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(25)不名誉なアダ名とカツ丼

昼休みになると、いつもと違ったフィールドで行うケイドロに血が騒いだのか、広場には1人、1人とケイドロを求めて生徒が集まってきた。

学年のほぼ9割近くがここに集った。

中には、「ヒャッホウ! ケイドロができるぜー」「ケイドロ……ケイドロがしたい……」というケイドロジャンキーもいる。

ふふふ、これもいい傾向ね。


ケイドロを通して、いろんな子のいろんな特技がわかるようになった。

警察側、泥棒側にも「正義」があって、どっち側に振り分けられても文句が出ないようなストーリーを作り上げた「シナリオ班」にも舌を巻いたけど、やっぱりひときわ目を引くのは「行動班」で頭角を現した、コースケのクラスの竹原くんよね。

よく警察側についてるんだけど、足がとにかく早くて、持久力もある。

これが意外とミソで、短距離より長距離走れるタイプは捜査でもかなり重要な役割を担う事も多い。

小学生といえば「足の速い男の子」「面白い男の子」に人気が集まりがちで、竹原くんはまさにそういうタイプだった。

コースケや桐蔭くんみたいなチート的な生徒さえいなければ、学年一番人気の男子は竹原くんだったんじゃないかと思うの。

やっぱり、キャーキャー、とまでは言わないけど、彼を意識してる女の子もそこそこ多い感じね。


そんなわけで、出張版ケイドロは大盛況だった。

いつもと違う足場に苦戦する両チームも、それを楽しんでいる。


「署長、おつとめごごくろうです。一人連れてきました」

「そう、ま、座んなさい。カツ丼食でも食べましょ」


「署長」と言われたのは私だ。

私が看守役に回る時、変な小芝居を打っていたら、いつの間にかついていたアダ名だ。

エスカレーター式の学校だし、このまま「署長」が正式なアダ名になりかねないのが最近の私の悩みだ。

悪役令嬢改め、「署長」……。江梨子は一体、今の私を見て何を思っているのかしら。


「姉さん!」


向こうの方からコースケの声がした。

誰かをおんぶしている。

よく見ると――つぐみだ。


「どうしたの」


私は駆け寄って、つぐみに話しかけた。


「えへへ、転んじゃった」


つぐみはいつもの通りほんわかとした笑顔を浮かべた。

なんともないとは思うんだけど、一体どうしたのかしら。


「俺がつーちゃんを追いかけてる時にさ――」

「私、コースケくんに転ばされたんですの」


その後ろで、キリリとした声がした。

西条牡丹ちゃんだ。腕を組んでいるが膝を擦りむいている。


「牡丹ちゃん大丈夫?」


私は駆け寄って、膝を見る。


「とりあえず、あそこの水道で膝を洗いましょ」


そう言う私の手を牡丹ちゃんはぎゅっと掴み、噛みつかんばかりで言った。


「どうしてコースケくんは私を転ばせたのにあの女の方だけを構うの! どうしてあの女なのよ!」

「言いがかりだよ、西条さん。それに、つぐみを転ばせたのは――」


そこまで言ったコースケに、降ろして貰ったつぐみは腕を掴んで、左右に首を振る。

後で理由を聞いてみましょう。

おおかた、牡丹ちゃんがつぐみを転ばせて、逃げようとしたらコースケと衝突した、とかだと思うんだけど。

牡丹ちゃんは今でもつぐみを良く思っていないで、グループでつぐみにひどい事を言ったり、悪態をついてるらしい。

桐蔭くんがなぜか教えてくれた。多分、どこかで忍んでたんだと思う。

うーん、なんかややこしい話になってきたけど、要するに、いじめられてても笑顔で居るつぐみは可愛い上に強いって事ね。

だけど大丈夫、この状況、どうにか打破してみせるわ!




「毎回給食っていうのもなー」っていう意見があったので、今回の景品は、「MVPに私の絵を一枚プレゼント」という物だった。

クラスの子のひとりの意見だったけど、意外と需要があったらしくて、皆必死に走ってた。

嬉しいけど、なんか眼の色を変えてる子が多かったのは気のせいかな。

で、MVPになったのが竹原くん。一番多くの泥棒を捕まえたのが彼だった。


「何か描いてほしいものとかある?」


この時の私の気分はちょっとした有名画家の気分だった。

私はとことん調子に乗っていた。

竹原くんはなぜか健康的に焼けた肌の顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしている。


「誰かに聞かれたくないなら、少し移動しましょうか」



「え、コースケの絵?!」


移動した先で、私はついつい大声になってしまった。

慌てて竹原くんにしーってされる。


「え、もしかしてコースケの事が好きなの?」

「何をどうしたらそうなるんだよ!」


と竹原くんは顔を真っ赤にして全否定した。


「違うんだ、署長の絵をあげたいヤツがいるんだ」


竹原くんは例に漏れず私を「署長」と呼んでいる。

お願いだから署長呼びは小学生までね? ね?


「えっと……差支えなければ誰にあげるかだけは教えて?」

「……西条」


私はえええーーーっと声を上げそうになった。

意外すぎる組み合わせに私は動揺を隠せない。


「違うからな! 西条はその……昔いじわるな事言ったせいで俺を怒ってるんだ。だから、謝りたくて」


そう言った竹原くんは私から視線を外して顔を更に赤く染めていた。

竹原くん――きっと牡丹ちゃんの事が好きなのね。


私は竹原くんの手を取り、ウンウンと頷いた。


「わかったわ、竹原くん。私、竹原くんのこと応援するから」

「応援? 別に絵を描いてくれるだけでいいんだけど――」


竹原くんはとぼけたように目線を逸らして頬をポリポリとかいている。

うーん、なんか青春ね!



そして、私が密談を終えると。

人垣ができていて、牡丹ちゃんがわんわんと泣いていた。


「痛いわ! 一生の傷になっちゃうじゃない! コースケくん、責任を取ってよ! お嫁に行けなくなっちゃうわ」

「だから、ちゃんと消毒しよ――」

「責任を取って、私と婚約してよ!」


えええー! 牡丹ちゃん、大胆!

なんていうか、牡丹ちゃんって凄く行動力とかいろんなものに優れてるよねー。

ってそんな事言ってる場合じゃないわ。


どうしよう、一大事じゃないの!!!

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