表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これは物語ではない  作者: 山川 夜高
act.1 無人の公園
8/76

これは怪談ではない

66:K缶

R2、L1、R2、R2、↑、×、→、○、↓、△、

L2、R1、R2、L1、□、□、

START で、おk


67:†闇巫ノ騎士†(エーコ派)

サンクス

この機能知らんかったわ…スタッフもよく仕組んだよな


68:名無し(クイナ派)

今日のIXスレ


69:名無し(ブラネ派)

↑ちょwwwクイナ派www幸せアルよwwww


70:celesta

こんばんは。ご迷惑をおかけしました。

さっき、あの公園を訪ねてきました。


71:†闇巫ノ騎士†

celesta殿!無事であったか


72:celesta

>†闇巫ノ騎士†さん

はい、大丈夫です(o^-^o)


公園に悪霊はいませんでした。ここのスレ主は偽物でした。私は公園でスレ主に会いました。スレ主さんは深く反省していたようなので、もうここに来ることはないと思います。


そもそも公園に幽霊はいません。実は全部、近所の人のイタズラだそうです。私はその人にも会ってきました。その人はもうポタージュ様を止めると言いました。

近所にも迷惑だから、公園にポタージュ様を見に来るのも止めてほしい、と言っていました。

私はその人の代理に書き込みをしています。

みなさんに迷惑をかけてしまい、ごめんなさい。


私も、しばらく書き込みを控えます。


73:名無し

スレ主→ポタージュ様なりすまし

ポタージュ様→近所の住人によるなりすまし

二重なりすましって事?


74:†闇巫ノ騎士†

いや、前に公園行ったことがあるけど、確かに缶が浮いたりヒザカックンがあったりetc..

霊気も感じたし


75:匿名希望

>>74

五百円返せ


76:†闇巫ノ騎士†[mail]

>>75 除霊が終わっていないので返還しかねます


>>celesta殿

何かあったらいつでも1コインで除霊しますよ(^.^)


77:名無し(ダガー長髪派)

親父の500円返せ


78:名無し

celestaは女の子?



[あと22件書き込み可能]


  * * *


 深夜、交番の戸を叩いたのは一人の男であった。男はトレンチコートを羽織った“だけ”の出で立ちであり、前ボタンは全開である。息は切れ切れになり目には大粒の涙を浮かべ、だらりと鼻血を垂らした男は、必死の形相で戸を叩いていた。多重の意味で尋常でない気配を察した巡査・高田 敬司はすみやかに男を中に招いた。

「ごご、ごめんなざい、ごべんばざび……!」

 開口一番に鼻声の謝罪を受け、巡査はひどく困惑した。というよりもまず、目の遣り場に困ってしまった。

「……ひとまず前ボタンを閉めませんか?」

 ばび、と男は震える手でボタンを閉めた。椅子に掛けさせ、高田巡査は巡査長と共に聴取にのぞんだ。男はこう語った。


 たった今、駅近辺から×公園に至るまで、中高生と思われる少女をストーキングした。自分はネットの掲示板で少女と出会う約束をしていた。少女を公園に追い詰めてから、自分はコートを脱ぎ、少女に見せつけた。


 言い方は悪いが一般的なわいせつ罪、と巡査長は思った。しかし、男の次の発言――男はまたしても涙声になる――に、巡査長は顔をしかめる。


 更に自分は少女に強要しようとした。

 すると突然どこからか、何者かに腹を蹴飛ばされた。


「蹴飛ばされた? 女性に、ではなく」

 ぞうでず、と男は語る。


 確かにあの公園には、自分と少女以外居なかったはずだ。しかし自分が蹴られたあと、自分の目の前から男の声がした! 自分は少女を挑発する発言をした、その返答が男の声だったんです! そしてまたもう一発殴られました。でもどんなに辺りを見渡しても、男の姿はどこにも無い。男の声に自首を促され、その場に居るのも怖くなったから、出頭した。


