魔喇の里
数日後、里の復旧作業は他の者に任せて、
白生は一人、里外へ出ていた。
戦によって多くの仲間を失った為、
新たな仲間(戦力)を求めて旅だったのだ。
それからまた、数ヶ月の月日が流れ、白生が帰宅する。
「白生様が里外から戻られたぞ」
「白生様~」
数人の里の者が、帰宅した白生を向かい入れる。
「白生様!」
向こうから白生を呼ぶ声がする。
「…椿か?」
「はい。長旅お疲れ様でした」
「椿も、留守の間、苦労を掛けたね?」
「いえ、とんでもありません」
白生は里の中を見渡す。
そして、少し微笑んで言う。
「アリガトウ…お陰で大分、復旧したみたいね…」
「里の皆が頑張ったからです」
「そうね…」
白生は嬉しそうにそう言う。
「あの…」
椿は不思議な顔をする。
「…なに?」
「……その子は?」
「あぁ…」
椿が見つめた先には、
白生の服の裾をギュッっと掴んでいる、小さな女の子がいた。
「…雪の里で拾った」
「雪の里?…あの神魔の堺のですか!?」
白生は軽く頷いた。
魔喇の里のような例外もいくつかあるが、
神魔国の中には『神界』と『魔界』という、
二つの大きな土地がある。
『神界』には『神族』
『魔界』には『魔族』
とそれぞれ純粋な種族がその地を治めている。
その他にもいくつかも土地がある。
その中でも、これら二つの種族は、太古から敵対している。
神魔の堺とはそれ等の土地との境界線のこと。
「どうやら雪里も最近、戦で負けたらしい…」
「戦?…」
「…まぁ、一方的なものだった、みたいだけどね」
「それは魔族に?」
白生は頷く。
「元々、あそこの里はそんなに戦力の強い里ではなかったしね…」
「そうですか…ではこの子はその戦の…」
「生き残りよ」
「…名は?」
「璃鈴…最も、私が勝手に付けたんだけど…」
「ぇ?」
「相当ショックだったみたいね?戦の恐怖は覚えていても、
自分の名前も忘れるくらいにね…」
「…そうですか」
「今日から我里の一味として向い入れる」
「わかりました」
「この子は、この先この里の星となる…」
そう呟き、白生はリリンの頭をそっと撫でる。
数日後…
「白生様?」
「どうしたの?」
「それが、里の外に数人の女性群が来ており、
白生様にお会いしたいと…」
「女性群?」
「ええ。それで、
その内の一人が白生様に『奏森』と伝えれば分かると…」
「そう…」
白生は軽く笑みを浮かばせる。
『来たか』
「白生様?」
「それ等は、私の客だ。里内への入りを許可する。
今すぐここへお通しして?」
「わかりました」
そう言うと、椿は少し頭を下げ、女性群の元へ向かう。
‘コンコン’
「白生様、お連れしました」
「入って?」
「はい。失礼します」
‘ガチャッ’
ドアが開き、数人の女性群と椿が入ってくる。
そしてその内の一人が前に出る。
「お久しぶりです」
「奏森、良く来てくれた…今一度、お礼申し渡す」
白生がその女性に軽く礼をする。
「いえ、我々は貴女に忠誠を誓う者…お安いご用ですわ」
そう言うと女性は白生に深々とお辞儀をする。
「……アリガトウ」
「白生様…彼女等はいったい?…」
椿がそう聞くと、白生は少し嬉しそうに答えた。
「古い友人(同志)みたいなものよ」
それを聞き、女性が申し訳なさそうに答える。
「…いえ、そんな大層なものではございません」
「そんな悲しい事言わないでよ?」
「そんな…友人(同志)なんて、勿体無いお言葉ですわ」
女性は少し戸惑いながら言う。
「私にとって貴女は恩人であり、心の拠り所なんです」
女性は軽く微笑み、そう言った。
「それこそ、そんな大層なもんじゃない…」
「そんなことありませんよ?…しかし、数ヶ月前、
白生さんが、突然我里に訪れた時は、正直驚きました」
「ふふ」
白生は笑みを浮かばせる。
数ヶ月前。
白生はある里へ訪れていた。
それが、響の里。
この里は最近できた里で、里には女性しかいない。
白生がその里に入ろうとしたとき、
「止まりなさい!」
見張りの女が白生に声を掛ける。
白生は女の言う通り、その場へ止まる。
「許可なき者は里に入れるわけにはなりません。ご用件は?」
「この里の主に用がある」
「長に!?」
白生はそっと微笑みながら軽く頷いた。
「…何者だ!?」
「我名は月夜美白生。
主に『白生』が来たと伝えてほしい…そうすれば分かる…」
「…しばしお待ち下さい」
そう言って女は里内部へ白鳩便を送る。
しばらくすると、内部から連絡が来る。
「お待たせしました…長から里内への入国の許可が来ました」
「そう…」
「こちらへ…長の所にご案内します」
女は白生をある部屋へと案内する。
「ここでしばし、お待ち下さい」
そう言うと女はお辞儀をし、部屋を後にした。
そしてしばらくすると再び扉が開き、
響の里の領主が中へ入って行く。
「ご無沙汰しております。白生さん…」
女性は頭を下る。
そして笑みを浮かばせながら言う。
「以前お会いしてから、どれくらい経つのでしょうか?」
「…陽の里で会って以来だから、一年と少しか…」
「そうですか…まだあれから一年ほどしか経ってないのですね」
「この一年でここは見違えたね?以前、ここには何もなかった…
警備の指導や里の管理も良く出来ている」
「お陰さまで」
女性は軽く礼をする。
「陽と云えば…
この間の戦で白蛇は、あそこに負けたそうですね?…」
「…そうね……だけど…」
「?」
「まだ死んでない…」
「…」
「白蛇は負けた。先代も死んだ。
だけど、我里はまだ死んでない。…我々が生きている」
「風の噂で聞きました。
死んだはずの白蛇が息の根を吹き返したと…」
「今は白生さんが蛇の首を支えているのですか?」
「私じゃない。生き残った者皆でだ…」
「でもその上に立っているのはやはり貴女でしょ?」
「…建前上ではね」
「建前?」
「…」
「白生さん?」
「…正直不安なんだ。
あの人(先代)の上に立つのが…私にそんな力があるのか…」
「…」
「だから私は、ここに来た…奏森(響里)の力を貸してほしい…」
女性は少し笑う。
「?」
そして笑みを浮かばせ言う。
「私は貴女が里を支える力(要素)は、十分にあると思いますが?」
「奏森…」
「それでも、我手が必要ならば、
どうぞ、この手、貴女に差し上げえましょう」
白生は女性に頭を下げる。
「…アリガトウ」
「響の里との協力…」
椿が少し驚いたように言う。
「そうよ。今のままでは我々はいずれ滅びさる…そうなる前に、
出来る限りの手を打っときたい。里の為に…」
「白生様…」
「そう言えば自己紹介がまだでしたね?」
女性が椿に言う。
「私は、現在、響の里を統治しております。
奏森舞と申します。以後、お見知りおきを…」
「ご丁寧にどうも、白生様(この里)の補佐をしております。
水無月椿と云います」
「…お互いあいさつは終わったな?」
白生は立ち上がり言う。
「今こそ蛇が脱皮する時…
我里は響里と手を結び、今一度白蛇に息の根を吹き返す。
そして新たに、魔喇という一つの命(里)を生み出す!」
他の里に比べると戦力はまだまだがた劣るが、
此処に新たな里、『魔喇』が誕生する。