く。

なんというか、漫才コンビだった。


「そこの人、悪いんだけど、ちょっとだけお話がしたいの。いいかしら」


黒髪ロングに止められ、俺は振り返る。

今、ようやく気づいた。彼女はとてつもなく、ハッとするような美人だったのだ。


「あのね、さっき私達がしてた話、聞かなかった事にして欲しいの。この子、バカだからよく騙されるのよね」

「は、はあ」


やけに「バカ」を強調するな。ひどい子だ。


「ね、おねがい。これあげるから」

「え、そんな、悪いですよ――」


出た、セレブ特有の金で解決するアレ。

手の中がずっしりと重たくなる。

きっとこれは――彼女の手が離れ、手の中を確かめる。


って大福かーい。


「苺大福よ。友達のお母さんが作ってくれたの」


意気揚々と言う黒髪ロング。


「あら、制服が新しいわね。あなた、新入生? 実は私達も今日から高等部に入るの。よろしくね」


そう言って、彼女は握手を求める。


「今治聖夜です」

「私は広陵院エリコよ」


うっそー。


ソックタッチが片方だけ剥がれた女は、正真正銘の広陵院江梨子。

『マロン・モージュ』の『美』なのだった。


俺は想像もしていなかった。

彼女がこんな足元にも及ばない(物理)系女子だなんて。


確かな事は、えらい美人なことと、目をそらしてフンッどころか、おまんじゅうをくれる女の子だった事。


って事はあの金髪は――


「ちなみにあっちのバカは桐蔭聖よ。よろしくね」


ですよねー。


と、その時、ズギャンッという音とともに俺の足元に大穴が開く。


「オジョウ、オケガは」


俺の後ろから現れたのは、強靭な肉体になぜかディフォルメされたうさぎさんのかぶりものをした大男だった。右手にメチャクチャ物騒な物を持っている。多分土に穴を開けたのもコイツだ。


「アンシンシロ、モデルガンダ」


っていうか声が合成音。

どう見ても人間じゃない。

ハリウッド映画のアレだ、未来から来た殺人アンドロイドだ。「アーイルビーバーック」とか言うアレだ。


「ひい、ひーーーー」


俺は、恐怖心に声にならない声が出る。


「ありがとう、キクチ」


そう言って広陵院エリコは殺人アンドロイドに駆け寄って握手をする。


「今治くん、紹介するわね。この人は護衛のキクチよ」


キクチさんは、うさぎさんの目でじっとこっちを見つめていた。


なんだ、なんなんだ、こいつ。

やっぱり『マロン・モージュ』とはかかわらないぞ! 俺は!

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