ゆきのひ
「ねぇ、芳樹ー。雪が降ってるよ!」
私は芳樹の肩に寄りかかりながら窓を指差しそう言った。
テレビを見ていた芳樹は、一瞬窓を見てから、
「あぁ」
とだけ答えて視線を再びテレビに戻した。
時刻は7時20分。
今日は雪なので早めに出るべきなのだが…、
「寒いー。行きたくないよー!家から出たくない!」
暖房がついているこの部屋は暖かいが、一歩廊下に出れば震える程寒い。
外はそれ以上だろう。
芳樹の暖かい肩から離れ、外へ出るなんて嫌だ。
そのため先程から、うだうだと芳樹にへばりついているが、芳樹の視線はテレビに固定されている。
いっそ、テレビになりたい。
「そろそろ出る時間だろ。早く行け」
ニュースキャスターのお姉さんが、7時半になったことを知らせる。
私は溜め息をついて、バッグを持ち立ち上がった。
「分かったよ。行ってきます」
私は投げやりに言って玄関から出た。
地面には雪が既に積もり始めていて、予想以上に寒い。
妙に首がすかすかすると思ったらマフラーをソファーの上に忘れて来たみたいだ。
マフラーを取りに戻ろうと玄関に向き直ると同時にドアが開いた。
ドアから出てきた芳樹は私がまだいたことに驚いたのか、少し目を見開いてから、
「マフラー忘れてる」
と、私にマフラーを持ち上げて見せる。
「ごめん」
と言って私は受け取ろうとするが、スッと芳樹の腕が伸びて来て、マフラーを首に巻き付けてくれた。
嬉しく笑顔で、
「ありがとう」
と言うと、芳樹は頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ぐしゃぐしゃにしないでよ!」
本当は嬉しいけど怒ったふりをすると、芳樹は困った顔をしてから、頭にキスしてくれた。
「いってらっしゃい」
「いってきます!」
私は元気に言って、傘を差して歩き出した。
私ー神崎若葉と、彼ー元町芳樹は、一年程前から付き合っている。
関係的には幼なじみというものだった。
私が告白し続けてやっと去年付き合うことになったのだが、今のところあまり相手にされていない。
芳樹は在宅ワーカーで、私は高校生。
妹くらいにしか思われていないだろう。
現在私は、芳樹の家にお泊まり中だ。
父は出張の多い仕事で、母もそれについて行くことが多く、父とも知り合いである芳樹の家に預けられているのだ。
私は、芳樹と二人っきりになれて嬉しいのに、芳樹はそうでもないらしい。
くっついてもさり気なく離される。
私の現在の目標は芳樹にもっと私を好きになってもらうことだ。
ダイヤの乱れは思った程なく、遅刻することなく学校に着いた。
教室はいつもより集まりが悪かった。
二時間目に遅れてきた男子が雪に埋もれたかのようにびしょ濡れだったので、タオルを貸した。
「神崎はタオルなくて大丈夫なの?」
と、心配してくれたが、優しい芳樹が雪だから、とタオルを二枚入れてくれたので心配はないのだ。
「大丈夫だよ」
「そっか、ありがとな」
と、彼は少し離れた場所で髪を振り乱しながら、拭いていた。
その姿が犬のお風呂上がりみたいで少し可愛かった。
芳樹のことを知っており、そのやりとりを見ていた友人達に「浮気?」とからかわれたが、隣の席の彼ー関野くんのためにきっぱりと否定すると、友人達はすごくつまらなそうな顔をした。
私は、芳樹一筋なのだ!
放課後には雪が雨に変わっていて、滑りそうで心配だが、普通に帰ることが出来そうだ。
今日は少し心配なので寄り道をしないで帰ることにした。
電車の中で、帰り際に関野くんが
「明日返すから」
と申し訳なさそうに言っていたことを思い出した。
彼とは今まで接点がなかったが、良い人のようだ。
その後も、友人達にからかわれたが。
芳樹と同級生だったら、どんな感じなのだろう?
