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シャルル=ダ・フールの王国  作者: 渡来亜輝彦
雨情楼閣

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9.俺達は良く似てる

 ゼダは、薄ら笑いを浮かべたまま、重たい空を一度みやり、そして、切っ先を突きつけられて座り込んでいるウェイアードと、彼の取り巻き達を見てため息をつく。リーフィが、少し遠ざかるように動いたが、ゼダは目も向けない。

「ぼ、坊ちゃん……」

 ウェイアードがか細い声でポツリと言った。ゼダは煙管をくわえ、悠々と一服吸ってから不意に笑った。

「すっかりやられちまって……。仕方ねえな、お前達は。オレが手を出すつもりなんざ、なかったんだがよ」

 ゼダは、手を通さずにかけたままの上着をふわりとしめった風に揺らした。そして、ややきょとんとしたままの取り巻き達に、顔からは考えられないほど冷徹な視線を送った。

「おめえらは下がれ。お前らじゃこいつは歯がたたねえ。例え、こいつがザフとやりあって疲れててもな」

 ザフ、と呼ばれた男、つまりウェイアードは、突然、弾かれたように動いた。鼻先に突きつけられたシャーの刀が見えていないかのように、慌ててゼダの前にひれ伏す。ゼダは、ため息混じりに、しかし、少し笑いながら彼に声を掛けた。

「ザフ、おめえもおめえだな。オレに一言の相談もナシとは無茶をやったもんだぜ。何か言いつけたのは、オレを離すつもりだったのかい?」

「……ぼ、坊ちゃん、申し訳ありません……。か、勝手な行動をしてしまいまして……!」

「あぁ、いいって事よ。オレもちょっと見当違いをしてたみてぇだしな」

 ゼダはそう言って、口の端をゆがめて笑った。

「お前で片がつくと思ってたんだがな。だが、お前も一度退けられたときに気づいておくべきだったぜぇ。シャー=ルギィズ。まさか、あんたが、ここまで恐ろしい奴だとは思わなかった」

 ゼダは、ふっと笑いながら舐めるようにシャーを見た。そして、ザフに手でさがるように言う。ザフは一度頭を下げ、そして素早くゼダの前から引き下がった。

「ザフが一人でアンタを襲ったことについては詫びておくぜ。でも、いけすかねぇなあ。とっくに八つ裂きにされてるかと思って来てみたっていうのによ」

 シャーは、ふっと笑った。

「ご期待に添えなくて残念だったよ、……そうか、てめえが本当のウェイアード=カドゥサか。よくもこんなまどろっこしい真似を」

「ウェイアード? よしてくれよ、その名はすかねえ。オレのことはゼダでかまわねえよ、シャー。まどろっこしいと感じさせたことについては謝るぜ。でも、オレは、表舞台に立つのがあまり好きじゃねえんでね」

 ゼダの赤い上着が、風にひらひらと舞う。袖を通さないそれは、今にも吹き飛ばされそうだったが、微妙なバランスでかろうじて彼の肩に掛かっていた。

「オレの面じゃ脅しにもなりゃしねえからな。だから、ザフや他の連中に普段は任せているんだが……」

「ふん、確かに、カドゥサの御曹司には見えないよな」

 シャーが皮肉っぽく言うと、ゼダは、自嘲的な笑みを浮かべた。そうして暗い表情を浮かべると、あの時のどじな冴えない男の気配は消え失せる。

 シャーは、ようやくリーフィが「あなたと似ている」といった理由がわかった。ゼダも同じように自分のある一面を普段隠して生きている。だから、余計につかみ所なくうつるのだろう。特にその態度においてだけを考えると、ゼダの変化はシャーのそれよりも外見の点ではもっと激しい。無意識のうちにそれを見て取ったリーフィは、だから「恐い」といったのだ。

