第九話『金色の髪の令嬢』
緊張しながらもフリージアは街を歩く。歩きながら、周りの目線を確認するものの軽蔑の視線や憎悪の視線を向けてくる人間はいないことにフリージアは若干の安心を覚えた。さらにフリージアが街を歩いていると、美味しそうな焼き立てのパンの匂いがしてきた。最初からしていたものの、ここまで美味しそうなものは嗅いだことがない。香ばしい匂いがフリージアの鼻の中に入ってくる。
フリージアは若干の安心とここ数日間の疲労からお腹が空いてきたことに気づいた。フリージアは鞄の中に入っている硬貨を数える。若干の小銭はパンを買えるほどの余裕はあるほどの今後の道のりを考えれば、パンを買わずに温存することも考えるべきほどの額だ。フリージアはそのパンの匂いにひかれ、パン屋方へと足を運ぼうとした。
その瞬間、死の香りがした。
(!ネクロマンサー……?)
マールテンの時と同じようにネクロマンサーの香りがした。先ほどすれ違った人物だろうとフリージアは思ったが、パンに夢中になっていて気が付かなかった。慌てて後ろを振り返ったが、そのような人物は見当たらない。商人が多く人がごった返しているせいもあるのだろうとフリージアは思った。少しだけ足を早めて後ろの方へと戻ってみる。
(こっちにも、こっちにもいない……)
フリージアはその人物を完全に見失ったことを悟った。もっと緊張感を持っていればとフリージアは後悔の念に駆られた。その後、トボトボと先ほどの道を戻る。ネクロマンサーは他のネクロマンサーの居場所をもしかしたら知っているかもしれない。フリージアにとって終点となるサフランとアレントの力の後継者にあたるネクロマンサーたちに会うための重要な人物を見失ったのは惜しい。もしかしたら、アレントにも会ったことがあるかもしれないのだ。
(惜しいことをしてしまった……)
フリージアはひどく落ち込んだ。その哀愁漂う姿からなのか、ある一人の少女が声をかけてきた。
「ねえ、あなた、そんなにお金ないの?」
そう言って彼女はパン屋の方向を指さした。フリージアは落ち込んでいる間にいつの間にか先ほどのパン屋へときていたようだった。フリージアはその少女の存在に気が付かず、思わず体がはね、後退りをした。その少女はフリージアのその行動に口に手を当てて笑った。その少女は深めのフードをかぶっており、フリージアが最初にきていた上着を彷彿とさせるようだった。フリージアは困惑の表情を浮かべて彼女に尋ねた。
「……あの、あなたは……?」
そう言うと、その少女はまた笑って、
「通りすがりのただの世話焼きよ。」
と言った。そしてフリージアの手を引いて、パン屋の方へと足を運ぶ。その行動にフリージアは驚いて、思わず足に力を込め、その少女を止めようとした。しかし、少女は面白がって、負けじとフリージアの手を引っ張った。その力が思ったよりも強く、フリージアはその力に負けそうになり手袋が取れそうになったので、大人しくその少女についていくことにした。
その行動に少女は驚いたかのようにフリージアを見た。
「えー、もう諦めちゃったの?」
そう言って少女はクスクスと笑い、パン屋の方へとフリージアを引っ張っていった。
パン屋に入るとリンリンとドアベルが鳴った。パン屋では見たことのないようなパンが多数並んでおり、シナモンやナツメグなどの香辛料がたくさん入ったパンもあり、多数のパンにフリージアは目を輝かせた。その様子にその少女はクスクスとまた笑った。その少女はフリージアを何やら珍しいおもちゃでも見ているように見ていたのであった。
「いらっしゃい!お客さん!」
店主の大柄の男がフリージアとその少女に声をかける。その少女は
「ご機嫌よう。調子はいいかしら?」
と男に声をかけた。その男は少し驚いた顔をした後にこういった。
「おや、ボスマン家のご令嬢!今日も家から抜け出してきたのかい?」
と男はいつものことだとでも言うように呆れたように声をかけた。そこでその少女はようやくフードを外す。フードの下から、その少女の綺麗な黄金の髪の毛と綺麗な緑色の瞳が顕になる。
「そうよ!今日は家の人たちが起きる前に逃げ出してきたの!すごいでしょ!」
とその少女は目を輝かせていった。
「全く、お転婆なお嬢ちゃんだ。今日はお友達も一緒なのかい?」
するとその少女はフリージアの手を引っ張って、自慢でもするかのように顔に満面の笑みを浮かべながら言った。
「そうなの!今日はいつもよりもいっぱい買うわ!」
フリージアは突然の声にかけられ、びっくりする。フリージアはあまり話すとネクロマンサーであることがバレるのではないかと思い、あまり話そうとはしなかった。その様子にその男は少し首を傾げ、少女に声をかける。
「そうかい、それでお友達は?名前はなんって言うんだい?」
「名前?そういえば聞いてなかったわ!」
「本当に友達なのかい?」
その様子をフリージアは驚いたように眺めていた。その少女とは先ほどばったりと会っただけで友達ではないし、名前を知らない友達がいるのだろうかと疑問に思っていた。しかし、フリージア自身は社会に疎いため、そういうものなのかもしれないと思っていた。
「ねえねえ、お名前は?」
「フリージアです。」
と答えると、その少女は笑顔でこう言った。
「綺麗な名前!私の名前はカタリーナ!ニーナって呼んで!」
「でも、ご令嬢なんじゃ……?」
「いいでしょ!」
有無も言わせぬその姿勢にフリージアは思わずうなづいた。




