第三十話『シスター』
フリージアはその後一睡もすることができず、朝を迎えた。アルトの思い詰めた様子を思い、フリージアはアルトの寝ている部屋へと向かった。
部屋の扉をこっそりと開け、アルトの寝ているベッドへと足を運ぶ。アルトの寝顔を上から覗きこんだが、アルトは眉を顰めながら苦しそうな顔をしていた。アルトの右手は何かにしがみつくように布団を握りしめていた。
(アルトさん、苦しそう……やっぱり話さないと。)
フリージア思い悩んでいると、アルトが目を覚ました。目をこすりながら、アルトが目を開けるので、フリージアはアルトの顔を覗き込みながら、
「おはようございます……。」
と言うと、アルトは少し間隔を空けてから、フリージアの顔を一瞬見た後、
「……おはようっす。」
と挨拶を返した。フリージアはアルトの顔を見て、酷いクマに気づいた。
「大丈夫ですか……?」
フリージアが声をかけると昨日のことを思い出したように目を伏せ、眉を顰めた。
「……大丈夫っすよ。……いや、やっぱり聞いて、くれませんか。」
フリージアの手を恐る恐るアルトは掴み、フリージアに言った。やはり、ノアの友人であると言う、レオポルトには言いにくいのだろう。フリージアはもしかしたら、真実を話すチャンスなのではないかと思い、
「もちろんです。」
と言って、アルトの手を強く握りしめ、うなづいた。そのことにアルトは目を見開く。
「じゃあ、」
「アルト!大丈夫かい?」
アルトが話しかけようとしたところでレオポルトが扉を入ってきた。そのことに驚いたアルトとフリージアは手を離し、アルトは完全に口をつぐんでしまった。フリージアもアルトに話す機会を完全に失ってしまった。
「この後、すぐに弔おうと思っているんだ。二人とも祈ってくれるかい?」
「もちろん。」
「もちろんです。」
フリージアもアルトもうなづいた。二人とも顔を合わせ、見つめあったが、話すことのできないまま、結局、教会まで来てしまった。
二つの棺が置かれ、思った以上に人が来ていたことに驚いた。最初から弔う予定で会った人々の友人たちであるとレオポルトは言った。
「友人たちに手紙を出したのさ。来てくれるとは思ってもいなかったけれどねえ。」
そう言って、レオポルトは棺を撫でた。その様子に弔いにきた人々は、
「水臭いことを言うねえ。」
「来るに決まっているじゃないか。」
とレオポルトに言った。ノアのことは事前に話していたのだろうか。誰ももう一つの棺に入っているノアのことについて触れることはしなかった。フリージアは
(きっと、アルトさんへの配慮なんだろう。)
と思っていたが、同時にフリージアも少し配慮されているようにも感じられた。
教会には大きなステンドグラスが太陽の光を見事に取り込み、床に大きな模様を描いている。その中央にいる人物にフリージアはひどく心が揺さぶられた。まるで司教、どちらかといえばシスターのような格好をしているが、服は全て黒く大きなベールをかぶっていた。ベールの縁が花のレースになっており、上品さが目立つ。顔がよく見えないが、少しベールからはみ出している顔の顎や鼻先から美人であることが伺える。
「シスターがいるのですか……?」
他の人々も動揺しているようであった。そのシスターは言った。とてもか細い声であったが、聞く人々全ての耳に届くような不思議な声であった。
「死者を弔い、この地から安らぎを与へましょう。」
その言葉に他の人々は棺をシスターの前へと担ぎ出した。誰も指示をしていないにも関わらず、それが当たり前かのように皆で協力し、棺を担いだ。アルトも同じであった。ノアの棺を担いでいる。
「それでは、皆で祈りましょう。」
そうシスターが言い放つと、人々は皆、棺に向かい手を合わせ、目を閉じた。フリージアも同様にそのようにしたが、周りの様子が変であることに気づく。ある程度の時間が経ったのち、皆何も言わずに教会の席を立ったかと思うと、皆教会の外の扉へと向かっていった。
フリージアだけがそこに取り残される。
まるで操り人形にでもなったかのような人々を横目で見ていた。
「ネクロマンサー、ですよね。」
フリージアが声をかけると、そのシスターはフリージアの方を見た。その目は何かを探し求めているような目であった。パールのように白く輝く目がフリージアに向いた。
ネクロマンサーであることは最初からフリージアは気づいていた。そのネクロマンサーも驚くことをしなかった。
「ええ、私もネクロマンサーです。」
感情に起伏が見られない声でそのネクロマンサーは言った。