少し妄想して、ドキドキした。
でも多分、私と芳樹が同級生だったら、私達は付き合っていないだろう。
少し悲しくなった。
最寄り駅に着くと、今まで考えていた人物が傘を差して駅前のコンビニにいた。
もしかしたら迎えに来てくれたのかもと、さっきまで沈んでいた気持ちが浮上したが、すぐに落ちていく。
コンビニから髪の長い女性が出てきて、芳樹の傘に入ったのだ。
そして二人は歩き出した。
芳樹とその女性との関係は分からない。
ただ、二人は歩いてても兄妹に間違われないだろうな、とぼんやりと思った。
これから芳樹の家に帰るのは嫌だったが、帰らなかったら両親と芳樹に心配をかけてしまうかもしれないので、仕方なく家に帰った。
ご飯や、家事は基本的に芳樹がやってくれていたが、私もやれるときはやる方式でお手伝いをしている。
芳樹はしばらくは帰らないだろうから、私は適当に夕食を作ることにした。
キッチンには一つ鍋が置いてあって、中は手作りコーンポタージュだった。
私の料理のレパートリーは少ないので、夕食のおかずは肉じゃがを作ることにする。
いつもは適当に材料を切ってすべて一気に汁で煮込んで終了だが、今日は丁寧に作った。
いつものより美味しい気がした。
そして、冷蔵庫にあった野菜でサラダを作り、夕食完成だ。
芳樹を待っているのは癪だったが、少し罪悪感を感じながらも一人で食べてお風呂にも入った。
一人暮らしをしてるみたいで少し楽しかった。
髪の毛も乾かし終えた後ポストを見てくるのを忘れたことを思い出し、特に何があるわけではないのに、凄く気になりだしてしまい、着替えて玄関を出た。
一階に降りると、芳樹がさっきの女性と一緒にいた。
「芳樹」
声をかけたのはちょっとした意地だったのかもしれない。
でも、すぐに後悔することになる。
「どなた?」
先に反応したのは、女性の方。
芳樹は振り返り私を見て、少しの間動きを止めた。
それから答えた。
「妹」
と。
貧血を起こす前のように視界が少し暗くなったが、一度目を閉じなんとか持ち直す。
「こんばんは」
私は妹として、女性に挨拶をした。
「そうなの。こんばんは。蓮田美玲です」
と、蓮田さんは笑顔で挨拶してくれた。
優しそうだし、美人だった。
「若葉です」
と、私も名前だけ名乗った。
それから蓮田さんはマンションにとめていた車に乗り帰って行った。
一度ここに来ていたという事実に、胸がきゅっときつくなった。
私と芳樹は部屋に戻るまで無言だった。
芳樹は何か言いたそうだったが、私は芳樹と何も話したくなかった。
部屋に着いてからすぐに
「もう寝るね。おやすみ」
と言い、ベッドに入った。
もし私と芳樹が同級生なら付き合っていないかった。
つまり、もし私と芳樹の年が離れていなかったら付き合ってなかったっていうことで、芳樹が私と付き合ってくれている理由は妹的な情だということなのかもしれない。
もし~なんて考えた時点で私はそのことに気付いていたんだと思う。
翌朝、起きたら少し脳がすっきりしていた。
そして、決めた。
芳樹と元の関係に戻ろう、と。
きっとあまり変わらないだろう。
だからいいのだ。
このまま、少し違う恋人関係でいる方が良くない気がする。
だから、別れよう。
でもその前に、ちゃんと話しをしないと。
優しくしてくれた芳樹に感謝の気持ちを伝えてからじゃないと終わりにしちゃいけない。
いつもより早く起きた私はリビングに向かった。
芳樹はいつも早起きなので、ソファーでパソコンを抱えながら仕事をしていることが多い。
今日もソファーに寝転がってパソコンとにらめっこをしている。
「おはよー芳樹。今大丈夫?」
芳樹はパソコンから顔を上げた。
「あぁ、今日は早いな。大丈夫だけど…」
パソコンはテーブルの上に置かれ、私はいつものよう芳樹の隣に座った。
昨日のことのせいか少し強張っていた芳樹の顔が少し和らいだ。
私も少し安心して、そっと息を吐いた。
「昨日の、女の人、だれ?」
私はゆっくりとそう言った。
芳樹は焦った様子もなく、
「仕事の人」
と答えた。
