壁に囲まれた少年
外はとても怖いところなんだ。
だから僕は壁に囲まれたこの世界から出ない。壁に囲まれた世界は天国のような場所なんだ。
ここには扉なんてものはない。誰も僕の壁の中に入ることは出来ない。窓もないから、前みたいにしっかり鍵をして、分厚いカーテンをかける、なんて手間はいらない。誰も僕に気づかない。
少しの本と絵を描くための鉛筆と紙。それだけが僕の壁の中にあった。それだけあったら、僕はとても満ち足りていて、幸せなんだ。
その場でくるりと回転したら全てが見える僕の世界。壁に囲まれた僕の世界。壁の中はとても暖かくて幸せな空間なんだ。
僕は毎日、本を読む。おんなじ本を毎日、毎日繰り返し。空で言えるほど読んだ文字の羅列を更に辿る。
僕は毎日、絵を描く。モチーフはここにはないから、思いつくままを描く。鉛筆の黒だけで何枚も、何枚も。毎日違う絵を描いている筈だけど、完成した絵はどれも一緒に見える。不思議だな。
そうして眠くなったら、僕は床に横になって寝る。手足をぎゅっと丸めて寝ると、とても落ち着くんだ。寝る前には何故かいつも喉がヒリヒリと痒くなって、胸がじんじんする。僕はそれの名前も収める方法を知らないから、眠りに落ちてしまうのをじっと待つ。
本を読んで、絵を描いて、寝る。
この三つを僕は毎日、毎日繰り返す。
とても幸せな毎日だ。
ここに怖いものはなにもない。
(臆病な少年は壁に囲まれる事を望んだ。
自分を守る物しかないその優しい壁の中で、今日も彼は生きていく)