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ネクロマンサー〜手紙が紡ぐ旅路〜  作者: 西瓜すいか
第三章 忘れて〜死者の丘より〜
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第三十二話『信じたくない』

 一瞬彼女の感情の起伏が途切れた後、フリージアに声をかけた。


「あなたも、アレントというネクロマンサーを知っているのですね。」


「はい。私の育ての親のようなもので……。」


「……そうですか。」


突然話しかけられたことに驚くが、彼女がアレントの話を始めたことにさらに驚き、目を見開く。フリージアは彼女の話をアレントから聞いたことはなかった。他のネクロマンサーについても話すことはなかったが。


「……彼は元気ですか?」


そのことにフリージアはどのように答えるべきか悩んだ。彼女が死にたいという欲望があることを知った以上、彼女にネクロマンサーであるアレントが死んだことを告げるのはどうしたものかと思い、視線を下に向ける。しかし、そのことに彼女は気づいたのか、彼女はフリージアの意図を読むように言った。


「……死んだのですか。」


「……はい。」


彼女は言葉をつぐんだ。そして、フリージアに対して質問をした。


「彼は、いったい幾つで死んだんですか。」


「えっと……八百歳と聞いてます。」


「八百歳、早いですね。」


「早いですか……?」


「ええ、ネクロマンシーを使っていたネクロマンサーであれば、普通ぐらいかもしれませんが。」


そう言い、彼女は教会の正面から離れ、歩き始めた。何を意図しているのか、フリージアには分からなかったが、彼女の後をついて行った。


死者の丘と言われるほどの規模である。たくさんの墓場が緩やかな丘の上に数多く並んでる。一度に全ての墓場を見ることは不可能だと思われた。それぞれの墓場には別の名前が記されており、存在した人々の痕跡が感じられた。フリージアはその道の真ん中をいく彼女の後を置いていかれないようについて行った。


ある墓の前で彼女は止まり、それに呼応するようにフリージアも歩みを止める。


「……ここの人の弔いをし、記憶を消した後、彼が来ました。」


そう言って、彼女は黒のレースの手袋を外し、エミール・ボダンと書かれた石碑を指でなぞった。石碑から記憶を呼び起こしているようにも見られ、彼女のネクロマンサーの証である魔法陣もそれに反応し、赤黒く光っていた。


「彼は、私に言いました。”死者の嘆きが聞こえる”と。」


「嘆き……?」


「ええ、生者に忘れられたことを死者は恨んでいると。ひどく怒った顔で私に言いました。」


フリージアは、アレントの知らない一面を知ったような気がして、表情を曇らせる。アレントが怒る時といえば、フリージアが熱い鍋を素手で触ろうとした時や一人で手袋もせずに市場に行こうとしていた時である。フリージアのネクロマンシーをひどく毛嫌いすることなどなかった。それは他のネクロマンサーにも同じであると思っていた。


彼女のネクロマンシーは望んで手に入れたものでもなく、変えることもできない。フリージアはアレントの怒った理由が分からなかった。


フリージアは彼女に言った。


「アレントさんは、怒ったのには他の理由があるのでは……?」


その問いかけに彼女はフリージアの方を目を伏しながら見て言った。


「まさか、彼は死者の、幽霊の味方ですから。私のことを嫌うのは当然のこと。」


「でも、あなたのネクロマンシーは変えれるものではないはず……!」


「その通りですよ。フリージア。あなたは本当に優しい。純粋無垢なのですね。」


そう言って彼女はフリージアの頬を撫でた。フリージアはこの時初めて彼女としっかりと目が合ったような気がした。フリージアは彼女の頭を撫でると、彼女は一瞬驚いた表情をした後、とても綺麗に微笑んだ。


「本当に、アレントが育ての親なのですか?」


「そうですよ……?」


「アレントというネクロマンサーはよく、幽霊の呪いのような力を使い人を殺していましたから。」


「……え?」


同じ人物と思えなかった。少なくともフリージアの知っているアレントはそのようなことをする人物ではない。人を殺すことをするような人物ではないのだ。フリージアは信じたくないが、彼女が今そのような嘘をつく理由も思い浮かばなかった。


「……本当ですか?」


「……ええ、そうですよ。……ああ、そういうことですか。あなたの前では、殺すことをしなかったのですね。」


そう言って、フリージアの方を見た。


「すぐに殺すネクロマンサーでしたよ。彼は。……特に私たちネクロマンサーに危害を加えようとする人々には。」


そう言ってフリージアはあることを思い出した。猟師がフリージアを襲った時、あの後、猟師が再び矢を放つことはなかった。あの時、力の制御が全くできなかった時、自身のネクロマンシーで殺してしまったと思っていたあの猟師たちをもしかしたら、アレントが殺していたかもしれない。


今から考えてみれば、あの家が人に見つからず、平穏を保てながら過ごせていたのも、アレントのおかげであったとするならば、彼女の言っていることが正しいようにも感じられた。


しかし、まだ信じられない。アレントはよく人を殺す人物だったのだろうか。フリージアは少し微笑みを浮かべる彼女とは裏腹に苦しそうな表情を浮かべていた。

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