告白
「……はあ、はあ、……よし」
心臓の音がうるさい。耳の奥でドクンドクンと鐘のように鳴り響いている。
俺、**神林 光**は、今日この瞬間のために生きてきた。
目の前には、白く細い指先。
俯いているから顔は見えないが、その震える肩が彼女の緊張を物語っている。
(いくぞ、光。男なら、ビシッと決めろ!)
俺は勢いよく腰を折り、深々と頭を下げた。そして、震える右手を力一杯差し出す。
「お、俺と付き合ってください! 一生、君を大事にします!!」
……沈黙。
静寂が支配する。
なぜか周りが妙に寒々しい石造りの空間な気がするが、そんなの関係ない。
極度の緊張で視界が狭まっているだけだ。
たぶん。
「……えっ?」
鈴を転がすような、透き通った声。
「わ、私に……言っているのですか……?」
「君以外に誰がいるんだ! 返事、聞かせてくれ!」
すると、差し出した俺の右手に、ひんやりとした、でも柔らかい感触が重なった。
「うっ、……うう、ひっ……く……!」
顔を上げると、そこには絶世の美少女がいた。
紫がかった銀髪を揺らし、真紅の瞳に大粒の涙を溜めて、俺の手をぎゅっと握りしめている。
「嬉しい……。ずっと、ずっと……誰かが私をここから連れ出してくれるのを待っていました……!」
「よ、よかったぁ……! ……ん? ここから連れ出す?」
喜びで舞い上がっていた俺の脳が、ようやく周囲の状況をスキャンし始めた。
……おかしい。
ここは放課後の屋上のはずだ。なのに、なぜ窓の外に**「燃え盛る空」と「飛竜」**が見えるんだ?
「……あの、君。ここ、どこだっけ?」
「え?……何を仰っているのですか。ここは**魔王城、第四階層の『嘆きの聖域』**ですよ」
「……まおうじょう」
「はい。そして私は、魔王ガリウスが娘……魔王令嬢のルナリエルです」
ルナリエルと名乗った美少女は、恥ずかしそうに頬を染め、俺の腕にしがみついてきた。
「……え、じゃあ、俺は?」
「何をおぼけていらっしゃるのです。
あなたは、三日三晩かけて我が軍の精鋭一万をなぎ倒し、結界をぶち破ってここまで攻め込んできた……」
彼女は、畏怖と愛おしさが混ざった瞳で俺を見つめた。
「……恐るべき『人類最強の勇者』様ではありませんか」
「…………」
俺は、自分の手にある「告白用のラブレター」を見た。
いつの間にかそれは、眩い光を放つ**「聖剣」**に変わっていた。
「……ごめん、ちょっと帰っていいかな?」
「ダメです。一生大事にすると、今、契約なさいましたよね?」
背後の扉が轟音を立てて開き、身長3メートルはありそうな鎧の巨漢たちがゾロゾロと入ってくる。
「おのれ勇者ぁ! 我が君の御令嬢に何という破廉恥な真似をォ!」
「お父様、やめさせて! この方は私と添い遂げると言ってくださったの!」
どうやら俺の人生初の彼女は、人類最大の敵の娘だったらしい。
神林光、高校二年生。
青春を謳歌するはずが、魔界で婿入り修行が始まりそうです。




