第二十話『宝石のように』
ツバキはフリージアが先ほど、「もう空きがなくて。……申し訳ありません。」と断られた宿に泊まっていたようで、フリージアはツバキに
「さっき、空きがないって言われて……。」
というと、何を心配しているのか分からないという顔をして、フリージアに
「本当?じゃあ、俺の部屋に泊まればいいよ。」
とあっけらかんと言った。その言葉にフリージアは、さらに安心感を覚えた。フリージアはツバキの後について行き、宿の中へと入った。先ほどの受付の女性はツバキを見るや否や、
「おかえりなさいませ!」
と先ほどフリージアに冷たく言い放ったのが嘘のように、とても笑顔でツバキの方を見ていった。しかし、後ろにいるフリージアを見るなり。笑顔が消えた。フリージアは軽くその女性に睨まれ、そしてツバキに苦笑いで声をかける。
「この子、さっきも泊まりたいと言ってきたのです。あなたに釣られて、こちらに来てしまったんでしょうか。……早く追い出してしまって構わないので、」
とその受付の女性はフリージアが目障りであると軽く見下しているように、ツバキに同意を求めるように言った。フリージアはツバキの優しさに釣られてついてきてしまったことは事実であったので、しょうがないと割り切り、ここを離れようと思い、ツバキに声をかけようとしたが、ツバキがその女性に反論した。
「この子は俺が連れてきたの。……一緒の部屋に泊まるために。いいでしょ?」
「えっ?その、嘘、だって、そんな子よりも、私の方が綺麗、」
「それはないね。それにお前が綺麗だろうが関係なしに、部屋に入れないけど。」
「そんな、だって、」
「じゃあね。」
その女性はフリージアの方を見て恨めしそうにしていた。ツバキはそんなことお構いなしに、フリージアに
「行くよ。」
と声をかける。フリージアはなるべくその女性を見ないようにして、ツバキの元へと駆け寄った。
ツバキの部屋は大きなベットが中央に置かれており、簡単なクローゼットがついている質素な部屋であった。古めの木でできた椅子にツバキは自身の上着を引っ掛ける。フリージアが上着を脱ぐと、ツバキは、
「貸して。」
と言って、フリージアの上着に手を差し伸べた。
「は、はい!」
と言って、フリージアがツバキに上着を渡すと、ツバキはクローゼットをあけ、その中に入っていたハンガーに上着を丁寧にかけた。ツバキは椅子に深く腰をかけて座り、フリージアに
「椅子、一つしかないから、ベットにでも腰掛けてよ。」
と言った。フリージアはその言葉の通りにベットに腰をかける。ベットは思ったよりも柔らかく、フリージアは座ると予想よりもはるかに深くに自身の体が沈んでしまったため、フリージアは驚いた。そのことにツバキは大きな声を出して笑った。
「大丈夫?」
「大丈夫です……。」
「そう。」
ツバキはさらにフリージアに向かっていった。
「さっき見たいのは困るよね。顔が綺麗だからって、言い寄られるんだよね。一夜の関係を持てると思ってたみたい。」
ツバキはクスクスと笑う。そしてフリージアの方を見ていった。
「フリージアはさっきのやつとは違って、顔が綺麗だね。」
ツバキは椅子を立ち、フリージアの方へと近づく。フリージアの座っているところの近くに手を下ろし、フリージアの顎をもう一方の手で優しく触れた。冷たい感覚がフリージアの頬へと伝わってきた。フリージアはその動作に困惑する。しかし、ツバキはそのことなどお構いなしに、頬の方へと手を移動する。
「本当に綺麗だ。目に宝石を宿しているみたいだ。それに髪まで綺麗。」
そうして、ツバキは髪を丁寧に触る。フリージアの銀色の髪はまるでシルクのような感触であった。フリージアはその行為に身を任せながら、ツバキの顔を見た。ツバキに顔を好き勝手触らせているにも関わらず、フリージアの心は酷く落ち着いていた。
「君の目、本当に綺麗だ。コレクションにしたい。……でも君の目を生かせるだけの器はなさそうだ。それにネクロマンサー同士での殺し合いはできないからね。……ああ、残念だ。」
ツバキはそう言った。ネクロマンサーは死体による能力の行使に限られる。ツバキがそう言ったことにフリージアは震える。
「冗談だよ。」
と笑いながら、ツバキはフリージアの髪を触った。
なぜかは分からないが、フリージアは先ほど言われたことよりも目の前にあるツバキの顔が気になって仕方なかった。ツバキは漆黒の髪をしており、その髪は暗闇では見えなくなりそうであった。ツバキの目は黒色の瞳孔をしており、遠くから見れば、目全体が黒色に思ったが、
「琥珀みたい……。」
フリージアはそう言った。ツバキの虹彩は茶色のようにも黄色のようにも思える不思議な色だとフリージアは感じていた。その言葉にツバキは驚いたように目を見開いた。ツバキはそして言った。
「目が欲しいって言った相手に度胸あるよね。黒曜石だと言われることはあるんだけど……。」
「そうなんですか?……ツバキさんも顔が綺麗ですね。」
「そりゃね。ネクロマンサーだから、神に作られたからね。」
ツバキはそのように言った。ツバキはここら辺では見ない顔であるだろうとフリージアは思った。少なくとも今まで寄った都市の中でツバキのように黒い髪で琥珀の瞳を宿した人間は今まで見たことがない。さらに、一般的に東洋に思われるミステリアスさも放っていた。
ツバキは、
「本題なんだけど、」
と言って、フリージアから離れ、先ほどの椅子に腰をかける。
「あの、腕を取ったのは君かい?」
その言葉にフリージアは一瞬体がピクッと動く。見ていたのだろうかという不安からフリージアは全身から汗が流れ出るかのように緊張した。その緊張を感じ取ってかツバキは言葉を続ける。
「別に、怒ってるとかじゃなくて、事実かどうかだけ。」
「……そうです。あの、ごめんさなさい。」
フリージアは素直にそういうと、ツバキは笑って言った。
「別に謝らなくていいって。それに、あれは失敗作だったから。なかなかうまくいかないね。首がうまく繋げられなくってさ。どうしようかなって思って放っておいただけだから。」
ツバキは特に何事もなさそうに言った。
「ただ、どうして腕取ったのかなと思って、再利用しようと思ってたんだけど……。」
「あの、えっと、実は、私のネクロマンシーが死者を蘇らせることで、その、腕がないと腕がないまま蘇生することになるので……。」
「へえ、誰かからお願いされたの?」
「その死体の妹さんから……。」
フリージアはそう言って、ツバキの顔色を伺った。特に怒っていないと言っていたが、不安だったのだ。フリージアは断罪の時を待つかのようにツバキの方をじっと見つめた。




