第十七話『腕の切断』
フリージアはどんどんと奥の方へと進んでいく。それにカタリーナは忍び足でフリージアの服を掴みながら怯えたようについていった。フリージアはそのことを気にかけたが、カタリーナは止まろうとするフリージアにイヤイヤと首を振った。
奥に近づくにつれて血の匂いがどんどんと濃くなる。その血の匂いは先ほどの銃声によるものなのかは定かではないが、その死に近づいて行く感覚がフリージアは心底苦手だと感じた。
フリージア自身は多少のことでは死なないので、特に問題がないと思っていたが、カタリーナがついてくるのには少しリスクがあると思っていた。カタリーナを背中で守りながら、先ほどの銃のした音のところまでたどり着いた。
地面に倒れている何かを発見する。生体としての反応がなく、死体であることは確かであるが、あの男の言っていた通り、腕が六本ある死体であった。腕が六本、それも左右対称についているが、それぞれの腕のペアで肌の色が異なり、腕の長ささえも違う。刺青のようなものが入っている腕もあった。
(確かに、つぎはぎだ……。)
さらに、フリージアは観察する。観察するまでもないが、頭がないことに気づいた。頭が転がり落ちたように遠くに一つポツンと雑に置かれたようなものがあったが、この頭がこの体に付いていたのかどうかは分からない。頭は綺麗な女性の顔がついており、綺麗な金髪をしていた。しかし、目は白目をむいており、お世辞にも綺麗とは言えないものであった。
首は先ほど見たカタリーナの兄の死体の腕のように何かにもがれたようになっていた。体は女性の体特有の膨らみがあり、そのような部分を覆い隠すように、このような死体には似つかわしくない白色の絹が巻かれている。
カタリーナは恐怖で足がすくんでいた。フリージアはカタリーナに大丈夫かと声をかけようとした瞬間震えた声で言った。
「あ、あれ、お、お兄様の腕よ……。」
カタリーナはその倒れている死体の腕を指差す。フリージアは
「どれ……?」
と聞いた。すると、カタリーナは近づこうとするが、やはりその死体には近づくことはできず、ある特徴を呟いた。
「腕に、腕に大きな、傷が、あるの……。銃の傷じゃなくて、刀で、切られた、ような傷……。お兄様が、昔、武芸、をやっていた時にできた傷よ……。」
その言葉を聞いてフリージアはその傷のついた腕を探す。死体に触るのには気が引けたが、フリージアはその死体を恐る恐る触った。
(冷たい……。)
その感覚が、フリージアにはこれは死体であるとはっきりと物語っているように感じられた。生気が感じられない。フリージアは腕の軽く持ち上げ、その傷の入った腕を見つけようとした。フリージアは体の首に近い方から腕を持った。最初に持った腕は女性の腕だろうか。肌が白く、手は線が細く、爪が見事に手入れされていた。二つ目の腕は、刺青が入った腕で、大柄な男を想像させるほどの筋肉がついていた。カタリーナの兄の死体を思い出すが、明らかにこの腕でないことは確かだ。
つまりは三つ目の腕がカタリーナの兄の腕なのだろう。フリージアは最後の腕を見る。その腕には、刀で付けられたような古傷が確認できた。フリージアはその腕を引っ張るが取れるはずがなかった。カタリーナはフリージアに言った。
「私、護身用の短剣、を持っているの。……だからこれで……。」
そう言い、カタリーナは自身のスカートをめくり、足に付けられていた短剣をフリージアに差し出した。フリージアは震えているカタリーナの手から短剣を受け取る。
「これで、切るの……?」
「そう、お願い、フリージア……。」
泣きそうになっているカタリーナのその言葉を聞いてフリージアは
「分かった。……ちょっと待ってて。」
と返した。死体ではあるものの、人を刺したことはない。フリージアは短剣に力を込めて、腕の生えている、否、付けれているであろう部分に短剣を振り下ろした。肉に短剣が突き刺さる感覚がフリージアの手を通じ、腕を通じ、脳まで通じてくることを感じる。人間の肉は思った以上に切れにくいものらしい。その感覚に不快感を覚えながらも、フリージアは懸命に腕を切り離した。
もう片方の腕も不快感に耐えながら、切り落とす。カタリーナに腕を持って行こうと思ったが、カタリーナはフリージアの持っている腕を見ただけで、顔を青ざめた。そのことにフリージアは近づくのをやめ、死体が着ていた白色の絹の布を腕を包める程度に切り離したあと、腕を布に包んで、カタリーナの方へと歩いた。
カタリーナはフリージアの顔を見て、少し恐怖した後、フリージアに言った。
「あの、ごめんなさい……。怖くなって、フリージアに、全て、任せっきりで……。」
「……大丈夫。……顔色が悪いよ?……早くお屋敷に戻った方がいいよ。」
とフリージアがいうと、カタリーナは俯きながらうなづき、さらにフリージアを見ていった。
「これで、生き返らせれるの……?」
カタリーナは不安に満ちた表情を浮かべ、フリージアにたづねた。フリージアは抱えている腕を見ながら、無理やり笑顔を浮かべ、
「大丈夫。」
とカタリーナを安心させるように言った。




