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(91)お泊まりパーティの夜・2

時間も遅くなったので、そろそろ寝ようかという具合に。


「流石に広いベッドでも四人じゃ狭いかしら」


お嬢様なだけあって、ウチのベッドはだだっ広い。

白の天蓋が付いていて、映画の中のお姫様の部屋が飛び出したみたいだ。

私はどっちかというとシンプルな物が好きなので、有り難みを感じる事は少ないけど、カワイイものが好きなつぐみには羨ましがられている。


それでも、四人が寝るには不安があるといえばある。


「それじゃあ私はソファを借りるわ」


玉ちゃんは言うけど、そよちゃんが腕を掴んで首をぶんぶんと横に振る。


「姐さんと一緒にがいい!」

「うふふ、そよちゃんったら。ホントに中西さんが好きなんだね」


つぐみはなんだかニコニコと嬉しそうにしている。


「どうしたの? 今日はいつもに増して機嫌が良さそうね」

「だって……私達がこんなに仲良くなれるなんて、夢にも思ってなかったから」


目を細めたつぐみは、凄く嬉しそうなのになぜか、少し泣きそうにも見えた。


「こんなに面白いお友達が居て、嬉しくない訳がないよ」


あれ、そこは「良い友達」じゃなくて「面白い友達」なんだ……。

面白いって――ああ、確かにそよちゃんはロボットに乗ってるし、玉ちゃんはちょっとズレてるわよね。


「だから……私はそれで充分だなって――」

「何を言ってるの」


つぐみは言いかけたところで玉ちゃんが冷ややかな声を出した。


「え」


つぐみは顔をあげたまま動きを固める。


「私達のことを、あなたが目標を諦める言い訳に使わないで」

「っ」


玉ちゃんは、鋭い視線を向けたままピシャリと言い放つ。

仲良くなる前によく見せた顔だ。

目を釣り上げた、キツい印象のあの表情。


つぐみは一瞬目を見開いたけど、すぐに目尻を下げて笑う。


「やっぱり――私は恵まれてるなあ……」


つぐみの言葉によって、緊張状態がほぐれた。

玉ちゃんは肩を下げて小さくため息をつき、つぐみの肩に手を添える。


「……無理じゃないわ。あなたが思ってるより、他人はずっと優しい。意地悪な事を言う人はあなたを妬んでいるの。誰もがあなたみたいになれる訳じゃないから」

「中西さん……」

「戦いなさい。あなたの魅力は、この私が保証するから」


玉ちゃんは、かつて広陵院江梨子として、つぐみをいじめていた。

あの頃、彼女がゲームのつぐみにどんな感情を抱いていたかは分からない。

だけど、今こうしてつぐみにかけている言葉は、きっと江梨子だった頃の感情も混じってるのかもしれない。


妬んでいた――玉ちゃんそう言ったけど、江梨子はきっと、つぐみが羨ましかったんだと思う。

お金は持っていなかったけど、優しくって素直で、誰かを明るく笑顔にする美しい花のような女の子が、羨ましかった。

家族とはうまく行かないし、対等な友達もいなくって、好きな人とはうまくいかない。

そんなたくさんの不満を抱えた江梨子には、つぐみの存在がどれだけ羨ましく思えたか。


玉ちゃんは、それを認めた上でつぐみを励ましてる――。


「玉ちゃ……」

「姐さんカッコイイ!!!」


私がそうする前に、そよちゃんが玉ちゃんへと飛び込んで抱きつく。


「ズルい、私も!」

「私も」


それに続いて、私とつぐみも抱きついてぎゅうぎゅうに押し合いをした。

楽しそうに笑う皆がとても大好きで。

私は、瞼の裏に浮かんだ炎の姿を必死で頭の隅に追いやろうとしていた。




「眠れないの?」


皆が寝しずまった後、私はお水が飲みたくなってベッドから降りる。

すると、机のライトがほのかな灯りを照らしている事に気づく。


玉ちゃんがテーブルを使って本を読んでいた。

随分と分厚い本。それに、字もゴマ粒みたいに小さいじゃない。

ゲームではあんまり成績の良くなかった広陵院江梨子の生まれ変わりが、今じゃこんなの読んでるなんて。時の流れって凄いわ。


「ええ。それに、早く読んで返さないと次が来ないの」


そう言って、玉ちゃんはページを捲る。


「次?」

「そう。4月だったかしら。学校の靴箱に本が入ってたの。意味が分からないでしょ? 一緒に手紙も入ってて、キレイな字で”読み終わったら見つけた場所に戻してください”ってあってね。それから、私の靴箱に読み終わった本を入れると、その次の日には次の巻が入ってて」

「なにそれ~なんかロマンチックね~。どんな本なの?」


玉ちゃんはふ、と優しい顔で微笑むと、本に栞を挟んでパタンと閉じ、表紙を愛おしげに撫でる。


「外国のファンタジー小説よ。勇者が火を噴くドラゴンにさらわれたお姫様を助けに行くお話」

「ふーん」

「――アイツったらほんっと……バカなんだから」


眉尻を下げる玉ちゃんが小声で何か言った気がしたけど、うまく聞き取れなかった。


「エリコ、そろそろ寝ましょう」


そう言って、玉ちゃんはベッドへ向かった。

私も水を一口飲むと後に続く。


「端っこ、貰うわね。エリコは寝相が悪そうだから真ん中は嫌な目に遭いそうだわ」



「おはよお~。うわ、寒っ」


気温は寒いけど、心地よい目覚めに思いっきり伸びをする。

窓越しに、激しい雨音が聞こえた。


右隣には規則正しい寝息を立てるつぐみ。左隣には玉ちゃんが――居ない。


玉ちゃんは床の上で寒そうに自分を抱きしめて体を丸めていた。


「くしゅっ」


小ぶりのくしゃみ。


私は改めて自分の立ち位置と体制を確認する。

思い切り端に寄った大の字。

ゴメンなさい、玉ちゃん! 

これ、多分私のせい!


こうして、玉ちゃんは風邪を引いてしまったのです。

それが、まさかあんな騒ぎに発展するなんて――あの時の私は夢にも思わなかった。


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