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意気揚々と探しに出たは良いが‥‥。
「分かってたことだけど簡単には見つからないか・・・・」
結局なんの成果も得られないままお昼を迎える。
目撃者もいないので無闇に歩き回るしか出来ない、さすがにこれでは厳しいと思う。
赤い首輪をつけた黒猫。
首輪がついてるしここら辺に野良猫なんてそんなにいないから見れば記憶に残りそうだけど見たという人は見つからない。
まだ探し始めたばかりそんなすぐ見つかるはずないか、気長にやっていこう。
でもまずは、
「そろそろお昼にしない? どうせあてもないんだし」
「ああ分かった」
助手はすぐにアリアの提案を受け入れてくれた。
適当に店を選んで買って近くのベンチにでも腰掛けて食べる。
黙々と食べる助手との食事は沈黙しかなかったけど慣れてしまえば心地の悪さは感じない。
でもたまには話をしたくもなる。
「どこにいるんだろうね?」
「さあな」
「あなたならどこに行く?」
猫のことは猫に聞いてみる、それが一番手っ取り早い。とはいえアリアに動物と話せるような能力はないので猫に似た彼女に聞いてみる。似た者同士何か通ずるものがあるかもしれない。
「私か? 私は自分の居場所を捨ててから潜んだのは汚い路地裏だ。そういう所は街中にありながら街から切り離されている、まともな人間は近寄らない、だからこそ人目につきにくく身を隠すならうってつけだ。そんな場所を何箇所か見つけ転々として過ごした」
「・・・それって実体験?」
「ああ」
軽い気持ちで聞いたことに重い答えが返ってきた。
本当にこの子は昔一体どんな生活を送っていたのか想像すらできない。
聞けば答えてくれるのかもしれない、でも今それを聞いてしまえば普通に付き合えなくなるような気がして怖い。同情みたいな感情が邪魔をして正面から向き合えなくなるような気がする。過去はどうすることもできない、何も出来ないのに聞くのはただの興味本位と変わらない。
だから聞かない。
アリアは今のこの子と友達になりたいと思っているから。
まあ、向こうはそんなこと思ってもないんだろうけど。
「そっか」と重い空気を振り払うように立ち上がり「そろそろ再開しない?」と自然な笑みを向ける。
助手はアイデンティティとも言える無表情をその顔に「そうだな」と立ち上がり歩き始める。
午後の強い日差しが肌を焼く、細切れの雲では日差しを隠すのに事足りない。
暑くもなく寒くもないちょうど良い気温の中にいても日光を直に浴びながら動き回るのはやはり辛い。
そんなアリアに反して前を歩く助手はまるで気温の影響を受けていない様に涼やかだ。
長袖の純白のシャツに長いスカート、見るからに暑そう。
アリアはとっくの前に熱気に白旗を上げ袖を捲り上げている、でもそれでも辛い。
というのに助手はおかしいくらい汗ひとつない。
「あなた暑くないの?」
「問題無い」
本人がそう言うならそうなんだろう。
暑さに強い体質なんだ。アリアはどちらも強くない、暑くなれば太陽が疎ましくなり寒くなれば恋しくなる。そんなアリアから見たら少し羨ましい。
羨望とちょっとばかりの嫉妬の視線を助手の背中に送るも気付く素振りも見せなかった。
♢
「もう帰れ」
日が暮れ始めた時、突然そう言われた。
「今日はもう終わりにするの?」
「いや、私はこのまま続ける」
「なら私だってまだ手伝うわよ」
「駄目だ、アリアは帰れ」
「何でよ? 一人より二人で探した方が見つかる確率は高いでしょ、足が限界を迎えるまでは手伝うって」
引きこもり生活だった自分がいきなりこんなに歩いて正直ほとんど限界に近かったけど強がってみた。
「あとは私一人で十分だ、アリアがいなくても問題はない」
それは助手にとっては何気なく発した言葉なのかもしれない、でも何事も悲観的に捉えてしまうアリアの癖は未だ治っておらずその言葉にだって勝手に穿った修正が加えられて届く。
「何それ、もしかして私は役に立たないからさっさと帰れって言いたいの?」
そんな質問を投げかけても助手の表情は変わらない。
そこから次に出される言葉が拒絶だったら・・・・そう考えたら答えを聞くのも怖い。
だから助手が何かを口にしようとしたその瞬間に、
「分かった、じゃあ私帰る」
答えを聞く前にその場を立ち去った。
家への帰り道、自身の情けなさに辟易していた。
どうして答えも聞かずに逃げちゃったんだろう、これじゃずっとモヤモヤしたままだ。
嫌なことを引き延ばしただけの愚かな行いに後悔の念が襲ってくる。
そんな暗い心を引き下げて家に帰り着いた。
いの一番に浴室に向かって汗で張り付いて気持ちの悪い服を脱ぎ捨てシャワーを浴びる。
延々と流れ続けるシャワーのお湯を顔に受け自然と目を閉じ瞑想にふける。
ポタポタと流れ落ちていく水が立てる音は雨音みたいで聞いていて落ち着く、同じ調子の音がひたすらに繰り返されるのは川のせせらぎを彷彿とさせるから。
リラックスした頭で考えた、自分の何が悪かったのか。
頭をひねってひねって考えた。
「・・・・・・・・ダメだ分かんない」
行き着く結論はそれだ。
そんなにうるさくしたつもりもないし困らせる様なこともしていないはず。
むしろその逆だ、こちらの方が困らされた。
助手は人の家の敷地に無断で入っていくし、人に話を聞くときはいつものように『話せ』『教えろ』の命令口調でその度にアリアがフォローした。
役立たずなんて言われる筋合い無いはず。
だいたい助手は無口すぎる。何かあるならその場で言えばいいのに。
「・・・・あーもう、何なのよ!!」
考えれば考えるほど分からなくなる。
浴室から出て髪を乾かし晩御飯の用意をする、その間もずっと理由を考えてしまう。
これが自分のダメなところだ、いつまでも引きずってしまう。
この性格は直さなければならない、過去は引きずってもどうにもならないんだから。
「切り替えよう!」
そう自分に呟いて明日聞けばいい事と割り切った。
そうして出来上がった料理を口に入れる。
「・・・・失敗だ」
余計な事を考えていたせいだろう。




