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シャルル=ダ・フールの王国  作者: 渡来亜輝彦
シャー=ルギィズと呪いの仮面
148/209

3.外れないなら、そのままでいればいいじゃない


「うまくいったわけだ」

 話を聞いていたジャッキールがぬるくなった茶を最後まで飲み干して、もう一杯茶を注ぐ。

「そりゃー、オレ様、ちょっと本気出せばそれぐらい……」

「ふーん、それは良かったな。で?」

「で?」

 えへんとばかり胸を張るシャーに、ジャッキールは相変わらず冷めた視線を送る。

「話が終わっても、俺の部屋に潜伏していた理由がまだわからんわけだがな」

「ちょ、やだなあ! それで終わってたら、こんなむさくるしいトコ逃げ込んでないでしょが」

「むさくるしいところで悪かったな。今すぐ出てってもらってもいいんだが」

 ジャッキールが眉根を寄せてじっとりにらんでくるので、シャーはあわてて追従した。

「んな冷たい事いわないでくださいよう、ジャッキールのダンナ。今のは口がちょっとツルっと……」

 シャーは、急に頼み込むような表情になった。

「いや、本当、オレ、マジで行くとこなくて、でも逃げる場所ココぐらいしかないじゃないっすか」

「その珍妙な格好をどうにかすれば、どこにでも行けるだろう」

「それが問題なんだよ、ダンナ」

 急にシャーは真剣な表情になった。

「何? だから、最初から仮面を外せといってるだろう」

「だから、外れねえんだよ」

「は?」

 ジャッキールは冗談かと言いたげにきょとんとしたが、シャーは真面目な顔付きだ。

「……仮面がさあ、外れなくなったんだよ」

 


 **



「いやあ、兄貴、今日はすごかったですねえ」

「本当別人かと思いましたよ。すげー色っぽくてかっこよくって……!」

 舎弟たちの出迎えを受けて、シャーはいい気になる。

「当たり前だろう。あれぐらいできなくてどーすんのよ。はははー」

 そういって、舎弟の持っていた酒を断りもなくぺろりといただいて笑うシャーを見て、舎弟たちはため息をつく。

「あー、やっぱり、兄貴だなあ。喋るとダメなんだ」

「本当。しゃべるとどうもダメなんだな」

「え? なに、喋るとダメってどういうこと? 今でもオレ、ちゃんとかっこいいでしょうが!」

 シャーが不機嫌そうに抗議するが、そんな彼の目の前に店の女の子達が通りすがった。いつもならシャーには冷淡な彼女たちだが、今日は様子が少し違う。

「あ、本当だ。本当に腐れ三白眼が踊ってたの? 嘘みたーい」

 一番年下のサミーが、シャーの顔を覗き込んで無遠慮にそんなことを言う。

「あらあら、サミーちゃんお言葉だねえ。オレだってちょっと本気だしゃああれぐらい……」

 シャーがそう言ってみると、他の女の子たちも興味があるらしく珍しく群がってきた。

「あ、本当だ! 腐れ三白眼のヤツだわ」

「ええ、本当だったの? てっきり、リーフィ姐さん、誰か代役を立てたんだと思ってたわ」

「本当、あんたがこんなにかっこよく見えるわけないと思ってたんだけど、意外と見られるもんねえ」

「ははー、ようやくオレ様のカッコよさに気づいたってわけー」

 急に女子たちに褒められて、シャーもまんざらでもない。思わずまだ手にしていた扇をひらっひらとあおいでみて、にやにやしてみる。

「本当口開かなきゃいいのにね」

「口開かなきゃねえ」

 そんなことを言いながら、女の子たちも意外に好印象だ。

 ちやほやされて上機嫌のシャーに、カッチェラが酒を差し入れながらため息をつく。

「まー、ソレつけてるといつもよりはカッコよく見えるんですよ。しばらくそのまんまでいたらどうです」

 カッチェラに言われ、当然の如く酒を飲みながらシャーは仮面に触れた。

「馬鹿言ってもらっちゃ困るねえ。いくら軽いし、つけてても違和感ないといっても、このままの格好じゃ馬鹿みてえじゃん」

 この酒場にいる連中は知るまいが、実際はシャーは仮面をつけなれている。戦場で防具を兼ねてつけていたことも多かったからだが、つけることは全く気にはならないのだ。今も、そういう風に指摘されないとうっかり外し忘れそうになるほどだったのだから。

