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(4)忘れられないプリンの恨み

さて、夕食も終わったし、自由時間ね!

よーし、コースケと遊びましょーっと。


そう言って私は意気揚々とコースケの部屋へと向かい、心地よい音でドアをノックする。



「コースケ! お姉ちゃんと遊びましょ!」


すぐにコースケは扉を開けてくれた。相変わらずの超絶美男子。

やっぱりウチのコースケが世界で一番かわいい!


「ごめんなさい、お姉ちゃん。宿題が終わったあとでもいい?」

「宿……題?」


この二文字に私は放心状態になった。


「あ、お姉ちゃん。ちゃんと今日のうちに宿題終わらせてよね。明日はお茶会に行くんだから」


そしてコースケはそう言って扉を締めた。何故か笑いを必死で噛み殺したみたいな顔を浮かべて。


しゅしゅしゅしゅ、宿題?!


その言葉に私の頭に稲妻のような衝撃が走った。

同時に吐き気のするような嫌悪感が浮かんでくる。


「宿題」。それって前世の私の天敵じゃない!


ここで私は思い出した。


前世ではいーっつも宿題をサボって先生に怒られてたんだった!


余りにサボるもんだから、廊下に立たされた事もある。「まさか今時そんな事」って思ったけど、本当に立たされた。持たされたバケツの重みは生まれ変わった今でも忘れない。

それでも宿題をやらなかった私は、最終的に、楽しみにしていた給食のプリンを没収されたのだった。

そんな無慈悲な! と私は涙を流して訴えたが、そのプリンは先生の口の中に――


思い出しただけでも怒りがが大爆発したわ!

ぐぬぬ、あの数学教師めぇ~~~~。

あの恨み、あと10回生まれ変わっても忘れないんだから~~~!


あれ、ちょっとまって。

数学教師? 小学生の頃は「算数」よね。「数学」じゃなくて――

うわぁ。まさかこれってもしかして中学生の頃の記憶?

中学でそれって、あんまりじゃないの、私の前世。


うぅ、今世では宿題はちゃんとやらなきゃいけないわね。

給食のプリンを没収されるなんて酷い仕打ち、二度と受けたくないもの。


だけど、小学3年生の宿題なんてたかが知れてるわよね。


あれ、もしかして、これから待っているのは夢の学力無双生活なんじゃない?


だって小学3年生よ?

テストなんてどうせ余裕で全部100点でしょう?

余りに勉強ができるからって、神童とか呼ばれちゃったりするのかしら。

キャー、想像するだけでニヤニヤが止まらないわ!

転生、ばんざーい!


そう考えてみるとちょっと宿題をやってみたくなってきたわ。


「どれどれ、お手並み拝見といたしましょうか」


私は算数のドリルを開く。

そしてそっと閉じた。


額には、脂汗がじとりと浮かび上がる。


ヤバイ



ヤバイ!!!!!


もう一度ペロリと算数のドリルをめくる。

何よこれ、聞いてないわよ!!

小学3年生って意外と大変だったのね……。

これで学力無双なんて夢のまた夢だわ。


「ううう、なんとか頑張ってみるしかなさそうね……」


はあ、と私はため息をつく。

もし幼稚園生の頃に記憶が戻ってたら、少しは学力無双もできたのかしら。

……きっと無理でしょうね、うん。



そして一時間後


「コースケー、おねがい~~~お姉ちゃんに勉強を教えて~~~」


私はほぼ泣きつくような形で、弟の部屋の扉を叩きまくったのでした。


コースケは迷惑そうな顔を作ってた。けど、必死に懇願する私を見て、そのうちに体をプルプルさせながら「お姉さま、やっぱりおもしろい」と震える声で言っていた。



やっぱりコースケって天使ね。

ものすごーく分かりやすくお勉強を教えてくれた上に


「いつでも教えてあげる。おやつも用意しておくね」


なんて私を気遣って言ってくれたんだもの。

特に「おやつを用意してくれる」って所が優しくて泣けるわ。


流石、前世の私を悶えさせた男の子!!

また宿題を教えてもらいましょー。



さて、地獄の宿題が終わった後。

とりあえずベッドに潜ってあれこれと考えを巡らせた。


そう、私は大切な問題に直面しているの。

それは――


今夜の夕飯はさつまいものポタージュだったのよ!

栗原さんの嘘つき。どうしてお味噌汁じゃないの!


お昼ごはんも夕飯も、名前も知らないような高級名前の料理のオンパレード。特に夜はフルコースが出てきて、ワクワクだったけど、横文字を覚えるのが大変だったじゃない。

確かにほっぺが落ちちゃうほど美味しかったわ。完食もした。

けど、その料理の名前が分からないなんて栗原さん達にも農家の人たちにも失礼じゃない。

高級なお料理も「豚汁」とか「カレーライス」とか分かり易い名前にして欲しいものだわ。



……というか、さつまいものお味噌汁はどうして出されなかったの?

昼間の私の態度が気に食わなかったのかしら。うーん。困ったわ。

一体どうすればあの金脈の眠るお味噌汁が飲めるようになるのかしら。


そうだ、厨房でお手伝いをしたらもしかしたら作ってもらえるかもしれないわ!

もっと言えば、自分で作れるようになっちゃえばいいのよね。


ふふふ、私って天才なんじゃないかしら……!



と、ここまで考えて私はとてもとても大事な事に気がついた。


「あれ、もしかして、考えるべき事って食べ物の事じゃ……ない?」


そうだ、そうそう、あんまりにも美味しいものを食べたからつい忘れてたわ!

前世の記憶が蘇ってから散々後回しにしていた「私の将来プラン」についてよ。



まずはこのゲームについてよね。

タイトルは『花と風のカンツォーネ』、通称『花カン』。

内容は王道。主人公の庶民の女の子が編入したセレブ学園でイケメンと恋をしながら夢を追いかける、っていうお話。

もちろんゲームだから色んな男の子と恋愛ができる仕様よ。

そこで江梨子は自分にとって目障りな主人公をいじめ倒すのよね。


うーん。

ゲームの江梨子は不幸になっちゃうけど…… 。

別に、乙女ゲームのイベントを起こさなければいいだけじゃない?


そうだわ!

それよ!


江梨子って、主人公をいじめたから罰が当たったんでしょ?


なら、ゲームの主人公や、コースケ以外の攻略キャラクターとそもそも関わらなければ、不幸になったりしないで平穏無事に生きられるじゃない!


美味しいものを食べた後って頭も冴えるのね。

栗原さんたちにまたまた感謝だわ。



「ふぁー、難しいことを考えたら眠くなっちゃったわ」


私ったら、食べ物のこと以外は長く考えられないみたい。

これは前世の頃から変わらないみたいね。


そういえばコースケ、お茶会がどうとか言ってたような……。

ま、いっか。明日の朝ごはんを食べてから考えましょう。



だけど、その翌日。

私は出会ってしまうのだ――。広陵院江梨子を不幸のどん底に陥れたあの、乙女ゲームの主人公・花巻つぐみと。

この時の私はそんな事、知るよしもない。「明日はさつまいものお味噌汁が出るかも~~」なんて考えていた、バカな私は。

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