 ゼダはふらりと煙管をふかしながら、語った。

「そうかもしれねえなあ。そもそも、オレは、本当はオヤジの正妻の子供じゃねえんだよ。跡継ぎとしてどうしても息子が欲しかったオヤジは、よその女とつくった子供をそのまま正妻の子として引き取った。それがオレだ。だから、ゼダは元の名前なのさ。オレはそっちの名前が気に入ってるんだよ」

「へぇ……」

 シャーは、思わず唇を噛みしめるようにして苦笑いした。

「いいのかい、カドゥサってな名家のお坊ちゃんが、こんな放蕩三昧とは……」

「ふっ、オヤジは金儲けして新しい女と遊んでいれば満足ってな男だよ。オレがこんな放蕩をやってようが、よほどの事をやらねえ限り、オレに何もいってこねえだろうさ。それに、オレにすっかり失望してるみたいだからな、その気になれば廃嫡して別の女とガキでも作るだろうよ。…と、さてと」

 ゼダは、煙草の煙を吐きながらにやりとし、煙管の中身を捨てて、それをしまい込んだ。

「いい加減、始末をつけようぜ。シャー」

 ゼダはすうっと右手で腰の曲刀を手に取り、刃を封じている布を取り去った。はらはらと螺旋を描きながら地面に布が降りていく。

「オレは無闇に女遊びをするよりは、こうやって血生臭い狂宴に興じる方が好きな人種なんだよ」

「だろうな……」

 シャーは、顎を引いたまま相手を見た。下から見上げるような目は、稲光の度に青く光る。

「どうして気がつかなかったのかねえ。…こんなに血の臭いのする奴、滅多にいねえというのにな」

「それはお互い様ッてやつだろ? オレも最初は気づかなかったぜ。こんな危ねえ空気の奴は珍しいのによ」

「お前と一緒にされたくねえな」

 シャーは、軽く笑った。笑うときに揺れた肩のせいで、鍔がわずかにちゃりんと鳴る。雨はほとんど降り出しそうだった。ぽつ、ぽつと、一滴、二滴、シャーの青いマントに降りかかる。

「そうそう、先ほどそこの美形のにーちゃんにも訊いたことだが、二、三応えてくれよ。オレが死んでもお前が死んでも、聞き逃したら未練だからな

「あぁ、構わんぜ?」

 相当不吉な話をしているのだが、二人とも意に介する気配もない。シャーもゼダも、そうした殺伐とした空気になれすぎていて、大方の感覚が麻痺しているのだろう。

「どうして、噂で知るだけの娘を買い上げようとした? お前が、囲うだけ囲って捨てちまうってのは有名な話だぜ」

「あぁ、オレというよりは、こいつらが欲しがるからな。飽き性のこいつらのために、あちこちから集めたんだよ」

「金で仲間を買うつもりか? 見下げ果てた奴だな」

「そうじゃあねえ。オレのわがままにつきあってもらっている礼よ。オレの放蕩につきあってもらってる以上、それ相応の礼をしなきゃならねえだろ? オレには生憎と金ぐらいしかねえからなあ。だから、美人が欲しいといったこいつらに、オレがくれてやったんだよ。ただそれだけのことじゃねえか」

 ゼダはしゃあしゃあといいながら、もっとも、と付け加える。

「そこのリーフィはちょいと誤算だったよ。まさか、こんなにできた女だとは思わなかった。オレが、この前あんたにいった事は嘘じゃねえんだぜ。「理想」を探してるってやつ。オレは、オレで、ホントに好みの女を捜して歩いてるんだ」

「はっ、顔に合わねぇぜ。そんな恥ずかしいこと、よく言えるもんだな」

 シャーは嘲るようにいったが、ゼダは別に気にしていないようだ。

「それじゃあ、てめえの遊びということでいいんだな?」

「遊び、まぁ、広い意味でそうだといってくれても構わないぜ」

 ゼダは悪びれない。シャーは、ややため息をつくようにしながら、何となく複雑そうな顔をした。空を見ると黒い空から大粒の雨粒が少しずつ降り注いできていた。もう数分も持つまい。急速に強まる雨足が、ここをやがて覆うだろう。上をみあげると大きな影が天空に伸びていた。轟音と共に世界を照らす閃光に照らされて、マタリア館は魔の要塞のようにみえた。