いつもなら純粋に信じることができたはずなのに、今は出来そうにない。
「なんで妹って言ったの?」
私の質問に芳樹は黙った。
芳樹は二股をする人じゃない。
だから、あの蓮田さんともそういう関係ではないのだろう。
でも、少し惹かれているから、私を「妹」と言ったのだとしたら、私は芳樹と一緒に居られない。
「私ね、芳樹のこと、本当に大好きなの。妹としてももちろん慕ってるけど、若葉としても好き。でも、妹の我が儘にずっと振り回してちゃだめだよね。だから、もうやめよう。元の関係に戻ろう」
私は芳樹に言った。
芳樹は何も言わなかった。
本当は話し合いがしたかったから、早くに話しをしたんだけど、話し合いにならなかったな、と思いながら、学校の支度をするために芳樹に背を向けた。
朝ご飯は昨日の肉じゃがを食べた。
鍋の量が減っていて、芳樹が食べてくれたのかと思ったら嬉しくなった。
コーンポタージュは食べなかった。
芳樹はソファーに座ってぼーっとしているようだった。
たまに視線を感じたが、目を合わせるのは少し怖くて、気付かないふりをした。
それからいつもより早く玄関から出た。
「いってきます」
と言ったけど、返事はなかった。
始まりは私で、終わりも私。
凄く虚しい気分になった。
…
……
………
私は小学生の時初めて芳樹に会った。
父の友人の息子が、芳樹だった。
芳樹はもう高校生で、乱暴ながらも遊んでくれた。
芳樹は格好良くて、でも優しくて、好きにならない訳がなかった。
私は中学生になって、芳樹への「好き」は単なる刷り込みなんじゃないか、って思い始めて、それで悩んで悩んだけど、芳樹以上に好きな人は多分出来ないから、だから芳樹に告白しようって決めた。
「好きです!」
最初告白したときは、
「ああ」
としか返ってこなかった。
それからちょくちょく告白して、高校に入学する日に制服姿を見せがてら告白すると、
「俺も好きだ」
と返ってきた。
それから、恋人関係になったが、変わったことはあまりない。
最近は頭にキスしてくれるが、他には何もない。
「好きだ」と言ってくれたのも、あの日だけだった。
結局は私の一人遊びだったのかな。
私の気持ちと正反対に空は晴れていて、今日中に雪を溶かしてしまうだろう。
雨でも降ってくれれば、それっぽい雰囲気になったのに、と思いながら、ちぐはぐな気分のまま学校へ向かった。
教室に着くと、関野くんが昨日のタオルを返してくれた。
お菓子付きだ。
気が利くなーと思いながら、それを受け取った。
昼休みに友人達に芳樹と別れたことを話した。
お菓子とかジュースとかで慰めてくれて、少し気持ちが楽になった。
そして、そのうちの一人が「新しい恋だよ!」と言い、便乗するように「関野くんは?!」などと声があがる。
関野くんに聞こえていたようで、少し目があってしまい、慌てて両手を合わせてごめんなさいポーズをとる。
関野くんも気付いたようで、口パクで「大丈夫」と言っているようにみえた。
授業が始まる前に関野くんがこっそりと話しかけてきた。
「あのさ、さっきの話し、少し聞こえてたんだ。ごめんね」
「ううん、こっちの声が大きすぎたんだよ。こっちこそごめん」
お互いに謝りあって、笑った。
「それでさ、俺、ちょっと前から神崎さんのこと気になってたんだ。だから、友達になってもらえませんか?」
突然敬語になった関野くんを少しおかしく感じてしまったが、緊張したような敬語に好感が持てた。
私はこっちが正しい道な気がして、迷わず頷いた。
それから授業中、少し考えた。
元々、こうすることが正しかったのだと。
私は高校生らしい、芳樹は大人の、背伸びしないのが良い形なのだと。
「一緒に帰らない?」
関野くんがそう声をかけてくれたが、荷物の片付けをしなければ行けないので、断った。
「うん、分かった。突然、誘ってごめんね」
明らかに落ち込んだ様子の関野くんは可愛かった。
私はこういう人との方があっているのかもしれない。
でも、明確に好きという気持ちが目覚めるのはいつになるのだろうか?
