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(105)誰が江梨子を殺したの(2)

「ねえ、倉敷くん以外には力になってくれる人はいないの? その人の事頼ろうよ、ねえ」


目を覚ました江梨子はベッドに横たわったままで、私はその手を握り締めていた。


「お父様もお母様も江介も……皆私のことを見限ってる……」

「東出さんは? 東出さんなら江梨子のこと、必ず味方してくれるでしょう!?」


そういうと、江梨子は眉をひそめて私を見る。


「誰? そんな人知らないわ」


どうして……。江梨子の言葉に頭を固い物で叩かれたようなショックを受けた。


「あなた、さっきから未来から来たって言ってたけど……どうして私の状況を聞くの? あなた、本当は私じゃないじゃ……」

「あははは、ごめんごめん、最近知り合った人だったわ~……ごめんね、私最近ボケちゃってるみたいで。毎日楽しいから平和ボケかしら~あはは、あはは」


慌てて誤魔化せば、江梨子は興味を失ったみたいで私から目を逸らして天井を眺めていた。

生きる気力すら失っているこの女の子には、私のことを追求する気も起きないらしい。


「まあいいわ……一応、味方はいるもの」

「もしかして、高崎先生とか!?」


ぽつり、と江梨子は言う。私の言葉に彼女は嫌そうに眉をひそめただけで何も言わなかった。

高崎先生は江梨子にも嫌われているっぽい。


「あかり叔母様……お母様のご学友で、聖の叔母様よ」


あかり……やっぱり……東出さん!?

東出さんの下の名前もあかりだし、偶然にしてはできすぎているもの!


「その人が東出さんなんじゃ……」

「だから誰よそれ。桐蔭あかりと言ったら桐蔭の現トップじゃない。何をとぼけてるの」

「っ……あはは、そうだったそうだった、あはははは」

「あなた、おかしいわ……」


むすっとしたまま江梨子は言う。

ええ、東出さんがメイドじゃなくって桐蔭のトップ!?

一体全体、ここはどんな世界なのよ!?


「でも、あかり叔母様は優しい人。赤ん坊のころからずーっと私のことをよくしてくれて、期待しているってたくさん褒めてくれた。どんなことがあっても私の味方をしてくれたし、あの人だけは私のことを絶対裏切らないわ」

「あかり叔母様は、江梨子にとってもう一人のお母さまなのね」

「……そうね……本物のお母さまよりも、一緒にいることが多かったかも……」


そのあかり叔母様、やっぱり東出さんだわ……!

間違いない、その言葉で私は確信した。

私にとってもそうよ。東出さんは私のもう一人のお母さま。

記憶が戻らなかった頃から私が慕って認めていた唯一の人だもの。


「江梨子はあかり叔母様のこと、好き?」

「…………変な質問しないで」

「あは、ごめん」

「あなたは私なんだから、わかってるでしょ? ……好きよ。誰よりも好き。信頼してるし、あの人の期待に応えたくて必死だったわ」


江梨子の世界にもいたのね、東出さん。

なぜだか私は心の底からホッとしていた。


「えー、倉敷くんは好きじゃないの?」

「あいつは…………違うわ」


江梨子は顔を真っ赤にしてお布団を持ち上げて顔をすっぽり隠してしまった。

倉敷くんに対してどうしても素直になれない玉ちゃんの顔が重なる。

ああ、やっぱりこの子は私の友人の過去の姿なんだわ……。


その時、メイドさんが慎重なノックの末にやってきて、深々とお辞儀をして言った。


「江梨子お嬢様、桐蔭あかり様がお見えになっています」

「あかり叔母様ったらあなたを助けにきてくれたんだわ! 江梨子やったわね」


私は江梨子の両手を取って喜んで見せる。

江梨子も、生気のなかった目に光を取り戻し、力強くうなずいた。



「江梨子、あかり叔母様にうんと甘えちゃいなさいよ! 大丈夫、あの人はとーーっても優しいから!」

「うん、そうね」

「きっと大丈夫よ、最初はあんたのワガママを怒られちゃうかもしれないけど、あの人はあんたを絶対見捨てないわ!」


応接室に向かうまでの長い道のり、私は江梨子に東出さん――この世界ではあかり叔母様ね――のすばらしさを熱弁していた。


「……未来の私」


江梨子は一度期待に顔をほころばせたが、ぷいと私から目を逸らす。


「……その……ありがと」


その姿に、私はポカーンとしてしまった。


「江梨子……お礼、言える子だったんだね」

「な、なによ、失礼ね!」

「私がお礼を言えるようになるのはもっと後だったよ。だから偉い偉い」


また嘘をついちゃったけど、江梨子の頭に手をポンポンと当てて撫でてやる。


「な、なによ。ちょっと未来から来たからってお姉さんぶらないで!」


顔を真っ赤にして頬を膨らませる江梨子はやっぱり私の友人によく似ていた。

きっと、何のしがらみもない「自分」だと思ってるから、この子は私に優しく接することができるんだと思う。

それだけじゃない、もう、彼女は自分のことを後がないと思っているから――。


だから、東出さんに「それは違う」と江梨子にさとして欲しい。

東出さんは江梨子の身内で唯一それができる人のはずよ。

だって、彼女は私のもう一人のお母さまなんだから――!

ようやく更新できました!

字数は少ないですが続けられるよう頑張っていきます!


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