「なるほどな。なんで、こんなにてめえに腹が立ってたのか、オレはようやくわかったぜ」

 シャーの声がふと雨音を押しのけてはっきりと聞こえた。

「てめえみたいな奴にだけは使いたくなかったなあ、同族嫌悪なんて言葉はよ」

 シャーは暗い声で言った。睨むような目には、複雑だが底知れぬ憤りのようなものがあふれていた。

「オヤジさんが嫌いで、反発する気持ちはわからねえでもないぜ。……オレも所詮同類だからな! 仲間をつくってつるむのもいいだろうさ。オレがどうこう言うことじゃねえ。だがな!」

 だが、とシャーは声を高めた。

「それでも、自分の不満のはけ口に、何の関係もねえ女の子を金で弄んだてめえは最低だ! あの子達の運命を狂わせてまで、てめえのやっていることが正当化できると思うのか! 結局てめえのやってることは、てめえの嫌いなオヤジと何の変わりもねえじゃねえか!」

 何の変わりもない、の言葉に、ひくっとゼダの口許が一瞬引きつった。

「オレが気に食わねえのはそれだ!」

 天空から光が走り、一瞬だが異様にゆっくりと青とオレンジの火花をちらしながら、稲妻が地上に降るのが見えた。直後、けたたましい音が鳴り響き、取り巻き達は怯えて地面に伏せた。古来から雷は神の怒りを彷彿させる。彼らが怯えるのももっともなことだった。

 しかし、少し離れたところに主人を見守るザフが立ち、そこからまた少し離れたところに、怯えもせずリーフィがたたずみ、固まったように動かない二人の男を見つめていた。

 ゼダは何も言わない。シャーも何も言わない。落雷のことなど気に留めてなどいないように、彼らはお互いにらみ合ったままだ。ごろごろごろ、と重い雷鳴が響く。

「は……」

 ゼダはわずかに嘲笑った。それは、先ほどのシャーから浴びせられた言葉の余韻を振り払うようでもあった。殺気と憎悪に似た色を放ちながら、ゼダはその目でシャーを睨み付けた。

「上等だ。いいぜ、シャー! 雷の中で斬り合いもなかなか乙じゃねえか!」

 ざーっと、とうとう雨が彼らを強く叩きだした。その水滴を切るように、ゼダはにぎった剣を軽く横に払う。ぞくりとするような冷酷な笑みが稲光と刀に映る。

「オレはずっと退屈してるんだ、アンタの言うとおり…。だからよ、シャー、死ぬまでせいぜいオレを楽しませてくれよ……」

「そいつは無理だな

 シャーはへっと鼻で笑ったが、目は冴え渡っていた。

「オレの剣はお前を楽しませるためにあるようなお遊びじゃねえ、他人を地獄に突き落とすための剣だ。遊びじゃなく、死ぬか生きるかぐらいの覚悟はして来いよ」

「ふん、いってくれるぜ!」

閃光が走るのと同時に、ゼダの足が地を蹴った。赤い上着は水に濡れ、重く、黒に近い色になっている。それが、ばっと背後の闇に消えるように飛んでいく。

 ゼダの剣は、先ほどのザフのものと同じだ。先ほどの動きを思い出し、冷静にさえなれば、見切れないものではない。

 が、シャーは一瞬、違和感を覚えた。ゼダの繰り出した突きが、一瞬、先ほどとは大幅に違う不定形な軌道を見せたのだ。

 ハッとシャーは目を見開く。

 ――違う!