「何だかんだ、結局オレがカッコイイってことには変わらないでし……ん?」

 留め具に手を触れてそのまま外そうとして、シャーは、表情を変えた。そのまま、シャーは何度か指で留め具を引っ張ってみるが、かすかにかちゃかちゃ音がするだけだ。

「何やってんですか?」

「い、いや、なんか外れねえんだよ……」

 シャーは真剣だが、カッチェラは特段顔色を変えなかった。

「あー、汗でさび付いたんじゃねえんですか?」

「ちょ、ちょっと、手伝ってくれって」

 自分で引っ張ってみるが、やはり取れない。シャーはそう助けを求めてみるが、舎弟たちは面白がるばかりだ。

「いいじゃねえですか、そっちのがかっこいいし」

「しばらくそのまんまでいても、何も困ったことないでしょ?」

「目のとこだけ隠してるだけだし、酒も飲めるし、メシも食えるんだもんな」

「そ、そんな殺生なこと……。普段のオレの方がいいに決まってるじゃん」

 シャーが慌ててそういってみるが、今度はまだそこにいたサミー達女の子達も続いた。

「そんなわけないでしょ。普段なら、存在すら許さないぐらいウザイけど、今のあんたなら別にいてもいいかなーぐらいに思うもの。口開いても」

「そうよねー、素顔よりそっちのがいいわ。素顔でいられるとなんかムカつくけど、それならまだ……」

「しばらくその格好でいなさいよ。まかり間違って、ときめくこともあるかもしれないしね」

「あははー、それはないわよー」

 いよいよ外れないことに気づいて青ざめるシャーと、やたらのんきな彼らの温度差は開くばかりだ。しかも、どう考えてもこの状況、仮面をつけたままの方が評判がいい。そのまま仮面をつけていろと言わんばかりだ。

(オ、オレの存在って、仮面一つで変わるものなの。普段のオレより、今のオレのが存在価値高いとか……!)

 いや、まあ、元々そういう部分はある。シャーはかつて仮面の将軍を務めていたことがあるが、仮面さえ外してしまえば、人々は一般兵士との区別がほとんどつかないのだ。威厳がないといわれればそれまでだ。しかし、そんな自分が決して好きではなかったのだ。あの頃だって。

 今はそれとは無縁の日常。当然仮面などかぶらなくてもいいはずの場所。それなのに、なんなんだ、これは。

(そういえば、リーフィちゃんだって……)

 仮面の自分を見て頬を染めたあんな見たことのないリーフィ。あれは自分の姿に誰かを思い出したに違いないが、それにしたって、リーフィだってきっと仮面をつけた自分の方がカッコイイとか思っているに違いない。

 そんな絶望的な考えがぐるぐる頭を回り出したところで、サミーが余計なことを言った。

「リーフィ姐さんだってそう思うでしょ?」

 そう声をかけた先には、なにやら仕事をしているリーフィの姿があった。リーフィは、まだ踊り子の衣装のままではあったが、装飾を外している。

 リーフィがゆっくりこちらを向いて、シャーの方を見るが、その静かな表情に一瞬だけ動揺が走った気がした。

(あの反応、やっぱり、リーフィちゃんも……)

 ――外れないなら、しばらく、そのままでいればいいんじゃない?

