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(95)事件は学園で起きている!

「だ、大丈夫?! つぐみ」


私とコースケは、学校からリムジンを飛ばしてつぐみの家へと向かった。

到着するとドアから飛び出して二人で競い合うようにつぐみの部屋を目指す。



蹴破るように開いた扉。ベッドに上半身を起こしたつぐみは、涙で目を腫らしていた。

ただ――なぜか、手のひらを上にして、オペ中のお医者さんみたいなポーズを取っている。


「リコちゃん、コースケ君」


つぐみは目に涙をじんわりと溜めてわあっと泣き出す。


「つ、つーちゃん――何があったの? 痛くない?」


何があっても泣かなかったつぐみが、こんなに泣いているなんて、きっととんでもない事が起きたに違いない。


「暴君に襲われたの?! とりあえず話してみて。ああ、泣かないでつぐみ」

「う、うう……」

「つ、つーちゃん! 僕でよければ――」


意を決したコースケがつぐみにぐっと近寄る。


「こ、来ないで!」


だけど、つぐみはそう叫んで、彼を突き飛ばしてしまった。


その瞬間、信じられない事が起きた。

コースケが潰れた蛙みたいな声を挙げて数m先の壁まで吹っ飛んだのだ。


我が弟は、背中を壁にぶつけ、痛みと拒絶のショックで灰みたいに真っ白になっていた。


「あ……あああっ……」


つぐみは顔を真っ青にして自分の手のひらを見つめ、「わあああっ」と上を向いて泣き出す。


「一体どういう事なの?!」

「……ううっううううう……私の手が……すっごい力持ちに……」


つぐみは良くわからない事を言いながらひっくとしゃくり上げて、次から次へと涙をポロポロと流していた。


その時、携帯電話が震えながらメロディを流す。

倉敷くんからだった。


私は一度つぐみに「ゴメン」と断って、部屋の端で携帯電話に耳を傾ける。


「広陵院さん、花巻さんは変な事になってない? 例えば急に力持ちになっちゃったとか」


まさに図星だった。


「そうよ。もしかして、倉敷くん……何か知ってるの?」

『俺もよく分かんないんだけど――学校にでっかいトカゲが出たんだ! 2メートル位の! 今は桐蔭くんと俺が戦ってどうにかしてるけど――』


倉敷くんは本当によくわからなかった。

でっかいトカゲ?! 桐蔭くんが退治?!

まるで意味がわからない。理解が追いつかない。

それは私が馬鹿だからって訳じゃないわ! 断じて。

きっとテストで赤点じゃなくても意味が分からないわよ。


『エリコ、無事か?!』


肉を刃物で断ち切るみたいな不穏な音を背景に、桐蔭くんの声が聞こえる。


「う、うん。だけどつぐみが変で――」

『俺もおかしい。手から光のナイフが出てきた。倉敷は普通じゃ背負えないような両手持ちの大きな剣だ。菊地原は手がサイコガンになった』

「え、何それもう一回言って」


理解できない単語が続々聞こえてくる。

光のナイフ?

両手持ちの剣?

挙句の果てにサイコガン!

一体全体、どういうことなのよ!


『今治には何も起きていない』

「だから私の話、聞いて! 皆して私の事からかってるの?」


『いいから、広陵院さん。花巻さんのことに俺、心当たりあるんだ。だから、こっち来て!』


いつの間にか電話は再び倉敷くんに代わっていた。


「えぇー……」


何なの、皆してこの一大事に私をからかって何が楽しいの?

億が一、言ってる事が正しいとしても、良くわからない事が起きてる場所に行くなんて激しく嫌なんだけど……。


『助けてよエリ……ギャーー、すいません嘘です!! たたた、助けて広陵院さん! うわ、何だコイツ。火を吹いた!』


それっきり、ぶつん、と通話が途切れる。


「姉さん、一体なんだったんだ」


コースケは私の様子から、さすがに復活したみたいで、つぐみと私を見比べながら心配そうに見つめている。


「うーん……なんか良くわからないけど、凄く変な事が起きてるみたい。つぐみ、ごめんね。ちょっと私、学校へ行くわ」

「……うん」


つぐみは流石に心細そうな目を向けていたけど、私はコースケを見て思い改める。

背を伸ばし、ピンと指した人差し指をコースケに向けて、高らかに宣言した。


「コースケ、つぐみに付き添ってあげなさい! これはお姉ちゃん命令よ!」

「わかった」


バネにでも弾かれたように立ち上がり、コースケは唾を飲み込んだ。

私はつぐみの頭に手を添えてやる。

つぐみは戸惑った表情で私を見つめていた。


「ごめんね……つぐみ。すぐに戻ってくるから」

「うん……わかった」


つぐみが精一杯の元気をかき集めたような笑顔を私に向ける。

その痛々しさに泣きたくなった。

本当ならここに留まりたいけど。


だけど、倉敷くんはともかく、桐蔭くんが冗談で私を呼び出すなんて考えられない。

もし学校で何か起きているなら、熱で身動きの取れない玉ちゃんも心配だ。


「リコちゃん……早く行ってあげて」


つぐみは言う。笑いながら。


「うん」


後ろ髪を引かれるような思いで私は花巻家を去った。


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