 シャーは、慌てて身を先ほどとは逆方向に投げ出した。それは直感による咄嗟の判断だったが、直後、シャーはそれが正しかったことを思い知る。右袖が軽く引き裂かれた。もう少し判断が遅れたら、右胸を抉られていた。身を翻しながら後退し、シャーは自分の予想が正しかったことを知る。

 ゼダの手、先ほどは右手に持っていたはずの刀を、ゼダは左手に提げている。それを目の端で確認し、シャーは声をあげた。

「左利きか!」

「さすがだなあ! つっこんでくると思ったが……」

ゼダは、含み笑いを浮かべた。

「びっくりしたかい? ザフの剣の使い方で慣れたからって、オレも同じようにいくとは考えるんじゃねえぜ、シャー」

 雨に打たれながら、ゼダは肩を軽く揺らして笑う。左手にぶらりと提げた刀が雨の向こうで揺れていた。

 左利きは厄介だ。右利き相手と、明らかに動きが違う。それに、右利きの相手の方が多いので、それに目が慣れてしまって判断が遅れるのだ。おまけに、先ほどのザフとの戦いで、シャーはこの奇妙な刀剣の癖を「右利き」の癖のまま覚えてしまっている。その通り動いて勝てるはずもない。

(まずいな…)

 シャーは、足をわずかに引く。泥に変わりつつある砂が、サンダルに擦られてしめった音を立てる。

(……さっきの奴以上変則的な動きになると、正直どうやっても見破れねえ!)

しかも、雨のせいで視界は最悪だ。カッと閃光が目の前に飛び込んでくる。激しくなった雨は、彼の頭からつま先までをずぶ濡れにしていく。巻き毛の黒髪も水を含んで重くなり、額に張り付いている。その額から流れ落ちる雨水が、目に入りそうになるが、ぬぐうことはできない。

 だが、見切れていないのは、ゼダにしても同じ筈だ。シャーの刀も、どうせ、彼らからすれば馴染めないもののはずである。うまくすればどうにかなるかもしれない。ただ、無傷での勝利を望むなら、ここで勝負を捨てた方がいいとシャーは踏んだ。

(死を覚悟でもするか?)

 シャーは自問するようにそう思う。そんなことはきくまでもない。幼い頃からずっと戦いの場にいたシャーは、死というものを見過ぎていた。他人の死だけでなく、自分も死ぬかも知れない場にいつもいた。だから、覚悟するのはそう難しいことでもない。ただ、これがそこまでして得る価値のある勝利かどうかはわからない。他の方法もあるのかもしれない。ただ、リーフィとサリカを二人とも助ける方法は、今のところコレぐらいしかないのだ。

 そして、その薄氷の勝利を得ても、二人がシャーのものになるわけでもない。そんなことは最初から期待してもいない。

(ただ、この場面における最善をつくす……って奴だよな。オレも報われねえ男だこと)

シャーはふと自嘲する。でも、おそらくそれでいいのだ。この期に及んであれこれ考えるのはかえって命取りである。こうした勝負の場では、そんなことをあれこれ考えるよりは、さっさと割り切って勝負に専念した方が割がいい。後のことは後で考えるほかはない。

 青白い稲妻が暗い天空を走る。シャーは一度構えを崩し、空に目をやった。幼い頃、訊いたことがあるような話では、親不孝者は雷に撃たれて死ぬのだとかいう。東の国ではまことしやかに信じられている話だ。だとすれば、自分もゼダもとうの昔に死んでいてもおかしくない。

 今、金属をもって戦っている二人に、落ちないとも限らない。そうして、二人もろとも死んでも、おかしくないと、シャーは不意に思った。

「夜半の雷か……」

 シャーはふっと笑った。

「撃たれて死ぬ罰当たりはどっちだろうな!」

 砂の上に水が溜まりだし、シャーの足には泥が付着していた。ばしゃ、と水しぶきが飛ぶ。シャーは、水滴の向こうのゼダの影に向かって飛びかかった。

水滴を切りながら、ゼダの刀がびゅっとのびてくる。シャーは横に払ってそれを弾き、そのまま斜めに突き上げる。だが切り裂いたのは水滴だけだ。素早く避けたゼダは、シャーの横側に回り込み、そのまま切り下ろしにかかる。形状が特殊なだけあって、引っかけてしまうとまずいのだろう。それだけに、ゼダは確実に急所を狙ってくる。シャーは身を沈める。マントごと肘のあたりを掠ったらしく痛みが走る。

