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校長からの呼びだし

「神林光くん。ちょっと校長室まで来なさい」

昼休み、全校放送に響き渡ったのは、いつもより三オクターブほど低い、地を這うような校長の声だった。

校長室の扉を開けると、そこには、普段の温厚そうなハゲ頭の校長からは想像もつかない、鋭い眼光を放ちながら「妻の写真」を愛おしそうに撫でている男がいた。

「……失礼します。校長先生、あの……」

「校長ではない。余だ、光よ」

校長(の中の魔王ガリウス)は、手に持っていた銀のフォトフレームを大事そうにデスクに置いた。そこには、ルナリエルによく似た、絶世の美女が微笑んでいる。

「見てみろ、光。余の最愛の妻、エレインだ。余は彼女と出会ってから六百年、ただの一度も他の女に目を向けたことはない。余の魂は、常に彼女だけのものだ」

「は、はあ……。素敵ですね(急にノロケが始まった……)」

「だが、貴様はどうだ!」

ドォォォォォン!! と校長デスクが叩き割られた。校長の体を使っているせいで、見た目はシュールだが圧力が凄まじい。

「ルナという婚約者がいながら、さっきの黒髪の女(瀬戸さん)に鼻の下を伸ばしおって! 貴様の態度は、愛妻家である余への冒涜だ! なぜ『ルナこそが我が命! 他の女など視界に入らん!』と一喝できんのだ!」

「いや、無茶言わないでくださいよ! 瀬戸さんはずっと好きだった人だし、ルナさんだって昨日会ったばかりで……どっちも大切っていうか、選べないっていうか……」

「それを貴様……『二股』と呼ぶのだぞ? 貴様は万死に値する不届き者だ。あぁ、エレイン……見ていてくれ、今すぐこの優柔不断な男を塵にしてくれる!」

校長の指先に、どす黒い魔力が集まり始める。

「待ってください、お父様!」

ガラッ! とドアが開き、ルナリエルが飛び込んできた。その後ろには、なぜかお盆を持った瀬戸さんも続いている。

「お父様、光様をいじめないで! 光様が迷うのは、それだけ私を……いえ、私たちを真剣に考えてくださっている証拠ですわ!」

「光くん! 私は……私は、光くんがどんな決断をしても、最後まで向き合うって決めたから! だから校長先生(?)、暴力を振るうのはやめてください!」

二人のヒロインに庇われ、さらに情けない格好になる光。

魔王(校長)は、ギリギリと歯噛みしながら指を下ろした。

「……フン。女たちに守られるとは、どこまでも情けない男よ。いいか光、余はヤキモチを焼いているのではない。貴様の『愛の純度』が、余に比べてあまりに低いことに腹を立てているのだ!」

魔王はそう言うと、再び妻の写真を見つめてフッと表情を緩ませた。

「……明日までに決めろ。さもなくば、余の『愛の鉄槌(物理)』がこの学校に降り注ぐと思え」

「あ、明日ぁ!? 無理ですよそんなの!」

「光様、大丈夫です。今夜、じっくりと私の良さを分からせて差し上げますわ……」

「光くん、放課後、空いてるかな? 私、ちゃんとお話したいの」

校長室を出る光の左右を、再び二人の美少女がガッチリとキープする。

背後からは、校長の皮を被った魔王の「妻への愛のポエム」が漏れ聞こえていた。

「(……神様、俺、ただ普通の恋がしたかっただけなんですけど……!)」

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