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(28)勲章ドーナッツ

一週間もすれば、竹原くんは絵の腕を上げて、牡丹ちゃんの絵を上手に描き上げる事ができた。

上手い、とまでいかないけど、牡丹ちゃんの魅力がたっぷりと詰まった一枚に仕上がっている。


「じょうずじょうず! すっごく可愛く描けたじゃない!」


拍手する私に対して、竹原くんは不安げな表情で私と絵を見比べている。


「なあ署長、これ、西条が貰って嬉しいのかな。俺なんかよりコースケとかに――」


いつも明るい竹原くんはシュンとしている。

私は思いっきり彼の背中を叩いた。


「男ならうだうだしないの! 大丈夫。昔ひどい事言っちゃったのを謝ってこれを渡せば、牡丹ちゃんなら許してくれるわよ」


それどころかカップル誕生! って事もあるかもしれないわね、うふふ。

まあ元々婚約者同士なんだけど。



そんなこんなで翌日。

いつものようにケイドロを求めてジャンキー達が校庭へと集まってくる。

この日は、牡丹ちゃんが泥棒で、竹原くんが警察。

私は「署長」で、ジャングルジムのてっぺんに座って双眼鏡を持って二人を観察。

つぐみも見張り役として、ジャングルのふもとで私に話しかけていた。


「牡丹ちゃん、うまくいくといいね」


つぐみったら、ひどい事をする牡丹ちゃんにも優しくて本当にいい子ね。


「牡丹ちゃん、何回も私を助けてくれたし」

「へ?」


つぐみから漏れた意外な言葉に私は双眼鏡を外して、ふもとで微笑む彼女の後姿を見ていた。


「確かに口はちょっとキツいけど、正義感がすっごく強くて。私が後ろからいたずらを狙われてる時は、わざとからんでくるフリをしたり、私の後ろの子達をおどしたりしてくれてるんだ」


なにそれ!

それって桐蔭くんのスパイ活動の情報にあった、『牡丹ちゃんがつぐみをいじめていると思われる状況』と完全に合致してるじゃない!

つぐみが変にポジティブに捉えてるのかどうかはわからないけど――


「今思えば、栗大福の事も『粗末なもの』って言ってたけど、リコちゃんがお腹を壊したりしないか心配だったんだと思うよ」


つぐみは遠くに居る牡丹ちゃんを見ている。

視線の先は、ツインテールを揺らして逃げる牡丹ちゃんの姿。追いかけているのは竹原くん。


そっか――

牡丹ちゃんは、私が宿題地獄だった時、皆に無視されてたけど唯一話かけてくれたもんね。

私がクラスから浮き過ぎないように、色々抑えてくれたのも、牡丹ちゃんだったんだ。


牡丹ちゃんだって、竹原くんのことや、親にいろいろ言われたりでとっても大変なのに。

つぐみを助けようとしてくれたり、色々損な役回りを買って出ちゃう子なんだね。



だったら、やっぱり竹原くんのプレゼント作戦は成功させなくっちゃ! 

私は2人のところへ駆け寄った。

牡丹ちゃんは、竹原くんに捕まっている。

竹原くんは、牡丹ちゃんの制服の袖をぎゅっと掴み、歯をくいしばって俯いていた。

ポケットにはキレイに畳んだ絵が頭をのぞかせている。


「さ、西条」


震える手で、竹原くんは言う。


「何ですのよ」


牡丹ちゃんは諦めた顔をして竹原くんを見ていた。

竹原くんはいつもの明るい顔とうって代わって、ポケットをまさぐり、画用紙を黙って牡丹ちゃんに渡した。


「……見てくれ」


牡丹ちゃんは、訝しげに画用紙を開いて、その中を見てハッと目を丸くする。

そして、プ、と笑顔を漏らした。


「下手くそですわね。ホント」


竹原くんは顔を真っ赤にして画用紙に手をのばす。


「か、返せ!!」


だけど、牡丹ちゃんは画用紙をひょい、と持ち上げて、軽快なステップを踏み、もう一度絵を見た。


「ほんっと、呆れる程下手くそですわ。あなたって、絵があんまり得意じゃないですのに、ちゃんと私って分かる――」

「いいい、いらないなら本当に返せよ西条!」

「嫌ですわ」


牡丹ちゃんは絵をぎゅっと抱きしめて言う。


「宝物に致します。ずっと、ずっと」


そう言った牡丹ちゃんは、目の端に涙をにじませていた。


「西条――嬉しいのか?」


竹原くんは放心状態に近い様子で言っている。


「全然嬉しくありませんわ! 別に嬉しくないですけど、宝物にするんですの。絶対に手放したりしませんから!」

「西条、あのな、俺――あの、お前が……」




ここから先は私は背を向けて聞かない事にした。

野暮な事をするような輩はウチの学年にはいないみたいだった。

ただ、その後、2人は登下校はいつも一緒になって、「牡丹」「誠一」と下の名前で呼び合うようになっていた。


牡丹ちゃんに、「竹原くんはこの絵を一週間描いて仕上げた」と伝えると、嬉しそうに顔を赤く染めて俯いていた。



数日後、牡丹ちゃんがうちの屋敷にやってきた。

私達はマグ会の真っ最中で、つぐみも来ていた。


「あの時はごめんなさい、花巻さん。コースケくん」


牡丹ちゃんは頭を下げる。ツインテールがフッと揺れた。


「気にしなくていいよ」


と言ったのはつぐみ。


「西条、頭上げなよ。俺もお前の事情は分かってたし」


コースケったら、もっと素直にモノを言えないのかしら。

ちょっと前ならつぐみと一緒の事を言ってた気もするんだけど。


「それに、牡丹ちゃん。コースケくんのせいで転んじゃったしね」


あはは、とつぐみは苦笑いする。


「え、そうなの?!」

「うん。コースケくんが転んじゃって、それに突っかかって転んじゃったの」


やだ~~~~!

私ったら、てっきり牡丹ちゃんがつぐみに足を引っ掛けてとかいじわるな事考えちゃったじゃないの!


「だけど私も駆け寄ろうとしたら転んじゃった」


そう言って、つぐみは苦笑いする。

そっかー、そういう事だったのね。


何はともあれ、牡丹ちゃんがいじわるをしてないってわかった本当によかった。

誤解したままだったら牡丹ちゃんがかわいそうだもの。


「牡丹ちゃんも一緒に座りましょ」


私はそう言って、牡丹ちゃんに椅子をすすめる。

まだ口をつけてにないドーナッツを2つに割り、牡丹ちゃんに渡してあげる。


「竹原くんとのコイバナとか、色々聞かせてよ」



実は、カップル成立料として、竹原くんには一週間分の給食のデザート上納を命じている。

相変わらず抜かりない私だけど、この話には続きがある。



「あーーーーーもう、何で私じゃないのよ~~~」


写生会の絵の入賞発表の当日。

飾られた絵に金のピンが光っていたのは、竹原くんの絵だった。

一週間、しこたま絵の練習をした効果なのか、竹原くんの絵は小学4年生にしてはとても上手なものだった。


そして私はいきなり絵がうまくなった事に疑問を抱かれた先生達によって、「せいかつそうだん室」に連行決定。

も~どうしてこうなっちゃうのよ~~~!

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