 男は涙と鼻水を交えながら説明した。

「やっばり居だんでずよ、あぞごにはポダージュざまがぁ……」

 巡査長は訳が分からず高田に尋ねた。

「何だ? その……ナントカ様というのは」

「ネットで流れている都市伝説です。××公園にポタージュ様という悪霊がいるとか」

「ポタージュ様ぁ?」

馬鹿馬鹿しい。巡査長は疑いを抱いたままであるが、

「ほんどうに居だんでづよぉお!」

男は真っ青な顔で泣き付いた。この様子だと相当恐ろしい目に遭ったらしい。巡査長はため息をつき聴取を続けた。巡査長はこの手の怪談には全く興味の無い人間だった。反対に、超能力や都市伝説といったオカルトファンの高田巡査に、巡査長は少々呆れていた。


  * * *


 取調を終え男を帰し、巡査長と別れてから、高田は携帯電話を開いた。


 ――巡査長に「ポタージュ様」を訊かれた時はさすがに焦った。

 ――巡査長はオカルトに興味が無いからな。


 先程のポタージュ様の解説に、高田は肝心な点を濁していた。

 高田も、悪霊に遭遇した内の一人である。パトロールと称して公園に向かったことがあるのだが、まさか腰を抜かして逃げ帰ったなんて、巡査長には死んでも言えない。男の恐怖体験に高田は少なからず同情していた。

 高田は独自にポタージュ様の調査を行っていた。携帯でウェブに接続し、T市のBBSを見る。そして目当てのスレッドを発見した。高田は聴取の時から、心を逸らせていた。


 ――驚いた。まさか「悪霊」本人に会うとは……。


 今日の夕方、ハンドルネーム「celesta」は「悪霊」に対し、「会いに行きたい」と書き込んだ。その時は嘘かと思ったが、男の証言からすると、男とcelestaは本当に出会った。男は「本物のポタージュ様に会った(殴られた)」と発言しているのだから、現場にいたcelestaもポタージュ様を認知したはずだ。


 BBSにはついさっきにcelestaの発言があった。悪霊目当てであり、恐らくカルトファンのcelestaなら、詳しく書き込みをすることだろう。

 しかし高田の予想は大きく外れた。


 ――おかしい。

 ――なぜ嘘をついている?


 celestaは「悪霊」のわいせつ行為には一切触れなかった。それは彼女の羞恥であるから構わない。そうではない、彼女は


そもそも公園に幽霊はいません。実は全部、近所の人のイタズラ


だと言う。そんなはずは無いと高田は思う。あそこまで手の込んだイタズラがあるものだろうか? 「近所の人」とは誰なんだ? 男の証言には無かったものだ。

 「悪霊」に対峙した事のある高田は考える。イタズラのはずは無い。怪奇現象はみな、目の前で起こったのだ。これは尾びれの付いたありきたりの怪談ではない。celestaは怪談目当てに公園を訪れたはずだ。なぜ、素直に本物の「悪霊」に会った事を話さない?

 ふと高田は思う。


 ――celestaは、「ポタージュ様」と関わりがあるのか?


 根拠の無い思いつきだったが、自身の発想に高田の心は躍った。


 ――celestaは何者かを庇っている。それとも、口止めされている?


 しかしポタージュ様の正体が本当の悪霊なのか、「近所の人」の介入があったのかは分からない。分からないことだらけだ。それでも彼にとっては十分だった。掲示板の奴らは偽の悪霊とcelestaのやりとりも、celestaが嘘をついた事も知らないのだから。


 ――俺はきっと世の中の誰よりも、真相に近づいているんだ。


 暫くは自分だけの秘密にしていよう、と高田は決意した。下手に書き込みをしたら高田の素性が露見てしまう。

 幼い頃に夢見た名探偵や名刑事は、こういう心地だったのだろう。

 高鳴る胸を抑え、高田敬司は一言だけ返信を打った。


79:K缶

事件にならなくてなにより

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