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(97)どうせ玉ちゃんの仕業

「まーまー、広陵院さんってば~、誤解しないでよ~。俺、どうしてこんな所に来ちゃったか、心当たりがあるんだよ」

「本当でしょうね」


私は顔をしかめた。


「広陵院さん、グー出しながら喋るのやめよっか」


顔をしかめただけじゃなくって手も出かけたらしいわ。

まったくダメね、私ったら。

玉ちゃんだったら既に何発かパンチを入れてるわ。


そういえば、学校に居たはずの皆がここに来てるって事は――玉ちゃんもここに居るはずよね。

一体どこに行っちゃったのかしら?


「話せば長くなるんだけどさ~。この世界は、俺が中西さんに貸した本の世界なんだ」

「本……」


そういえば、玉ちゃんは分厚い本を読んでた。

なんでも、靴箱に本が入ってたとか……。


「え、その本って倉敷くんが貸してたの?!」

「まー、そうなんだけどねー」


倉敷くんはポリポリと頬を掻いて照れくさそうにはにかむ。


「……広陵院さん、中西さんの事で何か知ってるでしょ? 例えば、あの子の周りで普通じゃない事が起きるとか……」


はにかみながら怖い事を言った。


「そ、そんな事は……」


私は目を逸らす。

玉ちゃん的に、天敵の倉敷くんにチート能力がバレるのはあまり穏やかじゃないと思うの。

友達として、これは隠さなきゃいけない事よね……。


だけど倉敷くんには可笑しそうにケラケラと笑われてしまった。


「広陵院さんは嘘が下手だな~。いいんだよ、俺もなんとなく知ってたんだ。中西さんが探してた“あの子”って分かった時から」

「そ、そうなの?!」

「そーなの。今、お城で竜に攫われたお姫様が居るって聞いて合点が行ったんだよ。俺たちをここに連れてきたのはあの子なんだって」


え、って事は……玉ちゃんの能力が風邪で暴走して私達を異世界に呼んだって事?!

いや、まさか玉ちゃんがそんな事する訳――

……うん、あり得る。


だって、魔眼と予知夢持ちで、能力の応用で異世界転移もできるとか言ったし!

っていうか、この状況でどこまで動揺しなかったのも、心のどこかでこう思ってたのよね。


「まあ、こういう事できるの、玉ちゃんしか居ないし」

「いや、俺もどうせ中西のせいだと思っていた」

「ぶっちゃけ俺も」

「私もだ」


桐蔭くん、今治くん、キクチさんが口々に言う。

そうよね、やっぱりどうせ玉ちゃんの仕業よね。

そう。96話にして異世界転移なんて真似ができるのなんて玉ちゃん位よ!


正直あの子が風邪引いた時点で何か起きると思ってたわよ、流石に私も!


「俺はね、一度好きになった相手の事なら何だって好きになっちゃうの。だから今こんな事になっちゃったけど、玉ちゃんは凄くかわいいなーって思うんだよね~」


倉敷くんはうっとりしてクネクネしたりしてる。

き、気持ち悪……。

ここに玉ちゃんが居たら飛び蹴りを食らわせてそうね。


「で、皆は変な格好してるけどこれは……」

「あ、説明が遅れたね。俺達は本の中の登場人物になぞった格好をしてるんだ。竜に攫われたお姫様を助ける旅の仲間だね」


妄想ワールドから現実世界(異世界だけど)に戻ってきた倉敷くんははつらつと言う。


へ?!

待ちたまえ。なんか大分よく分かんない事言ったわよね。

えーと、本の中の登場人物っぽくなってて、それがさらわれたお姫様を助ける旅の仲間……。

ま、まあ話を聞き続けましょう。


「俺は勇者で、キクチさんが古代技術で動くゴーレム、桐蔭くんは暗殺者、広陵院さんはグルメハンター」

「え、私グルメハンターなの?!」


と、下を向き、はじめて自分の格好を眺めた。

服装は調理服だった。そして得物はナイフとフォーク……。

なるほど、グルメハンターね。


「それに、本当は怪力の妖精と、臆病な賢者が一緒に旅してたはずなんだけど……」

「! もしかしてそれって……」


うん、そうよ。絶対そう。

つぐみが怪力になっちゃった事と関係があるに違いないわ!


「それじゃあ、賢者はコース……」

「で、俺が臆病な賢者だ」


今治くんが胸に手を当てて主張する。


「えー、賢者じゃなくて村……」

「俺が! 賢者だ!」

「広陵院さん、察してあげなよ~」


倉敷くんに指摘されて私はハッとする。

そっか。どうせコースケは来れないんだから、ここは今治くんを賢者にしておいた方が丸く収まる――。


「そ、そうね、今治くんは賢者ね。どう見ても賢者よね」

「何言ってんだ、一般人はどう見ても村人だぞ」


私は無言でキクチさんの頭を引っ叩いておいた。



「お、おい一般人! なぜ倒れる! ……何だコイツ。息してないぞ」


キクチさんが駆け寄る。

いまばり よ、しんでしまうとはなさけない。

アーメン。


「そんなこんなで、俺たちで東の洞窟の竜に攫われたお姫様を助けに行くって訳」

「なるほどね~。でもそのお姫様って本当に玉ちゃんなの?」


だって玉ちゃんならドラゴン位素手で倒せそうだし。


「いや、王様がお義父(とう)さんだったから」

「倉敷くん、そのルビ気持ち悪いからやめなさいよ……」


っていうか何で玉ちゃんのお父さんの顔知ってんのよアンタは。

本格的に気持ち悪いわよ。


「俺も別行動中に噂を調べた。姫と国王は仲が良いらしい。おかしい位仲がいいらしい。風呂も一緒に入るとか何だとか……」


正義のニンジャ桐影は情報収集で暗躍していたらしい。

うーん、姫様はファザコン……。


「それは間違いなく玉ちゃんね」


玉ちゃんって異世界に行ってもファザコンなのね。


「広陵院さんも、もちろん協力してくれるよね?」

「そうね、玉ちゃんとつぐみが心配だし私でいいなら……」


それに、チート神・玉ちゃんが呼んだ異世界転移なら、そこそこのクオリティが期待できそうよね。


ほら、例えば物のリアリティとか。

造形はもちろん、味も――


例えば――

焚き火でトロットロにしたチーズをパンに乗っけて食べたりとか!

ドラゴンステーキとか食べれるかもしれないし。


うーん! 旅、いいかも! 旅、バンザイ!


「広陵院さん……俺からパイナップル飴貰う時の顔してる……」

「エリコは嬉しい時はこの顔になる」

「きっと食べ物の事考えてるんだね……」


なんだか男性陣の失礼な声が聞こえるけど気にしてなんていられないわ!

まだ見ぬグルメに向けて! 楽しい旅へとしゅっぱ~つ!

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