表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネクロマンサー〜手紙が紡ぐ旅路〜  作者: 西瓜すいか
第三章 忘れて〜死者の丘より〜
33/33

第三十三話『溢れ出す感情』

(認めたくない)


フリージアはそんな思いが頭をよぎるが、彼女が嘘をつく理由も見当たらなかった。フリージアは固く口を閉ざした。アレントが自身のために人を殺していたら、そのようなことは考えたくも、聞きたくもない仮説であった。


そのような状態のフリージアに彼女は首を傾げながら聞いた。


「あなたが、傷つかなかったのであれば、よかったと思います。彼は本当は優しかったのですね。」


その言葉にさらにフリージアの心はナイフで抉られたかのようにひどく傷んだ。


 しばらくフリージアは黙り込んでいたが、そのような長いという時間感覚も彼女にはないのか、彼女は墓の前でしばらく、指で墓石をなぞっていた。太陽が西へと傾き始める。そして、空がオレンジ色に染まり始めた。彼女は言った。


「私がここにいるのには理由があるのです。」


それは彼女なりの心遣いだったのだろうか。フリージアはその言葉に少し沈黙を貫いたあと、


「……理由ですか?」


と彼女に尋ねた。


「ええ、理由です。私が死者の丘にいる理由。」


「……理由があるんですか?」


「もちろん。」


彼女がフリージアの顔を見つめる。フリージアは暗い顔をしていたが、彼女の目線に引っ張られ、彼女の顔を見た。


「少し、語りましょうか。」


彼女はそう言い、死者の丘の一番上にあるベンチのようなところでフリージアと横並びに座りながら話し始めた。


「私がまだあなたほどの頃。私はネクロマンシーは人を助ける力になると信じていました。


最初は置いて行かれた妻を悲しませないためにと、ある病にかかった男性からの話を聞きました。私はそのことを了承し、その男性の葬儀の後、男性の記憶を残らず生者から切り捨てたのです。周りの人々が、特に妻と言われた人が悲しんでいないのを見て、私は良いことをしたと思ったのです。


その後も、同じような悩みを抱えた重症の病の方に話を聞き、ネクロマンシーを使い続けました。でも、それも長くは続きませんでした。ある貴族からの依頼で私は大きな転換点を迎えることになるのです。」


フリージアはその話を地面を見つめながら聞いていた。記憶を消すことは悲しみを消すこと。そのことは理解できるとフリージアは思ったが、悲しみを忘れるよりもアレントの記憶を忘れたくないという気持ちは強かった。


「貴族は私にある死者の記憶を他の人々から消してほしいと言いました。なんの事情も聞かず、私はうなづきました。しかし、その死者の方は、貴族のただの無謀な賭けに使われただけの人形として扱われていた人であったと後にわかったのです。


貴族もその記憶を忘れるわけですから、私がネクロマンサーだとわかると、すぐに屋敷から追い出しました。私はしてはいけないことをしてしまったように感じました。私は貴族の人々に利用されるために生まれていたわけではないと。」


フリージアは、カタリーナのことを思い出す。しかし、それを貴族に利用されたというのは疑問であったが、ネクロマンシーでカタリーナの兄を蘇らせた時の反応が何よりもフリージアがネクロマンサーであるという事実を物語っているようであった。


「その後、貴族に力をどんどんと買われていき、徐々に私は人が私たちとは違うのではないかと思うようになったのです。魔女狩りにあったときにその気持ちが憎しみへと変わりました。他の魔女と呼ばれた方々は死にました。しかし、私だけが死ななかったのです。それがひどく許せなかった。」


彼女がまた感情が湧き出るように言った。


「あの火の中!私だけが死ななかった!……ずっと火で皮膚を焼かれた苦しみから解放させることはなかったのにも関わらず、彼らは簡単に死ねるのだと。……とても羨ましく思いました。


私はだからここを選んだのです。人々はここを死者を弔う場だと言いました。私とは死者を介しての接触しかありません。人々の記憶からも完全に忘れられ、私は命を削ることができるのです。……素晴らしいことだと思いませんか?」


フリージアはその問いかけに、俯きながら頷いた。


 夜が近づいてくる。フリージアと彼女は丘を降り、教会の方へと戻った。


「今日は、あなたと会えてよかった。嬉しくて、たくさん話してしまいました。」


フリージアはその問いかけに笑顔を作り、微笑んだ。


「また、会えたら。」


そう言って手を振る彼女を見て、フリージアは言った。


「最後に一つだけ、いいですか……?」


「ええ。」


「名前はいらないんですか?……何か、花の名前とか、あなたにぴったりの名前、」


「いらないですよ。」


フリージアはその問いかけへの反応速度にひどく驚いた。彼女は、


「私に名前は不要です。ネクロマンサーだけで事足りますし、名前があれば、簡単に覚えられてしまいます。フリージア。あなたのように。」


と言った。フリージアはその言葉に


「わかりました。」


と返したあと、アルトとレオポルトと共に泊まっていた宿の方へと月明かりに照らされた道を頼りに戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