表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/116

(23)総取りパンケーキ

ふふふ、とうとうこれを実行する日が来たわね。


「どうしたの、リコちゃん……なんか様子がおかしいけど」


隣の席で私の様子を見守るつぐみの表情はどことなく不安げだった。

ケイドロを爆発的に流行させる作戦。つまり、「ケイドロパンデミック作戦」を企む私は、まるで時代劇で村人からお米をせしめる役人のような顔なんだと思うわ。


ちなみに、私を死ぬほど苦しめた宿題地獄は去年で終わっているわ。


給食が終わって、私はいのいちばんに立ち上がる。

タイミング的には今日がいいわ。

なぜなら、明日の給食にパンケーキが出る。

商品に持ってこいの流行メニューね。


はやる気持ちを抑えて私は息を深く吸う。


「ケイドロ参加する人この指止まれーーーー」


最初に訪れたのは静寂。

クラス内はポカン、としている。

これも計算づくよ。

だけどあと30秒で一人目が来るわ。


音も立てずに桐蔭くんが天井から降ってきて華麗に着地を決める。

かかった! 一羽目のカモ!

っていうかなんで天井に隠れてるのよ、桐蔭くん。


「アレがようやく始まったか」


そう言って、桐蔭くんが私の指をぎゅっと手で掴む。

その瞬間、クラスが地鳴りのような女子の悲鳴に包まれる。

キタキタああっ!

我先にと私(正確には桐蔭くん)の元に走ってくるクラスの女子半分。

桐蔭くんの手を握る権利を醜く争いながら、一気に参加者が増えた。

ここで男子の一部も加わる。

多分、さっきの女子の中に意中の子が居るんだろう。


ふふ、残りのポカンと口を開けてる諸君は次の衝撃に耐えられるかな?


「姉さん、面白い事やるってホント?」


後ろの引き戸が開き、コースケが入ってくる。

残りの女子達の目が一斉に光った。

はい、女子陥落!


この2人に興味がないとしても、集団行動を基本としている女子ならグループ単位で参加するだろうし、堕ちやすい。

そして、桐蔭くんの時みたいに、コースケ目当ての女子に片思いしている男子がわらわらとこちらにやって来る。


男子諸君にはこう伝える。


「一番最後まで逃げ切った子、または泥棒を一番見つけた警察には私から、明日の給食の好きなおかず、プレゼントするわ」


こうして、クラスのほぼ全員が私のトラップにまんまと引っかかったのだ。


人垣に取り残されたつぐみに私は言う。


「つぐみも、一緒にしょっぴかない?」


つぐみは戸惑ってたが、笑顔で、「うん!」と答えてくれた。



グラウンドのスミ鉄棒の一角に私達は集まった。

うーん、どの学年も。女の子で外遊びしてる子って少ないわね。

最終的には別学年にもケイドロを流行させるのを視野に入れましょう。


ケイドロのルールは簡単。

まず、参加者は「警察」「泥棒」の2チームに分かれる。

「警察」には私、コースケ、つぐみ。「泥棒」には桐蔭くんがいる。


「泥棒」達は先に女子を逃がして30秒、その後に男子がスタートして20秒待ったら、「警察」は捜査を開始。

「泥棒」はその間に思い思いの場所に逃げたり、または隠れたりする。


「警察」は、「泥棒」タッチしたら、鉄棒の向こうという設定の「牢屋」に連行できる。

「泥棒」は、「警察」の目を盗んで牢屋をタッチすれば、タッチされて捕まった囚人達を逃がす事ができる。



てなわけで、初日だし、立候補でチーム分けが決めたけど、いい感じに半々に別れたわ。


「警察」の私は怖いものなしだった。

足の早い男子を平気で追いかけまわしてタッチして、次々に牢屋に連行。


「残念ね。給食はおあずけよオーッホッホ」

「あはは、なんかリコちゃん、なんか凄い嬉しそう……」


自然と悪役笑いが漏れる。

「臭い飯の味はどうだ?」とか「カネを握らせてくれたら考えんでもない」とか、意地悪看守ごっこをノリノリで行う私に、看守役のつぐみはちょっとヒいている感じだった。


ほどなくして、コースケも大量の女泥棒を連れてきた。

なんでも、「追いかけてると、いきなり止まってタッチして欲しそうにする」と。

なるほど、女子にとってはコースケにタッチしてもらえるチャンスなのね。

そうすると、あの一団は――

私はグラウンドで必死に捜査活動をしている女子の集団を見やる。

なるほど、あれは「桐蔭くんをタッチし隊」か。


それにしても桐蔭くんは――


「姉さん、どこ行くの?」

「ニンジャ泥棒を逮捕してくるわ」


桐蔭くんを捕まえに向かったのは教室。

教室のカーテンが以上に膨れ上がってて、しかもそこから二本の足が生えている。

とと、桐蔭くん。本当にカーテンにくるまったりするんだ――!

しかも誰も見てない所で!


「みーつけた」


そう言って、カーテンを引っ張って桐蔭くんを晒し、私は肩にタッチした。


「おのれ……無念」


桐蔭くんはとてつもなくノリノリで楽しそうだった。


こうして、ケイドロ初日は思いもしないほど大盛況に終わったのだった。

給食? もちろん私が昨日の囚人達からの献上物をまんまと頂いたわ。

うーん、美味しかったなあ、パンケーキ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