私はまだ芳樹が大好きだ。
もしかしたらずっとかもしれない。
それが少し怖い。
最寄り駅に着くと、昨日と同じように芳樹を見つけた。
今度は駅の柱に寄りかかっていたが、また蓮田さんを待っているのだろうか?
それとも私…?
余計な期待はしたくない。
だけど、してしまう。
だから、何でもないような顔で芳樹の前を通り過ぎようとした。
が、
「若葉」
と声を掛けられて呼び止められてしまう。
「どこ行くんだよ」
芳樹は少し怒った顔をしていた。
そして、お酒の匂いもした。
「酔っ払ってるの?」
そう聞くと、
「少しな」
と、笑う。
酔っ払っている芳樹は珍しいが、いつもと同じ雰囲気で少し安心した。
「なんで芳樹、傘二本も持ってるの?」
こんなに晴れていて、日差しも眩しいのに、芳樹は傘を二本持っていた。
「いいんだよ。一本持って」
芳樹はそう言い無理やり私に傘を押し付けると、ひったくるように私のバッグを持った。
そして、
「帰るぞ」
と、歩き出した。
芳樹の奇行を理解出来ないまま、とにかく着いて行った。
酔っ払った芳樹は、家路を辿りながら、
「雪で足元が心配だから迎えに来た」
と言った。
「雪から雨に変わったけど、逆に滑りやすくなって心配だ」
とも言った。
「暖まるようにコーンポタージュも作ったから、帰ったら飲んで」
とも言った。
雨は降っていなくて、むしろ晴れていて、雪は溶けているし、コーンポタージュは昨日からキッチンにあった。
しまいには、
「ほらちゃんと傘させよ」
と言い出す。
何だ、この酔っ払いは!と思いながらも、最後の相合い傘になるだろうから、なんとなく受け入れてしまった。
周りからの不審そうな視線がつらいが、日傘ということで許して欲しい。
芳樹の部屋に着くと芳樹は、ソファーに座った。
ソファーの前のテーブルには、空き缶とウォッカの瓶が置かれていた。
とりあえず満足したようなので、私は荷物の片付けを始める。
洗面所の歯ブラシや、洗顔料などを回収していると、芳樹が後ろから覗いて来た。
「何やってるんだ?」
芳樹が不思議そうに言う。
私はどう言っていいのか分からなかったので、
「もうここに来ることもないかなーって思って」
とありのまま言うと、芳樹の眉に皺が寄った。
「どうして?」
不機嫌そうに聞かれても、どうしてもこうしても、さすがに元の関係と言えど、家に泊まることはしたくないからに決まってるでしょ!
「私達別れたからでしょ!!」
もうどうにでもなれ、と強く言った。
すると、芳樹の顔が情けなく歪んで言った。
「そうだ、な。あぁ、そうだった。やり直しなんてできないよな」
芳樹の酔いが少しさめたようだった。
そこでなんとなく気付いた。
今日の帰り道は、芳樹に昨日の出来事のつもりだったのだと。
「俺、若葉のこと一度も妹だなんて思ったことねーよ」
芳樹はぽつりと言った。
「じゃあ、なんで蓮田さんに妹って紹介したの?」
「それは、蓮田美玲は雑誌記者で、俺のインタビューに来てたんだけど、同棲中の彼女だって言われて、若葉にもインタビューとかされたら嫌だったから」
「なんで嫌なの?」
「お前はそういうの苦手だろ?」
「うん」
酔いが冷め切ったのか芳樹はすらすらとしゃべった。
蓮田さんは突然芳樹の家に押しかけてきたらしい。
芳樹の仲の良い上司と蓮田さんが知り合いなのだとか。
蓮田さんは私を迎えに行く途中の芳樹を捕まえ、そして、そのままインタビューの流れだったが、自宅でのインタビューは嫌だと言った芳樹により、二人は駅前の喫茶店に行くことにした。
その途中で、蓮田さんの相棒の手帳が壊れ、コンビニに買いに行った所を私が目撃したようだった。
蓮田さんの謎は解けた。
「どうして、ちゃんと説明してくれなかったの?」
「だって、お前昨日のあの感じは聞く気なかっただろ」
「今日の朝はちゃんと話せたよ!なのに、芳樹は話さなかったじゃん!」
