第二十三話『別れの挨拶と手紙』
フリージアが目を覚ますと、目の前にツバキの顔があった。フリージアは内心焦りながら、体を急いで起こす。しかし、ツバキは目覚めることなく、静かに眠っている。
(昨日、あんなことがあったのに、普通に寝れた……。)
フリージアはベットから床に足をつけ、立ち上がる。床の冷たい感覚がフリージアの足裏を刺激する。フリージアはその感覚に体を震わせながらも、窓の方へと足を運ぶ。カーテンを開けると、日光が差し込み、部屋の埃の存在を露わにする。フリージアはさらに窓を開ける。そして窓の外を眺めた。鳥が囀りしながら、木に仲良く二羽でとまっていた。フリージアはその光景をぼんやりと眺めながら、昨日のことを思い出した。
(……私は、蘇生したこと、なんとも思ってない?)
フリージアは確かにカタリーナの兄を蘇生したはずだが、実感がないように感じられた。窓の外の景色を見ながら平和だと思うほどであった。
ツバキの方を見ると、穏やかな顔で眠っている。フリージアはツバキの頬に手を当てた。昨日、ツバキがフリージアにしたのと同じように。ツバキの肌に触れても温かさを感じなかった。
(温かさって分けてもらうものなのかな?)
ツバキの肌はまるで血管が通っていないのではないかと感じられるほどであった。ツバキの頬をしばらく触っていると、ツバキの手がフリージアの腕をとらえた。
「寝込みを襲うなんてねぇ。」
ツバキはニヤニヤと笑いながらフリージアを見つめて言う。
「……おそ!襲ってはないです。」
フリージアは咄嗟に否定する。ツバキはフリージアの腕をとらえたまま、ゆっくりと琥珀色に輝く目を開けた。太陽の光に照らされ、昨日に比べてさらに輝きを増している。ツバキはゆっくりと体を起こし、フリージアに、
「おはよう。朝見る君は、太陽に照らされてさらに美しさが増すね。」
ツバキがフリージアの髪を触り、太陽の光に照らすとフリージアの髪は宝石が散りばめられているかのように輝いていた。その眩しさにツバキは目を細める。フリージアはツバキのことを眺めていると、ツバキは
「考えてくれた?旅についてくるってこと。」
と聞いた。フリージアはツバキの目を見て言った。
「私は、ツバキさんにはついて来ません。」
その言葉を聞いて、ツバキは少し驚いた後、目を伏せて
「そう、じゃあ、しょうがないね。」
と言った。思った以上に早く受け入れられたことに、フリージアは驚いた。ツバキはベットの布団を大雑把にどかし、ベットから立った。フリージアは何かさせるのではないかと若干警戒するが、ツバキは予想を上回る発言をする。
「君は、ネクロマンサーを探しているのかい?」
「はい、まあ。」
その質問の意図が分からず、フリージアは困惑する。ツバキは、
「じゃあ、船で島まで渡るのかい?」
「……島まで?」
フリージアはさらに困惑するが、昨日のツバキの教えてくれたことを思い出した。
(海の向こうに確実に一人、ネクロマンサーがいる。)
フリージアは
「そうなると思います。」
とツバキに返した。すると、ツバキは自身の鞄から便箋を取り出した。そして、備え付けてある机に座り、そこに置いてあった羽ペンを手に取った。そして、ツバキは何かを書きながら言った。
「じゃあ、この人たちに船に乗せてもらうといいよ。」
「この人?」
「今、書いている人のこと。」
ツバキは手紙を書きながら、フリージアの疑問に答える。そして、簡単に三行ぐらい書いたところで封筒に入れ、ツバキはフリージアに手渡した。
「この人たちは絶対にネクロマンサーの味方なんだよ。ここからさらに北西に進んで、ベル・シュメールという港町がある。そこの人に声をかけて、この手紙に書かれているものを知っているかと尋ねるんだ。もし、知っていると答えたら、その人に『ツバキ』という人物からと言ってくれ。絶対にわかるから。君の船の旅路をサポートしてくれる。」
ツバキはそういったことにフリージアは若干の違和感を持つ。
「人が助けてくれるんですか……?」
「ああ、そうだ。俺たちは神が作った存在。だから、俺たちを信仰する者がいる。だたそれだけの話だよ。」
そこまで聞いて、フリージアはカタリーナの懇願した時のことを思い出した。
(確かに、ニーナは私を神のように見ていた。)
ツバキはそのフリージアの考える様子をじっと眺めていた。
「本当にありがとうございました。」
フリージアは宿の前で頭を下げる。ツバキはそのことに微笑みながら、
「いいんだよ。別に、綺麗な人物に出会えたしね。」
と答えた。そして、ツバキはフリージアに紙袋を手渡した。フリージアはその行動に困惑していると、ツバキはニヤリと笑って言った。
「これは極東のお土産だと思って。って言っても、そこら辺の商人から買い付けたやつなんだけどね。」
ツバキはさらに言った。
「じゃあ、また会えたら、今度はまた旅に一緒に出ることを考えてくれよ。」
そう言って、ツバキは手を振りながら去っていった。フリージアは、そこに置いてかれたような感覚に苛まれながらも、
(一緒に旅はしないと決めたはずなのに……。)
と心の中に残っていた。フリージアはツバキからもらった紙袋をあける。そこには綺麗な金色の花の金属加工されたものがついた長めの棒があった。フリージアはそれを天に掲げるように、太陽に照らす。太陽に照らされたそれをフリージアは眺めて、
「綺麗……。」
と呟いた。極東ではそれをかんざしということを知らないフリージアは、その贈り物をそっとバックの中にしまった。そして、中心に位置するカタリーナの住んでいる屋敷を見たが、カタリーナの姿は見えなそうだった。
(最後に挨拶をしようと思ったけど……。)
あんなふうに追い出されてしまったため、フリージアは裏の穴から侵入しようとは思わなかった。フリージアはこの街から出るために石門の方へと向かった。次の目的地はツバキの手紙に記された人物のいる場所、ベル・シュメールである。