 そんな幻聴すら聞こえた気がした。

 ――そっちのシャーの方が素敵だもの。

「ねえ、リーフィ姐さんてば。どう思うの?」

 サミーが声をかけるのと同時に、シャーは思わず言った。

「オ、オレ、ちょっと外す道具探してくるわ!」

 怖くてリーフィの返事を待つこともできず、シャーは慌てて酒場を飛び出してしまった。



 酒場の外に出たとはいえ、この派手な衣装。あまり人目に触れられたくないので、すぐさま横道に入ってみる。

 誰に助けを求めようか、とりあえず金物屋で何か貸してもらって……。

 そんなことを考えかけたところで、いきなり横道からのんきに歩いてくる男と出会ってしまう。なにせ派手な格好だ。羽飾り付きの仮面に、青い装飾つきマント、上下の服は女装といって差し支えない派手なもの。とにかく目を引く。

「あれ?」

 しかし、また都合の悪いことに、顔見知りだ。気づくなよ、というシャーの切なる願いもむなしく、彼は仮面の奥の正体に気づいたらしい。

「あれ? お前、腐れ三白眼じゃね?」

「三白眼ってなんだよ。オレにはちゃんとシャーって名前があるんだ!」

(なんでこんなところで、出会いがしらにネズミ野郎がいるんだよ!)

 一瞬、このままきびすを返して逃げることも考えたが、その辺はシャーのプライドというやつが許さない。この男もいろいろ複雑だ。

 その男はおなじみのゼダだ。相変わらず派手な上着を着て伊達男を気取っている、シャーがちょっと苦手なカドゥサの二重人格御曹司である。

「お前、なんつーカッコしてんだよ?」

 ゼダはどうやら酒場に遊びに来るつもりだったらしい。近頃、暇になると酒場や隠れ家、あとジャッキールとザハークのいる長屋にしょっちゅう姿を現している彼だった。相変わらず、派手な上着をまとった遊び人の彼でも、今のシャーの格好は目を引く異質な派手さなので奇妙に思った様子である。

「チンドン屋に就職したのか?」

「失礼なこと言うなよ! 事情があって衣装着て踊ってたんだ!」

 シャーはそう反論した。

「お前こそなんでわかったんだ?」

 そう尋ねるとゼダは、へへーと意地悪っぽく笑う。

「そりゃお前、そーしてると雰囲気違うけど、あの酒場からこの格好のまんま、公道に飛び出てこられる神経のヤツそうそういねえしさ。よく見ると白目の面積多いからすぐわかんだよ」

 ゼダはごもっともなことをいって、今度は小首をかしげた。

「でも、いくらお前でも、そんな格好で飛び出てくるとかなんかあったのか?」

「い、いや、ちょっと……、仮面が……」

 流石にこいつを頼りたくない。が、シャーはうっかりと口に出してしまう。

「仮面? あ、もしかして外れねえのか?」

 ゼダは意外にもからかってこない。親身な様子だ。

「あー。なるほどな。踊って汗かいたんで、さび付いたんじゃねえか」

「そうかもしれねえんだが、何せ外れなくてよ」

「この留め具か?」

 とゼダは留め具を掴んで引っ張ってみるが、びくともしない。

「うーん、ちょっと真剣にやってみるか? お前、ちょっと後ろに体重かけとけよ」

「よっしゃわかった!」

 と今度は二人で道をふさぐ形で引っ張ってみる。が、金属がきしむばかりで全く外れない。とうとうゼダが手を放してしまったので、二人は思わず反対側に転びそうになった。

「なんか、これすげえ硬いな。顔に張り付いてて剥がれない感じだろ」

 ゼダが首を振ってぞっとしない様子で言った。

「お前、その仮面、呪われてんじゃね?」

「縁起でもないこというなって!」

 シャーは内心青ざめて言った。

「んでも、どうしよう……」

「よし! こうなったら、蛇王へびおさんに頼もうぜ」

「へ、蛇王さん?」

 唐突にザハークの名前が出てきたので、シャーがきょとんとして聞き返す。ゼダは、何故か彼には全幅の信頼を寄せているのだが、今回もそれで名前がでてきたらしい。

「おう。蛇王さんなら力もあるし、あれで手先器用だからきっと外してくれるって……」

「でも、何か無茶しそうだしさ」

「その不安はあるけど、一生剥がれないよりマシだろ。あと、なんか呪われてても、あの人なら何とかしてくれそうな感じもするじゃん」

 根拠がない、が、その気持ちはなんとなくシャーもわかる。ザハークは、その生まれのせいかなんなのか、何となく浮世離れした不思議な男なのだ。悪霊祓いくらい余裕でできそうな何かがある。