芳樹は黙って下を向いてから再び顔を上げた。
「お前、俺が蓮田美玲のこと、「仕事の人」って言った時、信じなかっただろ?」
私は図星をつかれてしまい、芳樹から目を逸らした。
「だから、傷付いてたんだよ」
芳樹の顔が見れなかった。
確かに信じられなかった。
芳樹に腕を捕られ、今度は目が合う。
「だって、芳樹は全然好きって言ってくれないじゃん!」
反撃のつもりでそう言うと、芳樹の真剣な瞳に見つめられる。
「好きだ、別れたくない」
腕を引っ張られ強く抱きしめられた。
「ちょっと、待って!!」
そう言い芳樹の胸板を押そうとすると、突然唇を奪われた。
その途端溜め込んだものが一気に涙になって溢れでて、驚いた芳樹が離してくれた。
私はそのままそこに座り込んだ。
同じ目線に来た芳樹が「ごめん」と小さく謝って私を縦に抱き上げて、ソファーに運んだ。
「なんで今になって!!」
私は隣に座ってる芳樹にクッションを思いっきり投げつけた。
「ごめん。約束だったから」
芳樹は困ったような顔で話し始めた。
芳樹の父と、私の父と、芳樹の間で約束があったらしい。
私が高校生になるまで、私の告白を受け入れてはいけない。
私が高校を卒業するまで、むやみやたらな接触は禁止。
と。
「俺正直、最初若葉に告白されたとき、可愛いと思っちゃったんだよ。んで、その後から、お前の事女の子にしか見えなくて、だから、そん時親父と、お前のお父さんに話したんだよ。そしたら、そう言われた」
芳樹の話を私は知らなかった。
「なら!言葉だけでも、「好き」ってだけでも言ってよ!じゃなきゃ、分かんないよ!」
私はまた溢れ出した涙に構わずそう言った。
「キスはしてた。頭にじゃなくて、唇にキスしたかったけど、我慢してたんだよ。それで伝えてるつもりだった」
「つもりだとしても私には分かんなかった!芳樹基本的に冷たいし!」
「そりゃあ色々我慢してたんだよ!近くにいりゃ抱きしめたくなるんだよ!」
芳樹の顔が心なしか赤い気がする。
そんな芳樹をどうしようもなく愛おしいと思った。
そばに居たいと思った。
「もう一回、さっきのやつ言って。そしたら、全部許してあげる」
芳樹がさっきより優しく私を抱きしめた。
「愛してる。一生放さない」
…
……
………
「もしもし?お父さん?若葉だよ。うん、元気。明日は家にいるよ。お父さん達も明日には家に着くでしょ?わかった。でさ、芳樹のこと、全部聞いたから。そこまで介入されたくないし、私と芳樹の問題だから。私と芳樹を信用してよ、ね。じゃーね」
『わかばぁああああああ』と電話機の向こうから父の雄叫びが聞こえたがうるさいのですぐに切った。
その日の夜のうちにちゃんと電話をした。
芳樹はちょっと迷っていたようだが、芳樹の両親にも話したらしい。
これで、私と芳樹の間に約束事の縛りはない。
これまで芳樹の線引きは、唇へのキスと、自分からの密着をアウトとしていたらしい。
そこの縛りはない。
芳樹に近寄っても、もう遠ざけられることはないのだ、それだけでも嬉しい。
デートでは手も繋いでくれる。
お泊まりの時、朝、芳樹に寄っかかっていても、今は抱きしめてくれるし、いってきますのキスもしてくれる。
だが、両親の出張中の芳樹の家へのお泊まりを父が渋るようになったが、芳樹と私の説得でなんとか納得させている。
何故か、最近は「結婚を前提としたお付き合い」になっている気がしてるが、そんなことは気にしない。
ちなみに関野くんにはちゃんと話して、謝った。
彼とはずっと友達だ。
でも、彼はすごく良い人なので、早く彼女が、出来ればいいなーと思ってる。
私は今日卒業する。
「子どもは男の子と女の子一人ずつかな」
と、最近芳樹がよく言う。
そして、芳樹はプチ予言者になるのはちょっと先の話。
不憫君関野君。
誰か彼を幸せにしてあげてください。
彼の名前を「関」から「関野」変更しました。