 だが、瞬間、雨のすだれの向こうで、シャーが笑ったのをゼダは見る。咄嗟に顔をのけぞらすと、雨とは逆の方向から来る水しぶきが風と共に顔に飛んだ。ゼダの鼻先をかすめるようにして、シャーの剣が通っていったのだ。ゼダは後ろに二、三歩後退し、体勢を整える。

「坊ちゃん!」

 見ていたザフが思わず声を上げ、腰に巻いていた短剣に手を伸ばし、ざっと一歩前に出る。その時、シャーの方を見ていたゼダが、きっとザフの方を睨み付けた。折良く、稲光が走った。 

「ザフ! この期に及んで手ェ出しやがったら、てめェただじゃすまさねえぞ!」

 ゼダの怒号が飛んだ。見かけが大人しそうに見えるだけに、それは逆に恐ろしく見える。ザフを初め、彼の取り巻き達はすくみ上がった。

「それに、まだ、オレの方がちょっと有利なんだぜ。……勝負に水を差すなよ」

「水を差すなの前に、すでに雨で差されてるけどな」

 シャーがふと口を挟んで笑った。

「はっ、いいねえ。そんな口も今に叩けなくしてやるぜ!」

「それはこっちの台詞だ!」

 言葉の終わりと共に青い閃光が走る。稲光と同時に、シャーの刀の切っ先がゼダの眼前に迫る。舌打ちして、横に流したあと、ゼダは足払いをかけてきた。それにいち早く感づき、シャーはぬかるみに足を取られないように気をつけながらさがる。

 雨に打たれて冷え切った刀の冷たさが、柄を通してもぞわぞわと駆け上がってくるようだ。ゼダの刃の軌道は相変わらず読めない。シャーがどうにかかわしているのは、勘と運の良さに寄る所が大きい。

 轟音と共に、またどこかに落雷したらしい。大気の震えと同時に、ゼダが揺らぐように動く。シャーは耳の横に刀を構える。ギインという音と共に、体を大きく振られ、シャーは横に飛ばされるようにして飛び退いた。 

 シャーより少し背が低い代わりに、ゼダは彼よりは体格がいい。やや重めに見えるあの刀は思った以上に重い。

 水たまりを蹴散らし、飛びずさるシャーに追撃が来る。

(やっぱり、このままじゃ危ないな。仕方がない。やはりあの手でいくしかないな)

 シャーは、ふと唇をゆがめた。最初から、そのつもりで来ていたのだ。

 そして、シャーは泥にぬかるむ地面を蹴った。

「何を考えてんだ!」

 ゼダの声が聞こえた。

「正面から飛び掛かってきても、てめえの有利にはならねえぞ!」

「そんなことわかってら」

 シャーは口の中でぼそりという。ゼダは思った通り、正面から剣を振るってきた。ぐるっと回るように水しぶきを切断しながら、その軌道は不規則に回るように、シャーの瞳に飛び込んでくる。

 雨の中に朱が飛んだ。

「なに!」

 ゼダは驚いて一瞬行動が遅れる。ゼダの剣はシャーの右膝の上を薄く切り裂いていた。シャーが避けると思ったのだが、シャーはただ最小限に直撃を避けただけでほとんど避けなかったのだ。その後、マントを大幅に切り裂かれながらも、躊躇せずにシャーはそのまま飛び込んでくる。

(相打ちを狙うつもりか!)

 ゼダは一瞬恐怖を覚えた。慌てて剣を引き、もう一閃するが、もう間に合わない。シャーはすでに懐に飛び込んでいる。ゼダは、腕を引く。シャーは飛び掛かるようにつっこんできながら、空いた左手をゼダの頭にのばした。頭を左手で押さえつけられ、ゼダは後ろ向きに転倒した。



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