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ネクロマンサー〜手紙が紡ぐ旅路〜  作者: 西瓜すいか
序章 旅立ちへ〜暖炉の家より〜
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第二話『旅立ち』

アレントが死んだ。


その事実はフリージアの心に深く響き渡っていた。そろそろ死ぬと分かってはいたものの、フリージアは急にはその事実を受け入れることができなかった。結局、アレントは全てのネクロマンサーに手紙を残すことはできなかった。明日の朝に手紙の続きを書くと言って、フリージアにおやすみを言い、就寝した後、朝になっても目を覚まさなかった。


フリージアは朝ごはんを二人前作り、アレントを起こしに行った時にはすでに死んでいたのだ。いくら扉の外から「ご飯できたよ〜。」と声をかけても返事が返ってくることがなかった。いつもであれば、「…ちょっと待ってねぇ。」と掠れた声で返事をするものである。


嫌な予感がフリージアの頭によぎった。しかし、そんなことはないと思い、扉を開け、中に入る。


「アレントさん!」


いくら声をかけても、目を覚まさないアレントを見て、深い眠りについているだけだと思い込みたかったが、呼吸の音が聞こえなかった。魂の形も見ることができなかった。


フリージアの能力は空に飛んでいってしまう魂を再び、所有者の体に入れることができるものだが、ネクロマンサー相手には通用しないのだろうか。いくら手の甲に書かれている魔法陣に力をこめても、拳銃に力を込めても、魂を捉えることはできなかった。


(こんなに呆気なく死んでしまうなんて)


フリージアはしばらく、後悔、悲しさ、怒り、苦しさ、など様々なものが頭の中でぐるぐると回っているのを感じながら、そこに呆然と立っていた。この出来事はもしや幻で、リビングにいつものように起きたアレントがいるのではないかと思い、リビングの方に向かったが、すでに冷めてしまった二人前の朝食と食器、書きかけの手紙があり、そして暖炉の火がパチパチと燃えているだけだった。


(生き返って)


そう願ってもアレントはすでに冷え切っており、再びその体温を感じることはできなかった。アレントが自身の生前に用意していた木製の棺の存在を思い出す。人々は人の死体を木製の棺の中に入れ、それを土の中に埋めることで死者が自然に還ることを願うのだという。アレントが生前死んでも悲しまないで欲しいと言っていたことを思い出し、フリージアは棺を探した。


家から出て、小さな小屋の中に、人一人が入れるであろう棺を見つけた。その棺をフリージアは力を込めて外へと引きづり出す。そして、アレントの死体をゆっくりと外へと引きづりだす。体温がなくても、重い。その体に若干の苛立ちを覚えながらも、フリージアは丁寧に棺の中へと入れた。


(なんて穏やかな表情をしているのだろう)


とフリージアは思った。


 あとは埋める場所である。


(この木は確か……。)


フリージアがたどり着いたのは、オリーブの木の下だった。オリーブの木はフリージアがここにくる前から存在していた木で、つまり、100年は生きていることになる。オリーブの木はずっと長いこと生きるという話を聞いたことがあったフリージアはこの木の下に埋めることを決意した。自身がこれから先ずっと長い間生きていたとしても、戻って来れるようにするためである。


小屋から大きなスコップを取り出し、オリーブの木の下を掘り進める。木の根っこが邪魔をして、なかなか掘る場所が決まらなかったが、オリーブの木の中心からは少し離れるものの、オリーブの葉の木漏れ日が当たるところに掘ることを決めた。掘り進めていくうちに急に悲しくなる。涙が溢れそうになるが、グッと堪えなから、掘り進めていった。


アレントの入った棺はなかなかに重かった。周りに人がいないここではフリージアが一人で土の中に棺を入れるしかない。ゆっくりと慎重に棺を入れようとするが、結局棺を落とすような形で穴の中に入れることになってしまった。幸いにも、棺は壊れなかった。フリージアはこの棺の中にアレントがいることを自分で入れたのに、想像できなかった。


しかし、その棺に土を被せ始めた時、


(埋めてしまえば、もう、顔を見れない)


そう思った瞬間必死に堪えていた涙が溢れ返った。


(どうして、何も言わずに逝っちゃったの?)


(どうして、生き返らせることができないの?)


そんなことが頭の中をよぎり、土をかけ進めることができなかった。しかし、このままではいけないと思い、また土を泣く泣く棺にかける。棺が見えなくなった後、フリージアはようやくアレントの死が実感できたようだった。アレントとの会話を思い出す。


「アレントさん、私が、ネクロマンサーに会いにいく。アレントさんの次のネクロマンサーも救いたい。」


そう棺が見えなくなったオリーブの木の下でフリージアは宣言するかのように呟いた。


 書きかけの手紙は一つだけ完成していた。『サフランへ』と書かれた手紙だけが完成していた。結局フリージアは他のネクロマンサーについてほとんど知ることができなかった。そのため、サフランという名前にも全くピンと来なかった。フード付きのマントと、手の甲にある魔法陣を隠すための黒色の手袋、動きやすい靴を身につけ、鞄には若干の硬貨と蝋燭とランプ、手紙を入れた。そして、マントの下にベルトを固定し、拳銃を身につける。


今思えば、ネクロマンシーの制御の仕方を教えてくれたのはアレントだった。ある市場で、大航海時代の骨董品だとして売りに出していたらしい。拳銃には珍しい花の意匠が金具に施されており、フリージアのためにと買ってきてくれた。そんな思い出に浸りながら、この家を離れる決心をする。帰るタイミングも何も決めていなかったが、最終的にここに戻ってくることを誓った。


「いってきます。」


誰も返事をしなかったが、「いってらっしゃい。」とアレントが返事をしたかのようにカーテンが揺れた。

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