「それに不安があるなら、ジャッキールのダンナに声かければ大丈夫だって。多分止めてくれるよ」

「そうはいっても、あのヒト、押しに弱いからなあ」

 とはいえ、今のところそれが一番よさそうだ。シャーも懐具合が相変わらず寂しいし、金もかからずに外してくれるかもしれない相手を探すには、知り合いを頼るのが一番だ。

 そうして、ゼダに連れられつつ、何となく人目をはばかって、シャーは彼らの住む長屋にたどり着いたのだった。



「ジャッキールのダンナ、留守みたいだな」

 一応隣の扉をたたいてみたゼダは、鍵がかかっているのを確認して言う。

「えー、マジで。どこほっつき歩いてんのかね、あのヒト」

 相変わらず肝心な時にいない。使えない男だ。

「エーリッヒなら、留守だぞー」

 彼らの気配を感じたのか、急に隣の部屋の扉が開いた。

「アイツなら今日は特売日なので、はりきって出陣していったぞ」

「あ、蛇王さん!」

 あの危険な男の隣に住んでいるのはザハークしかいない。ので、当然ザハークに決まっているのだが、

「おー、三白眼小僧、今日はやたらと派手だな」

 ザハークは、あくまで彼らしくシャーの姿をみても大して驚く様子もなかったが、むしろ、二人を出迎えたザハークの方が奇妙な格好をしていた。シャーも目元を隠す仮面をつけていたが、ザハークも目元にまた派手な仮面をつけていたのだ。レースなどで装飾された紅い仮面で、どことなく異国の香りがした。

 髭っつらで強面とはいえ、よく見ると意外にも男前な彼だが、仮面をつけるとさらに謎の効果があり、妙にオシャレなカッコイイ男に見えている。

「な、何やってるの、蛇王さん?」

 そう尋ねてみると、ザハークはにんまりと笑った。

「おー、これか。これはな、ずっとずっと北の国の大きな町でこういうのが流行っていたことがあるらしいのだ」

 ザハークはそういいながら、部屋の中を見せる。部屋には、紙で型を取ったらしい仮面のようなものがいくつかに床に並べられていた。乾燥中なのだろうか。

「これは、俺の剣に取り憑いている魔女から教えてもらったのだがなー。向こうでは、これで身分を隠して踊ったりするんだそうだ。はっはー、俺も試しにかぶってみたが、意外とかっこいいだろう」

 またそんな非現実的なことを言い出すザハークである。それについては二人も流し気味だったが、

「で、これを大量生産してお土産品として売りさばいて、小銭を稼ごうと思っているのだ。売ってくれるところは見つけたから、あとは完成させて納品するだけだぞ」

「完成させてって、こんな内職、蛇王さんがするの?」

 ザハークは時々狩りをする以外は、本棚や椅子などの家具を作って、それで生計を立てているらしい。手先はそれなりに器用だが、細やかに仮面を飾り付けるような作業は苦手そうに思えた。それで疑問に思ってそう尋ねると、ザハークはにこにこしながらいやいやと首を振る。

