瀬戸 結衣とルナリエル
……光くん?」
教室の入り口で、その声が響いた。
透き通るような黒髪に、清楚な雰囲気。彼女こそが、俺が昨日、告白しようと決めていた相手――クラス委員長の**瀬戸 結衣**だった。
「あ、瀬戸さん……! おはよ……」
「昨日、放課後に屋上で待ってるって手紙くれたよね? 私、ずっと待ってたんだけど……光くん、来なかったから」
「あ……」
しまった。緊張のあまり場所を間違えただけでなく、本命をすっぽかして魔王城に殴り込みをかけていたのか、俺は!
気まずさに冷や汗が流れる。しかし、その時、俺の腕にグイッと強い力がこもった。
「光様。……こちらの、**『ただの人間』**の女性は、どなたですか?」
彼女は微笑んでいるが、その背後にはドス黒い魔力が渦巻き、教室の窓ガラスがビシビシと音を立てて震え始めている。
「あ、えっと、彼女はクラスメートの瀬戸さん。瀬戸さん、こちらは……その、親戚のルナさん」
「……親戚? 光くん、昨日あんなに必死な手紙を私にくれたのに、今日は別の女の子と腕を組んで登校するなんて……」
瀬戸さんの瞳が、少しだけ潤んでいるように見えた。
「最低だよ」と言わんばかりの視線。俺の心臓は別の意味で止まりそうだ。
「ほう。光様に文を……? 貴様、光様の何なのですか」
ルナが瀬戸さんの前に一歩踏み出す。
一触即発。魔王令嬢と委員長。
教室の温度が氷点下まで下がった気がした。
「……光くんとは、中学生の頃からずっと一緒でした。光くんの隣は、私の指定席だと思ってたんです。……あなたは? 昨日今日現れて、光くんの何を知ってるって言うの?」
「何を知っているか、ですって? ……私は、昨日、彼から命懸けの求婚を受けました。そして父(魔王)も、彼を我が家の婿として認め……」
「きゅ、求婚!? む、婿……!?」
瀬戸さんの顔が真っ赤になり、教室中の生徒が「神林、お前マジかよ!」という視線を突き刺してくる。
「光様。……はっきりさせてください」
ルナリエルが俺の右手を握り、グッと引き寄せる。
一方で、瀬戸さんも負けじと俺の左手の袖を掴んだ。
「光くん……昨日、私に言おうとしてたこと、まだ聞いてないよ」
「ひ、光様! 私との誓いを、この女の前で証明してくださるのでしょう!?」
「あ、あの、二人とも……腕が、腕が千切れる……!!」
究極の選択。
昨日まで片思いしていた清楚な委員長か。
昨日間違えて告白して、命懸けで連れ出してきた魔王令嬢か。
すると、教室の天井が突如として霧のように揺らぎ、聞き覚えのある野太い声が響き渡った。
『……光よ。今すぐその女(瀬戸)を仕留めろ。さもなくば、余が今すぐその学校ごと異次元に飛ばすぞ』
「お父様!? 授業参観には来ないでって言ったじゃないですか!」
「魔王様、学校まで来ちゃったの!?」
俺の平凡な恋の悩みは、どうやら世界滅亡の危機に直結してしまったらしい




