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(92)男たちの決起会事情/今治くん視点

「さて、今日の議題は、じゃじゃんっ。なんと……コイバナです!」


倉敷くんが正座のまま高らかに宣言する。

コイツはどうして四六時中テンションが高いんだ。

イケメンなのに損しているよなあ――なんて言葉は、他の連中にも当てはまるからまあいいや。


「? 何だ今治。人の顔をそんなにジロジロ見て」


桐蔭くんが俺の視線に気づいて眉を潜める。

この人はいつか絶対に何かやらかすと思う。


「……それよりここ、病室なんだけど」


広陵院くんがうんざりしたようにため息をついた。


「気にすんなよ! 男の友達が俺らしか居なくたってカイチョーはカイチョーのままでいればいいんだよ?」

「何だよその言い方! 僕を憐れむみたいに言うな!」


最近、倉敷くんはすっかり広陵院くんの事をからかうようになってしまった。

正直、広陵院くんってもっと王子様然としたハイパー超人だと思ってたんだけど、意外と親しみやすいよね。


「大丈夫だコースケ、人は最初は誰でも童貞だ」


桐蔭くんが真顔で下ネタを言う。意外とむっつりなのかな。全然結びつかないけど。


「うるさい!!」


広陵院くんは顔をみるみる真っ赤にして叫んだ。

彼は学園ヒエラルキーの頂点に立つ人物どころか、むしろいじられキャラ……だよね?

正直それって凄く意外だけど、こういうギャップは俺から見たらすごく良いと思う。

王子様よりこっちの方が自然でいいな、って。


まあ――こんな姿を女子が見たら幻滅するかもしれないけど。


っていうか、広陵院くんが病室に運ばれた原因が「童貞の発作」って聞いたんだけど、どんな人体構造してんだ……。

情報源が桐蔭くんだし、いい加減なのは分かってるけど。


「コイバナしようよ~。今頃エリコちゃん達もきっとしてるよ、コイバナ!」

「エリコちゃん?」


桐蔭くんの鋭い視線が倉敷くんを貫く。

倉敷くんは「やっちった」と言わんばかりに舌を軽く出した。

その仕草にイラッとくる。


「イケメンだからって何でも許されると思うなよ」

「ごめーん」


桐蔭くんは居心地が悪そうに倉敷くんをチラチラ見ている。

二人が目が合った瞬間、バチッと火花が見えた気がした。


「それにしてもコイバナ……」


キクチさんが盛んに中西さんを誘ってたけど――キクチさんは女性なのか。やっぱり。

っていうかあそこに人が乗ってなかった場合、メスって言うべきなのか?


「聖夜はどうなの? 例のかわい子ちゃん」

「え」


倉敷くんにせっつかれて変な声が出た。


「お、お、俺は別に……フツーだよ。フツーにメールしてるっていうか……それよりカイチョーはどうなの? あんなにモテたら引く手あまたでしょ?」

「うっ」


広陵院くんの顔が一気に暗くなる。意外と嘘が苦手なタイプなのかもしれない。


「あのさー。カイチョーがリア充なら桐蔭くんに変ないじられ方してないっしょ」


うっ、それもそうだ。悪い事を言ったかな……。


「……一般人。お前が女の子とメールしてるからってコースケを煽るな。最悪の場合死んでしまうぞ」


なんかメチャクチャ悪い事言ったみたいにされてる!


「死なないよ別に!」


広陵院くんは声を裏返した。

こうして叫んでいる彼は、どちらかといえばこっち側の人だと改めて感じてしまう。


「そういえば、桐蔭くんは広陵院さんと付き合ってどれくらいなの?」


そう言った瞬間、この空間に「ピキン」とした音が聞こえた気がした。

幼なじみだそうだし、あんなにラブラブな二人だから、きっとすでに長い間付き合ってるんだと思うけど――


「星夜、それ本気で言ってる?」


倉敷くんは顔を思いっきり引きつらせて言った。


「え?」

「今治、君はそのままでいいんだ。何があってもそのままでいればいい」


広陵院くんはやけに意味深な事を言う。


「え? 何? よく分かんないんだけど」


事態が飲み込めない。

桐蔭くんはバツの悪そうな顔をして頬をポリポリとかいていた。


「まーさ、桐蔭くんが別にいいんなら、エリコちゃんは俺が貰っちゃおっかな~」

「は?」


倉敷くんは「にま~」っといやらしい笑みを浮かべて桐蔭くんを横目で見る。

その瞬間、桐蔭くんは信じられない速さで倉敷くんの後ろを取り、何かを構える――が


「ふっふーん。二度も同じ手が通じるかっての」


倉敷くんは桐蔭くんの動きを見破り、その手首を掴んで唖然とする桐蔭くんの得物を奪い、ひらりと体を翻す。


「――何?!」

「元は自分が逃げてるのがいけないっていうのに。暴力は感心しないね」


倉敷くんは軽やかな足取りで数歩下がり、桐蔭くんから奪ったキーホルダーを弄ぶ。


なんなんだ、今の超人ショーは!

広陵院くんも口をあんぐりと開けてその姿を瞳に収めている。

おおよそ一般的な男子高校生の会合に似つかわしくない。


「君にも事情があるのは分かってる」

「……」

「だけど俺は女の子の味方だ。誰かを泣かせても一匹狼を気取ってる君には負けたりしない」


桐蔭くんは悔しさに顔を歪めて倉敷くんを見ていた。

表情の変化の乏しい彼にしては凄く珍しい。


「ま、俺も大事な子を泣かせちゃったんだけどね」


と、倉敷くんは眉を下げてパイプ椅子にどっしりと腰掛ける。


何なんだコイツ。

チャラチャラしてると思ったら、いきなりとんでもないことをしでかして。

一見何にも考えてなさそうで、妙に年寄りじみた事を言って――


友人の得体の知れなさに、俺はかすかに恐怖を覚えた。

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