「そんなもの、仕上げはエーリッヒに外注出すに決まってるだろう。いや、奴は仕事がなくなるとすぐに死にたくなる性質だから、仕事を与えておかなければな」

 と勝手なことを言うザハークだ。

「実はな、この売り上げは俺とエーリッヒで山分けの契約なのだ。ま、ちょっとした共同経営というやつだな」

「そ、そうなんだー。相変わらず、仲がいいのか悪いのかわかんないね、アンタ達」

「それはそうだ。いつか殺し合う仲だが、そのいつかまでは日銭を稼がなければ生きていけんからなー。殺し合う前に、飢え死にしては元も子もないだろう」

 あきれるシャーだが、そんな返事があってますますあきれてしまう。

「これが仕上がり品だぞ。あの男は不器用だが、几帳面で完璧主義者だからな。努力してきれいに仕上げてくるので、意外とよい感じに……」

 そんなことを言いながら、顔の派手な仮面をひっぱってみる髭男ののんきさに呆れていると、不意にザハークの方がきいてきた。

「で、三白眼小僧は、わざわざ俺の商売の為に、仮面の造形の参考としてそれをかぶって来てくれたのか? 気がきくな!」

「んなわけないでしょ!」

 何となく脱力気味なシャーに代わって、ゼダが真面目にいった。

「蛇王さん、コイツ、大変なんだよ。古い仮面つけて踊ってたら、汗のせいか金具が錆びて、仮面が外れなくなったんだって」 

「ふーん、呪われてるのかもしれんなー?」

 仮面を一瞥してザハークは、さらっとそんなことを言う。どうもこの男に言われると、冗談では済まない感じがして、シャーは身震いした。

「ちょ、縁起でもないこと言わないでくれる?」

「ま、どちらにしろ、金具を外せばよいのだろう。よし、任せろ! 道具を持ってくるからな」

 ザハークはそういうと、部屋の中に入っていった。

「ほら、さすがの蛇王さんだぜ。あっという間に解決よ」

「そりゃ助かったけど、……いやでも、お前、蛇王さんに対する信頼絶大だな」

 ともあれ、どうにかこの仮面ともおさらばできそうだ。シャーはほっと胸をなでおろす。

 いくらカッコイイといわれても、いくらリーフィにときめかれても、街の中で仮面をつけているなど嫌だ。

(もー、オレやだ。城でならともかく、私生活でも仮面つけるとか絶対やだからね! リーフィちゃんにはごめんだけど、オレはなるべく素でいたいんだから、ここでは)

 そんな風に思った時いきなりギラリとした光が目の端をよぎった。

「よし、待たせたな!」

 ザハークが笑いながら目の前にたたずんでいる。その手には、なにやらゴツイ金物がたくさん握られていた。今輝いたのは、彼の右手にあるやたら輝く鋭いもの。

「ちょ、それ、何?」

 怯えながらシャーが尋ねると、ザハークは当然の如く答える。

「何って、のみだノミ。あー、小さいのがどっか行ってしまっててな。ちょっとでかいが、大丈夫だろ」

 それからー、とザハークは左手に握っているノコギリを手にした。

「それで無理なら、その仮面の木の部分を真っ二つだ!」

「ちょ、ヤバイってそれ。オレの顔ざっくりいくよね、それ!」

 シャーが怖気づいて後ずさると、ザハークはにやあっと笑った。その目に、いつもの彼ではない尋常な光が灯っている。

「ふっ、安心しろ小僧。俺は絶対に失敗しない男だ!」

 ザハークは胸を張って断言した。こんな時に、例の戦場を潜り抜けてきた百戦錬磨の男の気配を漂わせて言わなくてもいい。怖い。

「こ、根拠は?」

「根拠はない。が、俺は絶対に失敗しない。今までもそうであるし、これからもそうだ。とにかく、絶対に失敗などしない。それがこの俺だ」

「本当に何の根拠もないじゃねえかっ!」

「んでも、蛇王さんだろ」

 ゼダが真面目な顔をして頷く。

「オレは蛇王さんがそういうなら無条件で信じることができるぜ。蛇王さんが失敗してるとこ、想像つかねえし!」

「お、お前は……」

 他人事だと思いやがって!

「まー、よしんば手がちょっと逸れて傷がついても、ハクがつくだけだろ。覚悟を決めろ小僧!」

 ザハークは、どこまで本気なのかわからないことを言って迫ってくる。

(これはいかん! 死ぬ!)

 シャーは本能的な恐怖を怯え、全速力で駆け出した。


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